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諦めて〜。| 読書日記『諦める力』

ああ、何だかとっても心地の良い読書だったなぁ。
諦めることをこれほどまでに、悪くないって言い切ってくれる。そんな考え方に頷きながら読んだ。

そして何といっても著者には実績がある。だからこそ抜群の説得力がある。

為末大さん、かつて男子400メートルハードルで銅メダルを獲得。陸上トラック種目の世界大会で日本人として初のメダル獲得したトップアスリート。

そんなトップアスリートが、諦めることの大切さをひたすら説くというこのギャップがこの本の醍醐味だ。

著者は何を諦めたのか?

それは元々憧れていた100メートル走を諦め、400メートルハードルというマイナーな種目に切り替えたこと。この「諦め」が先の偉業に繋がる。

この諦めた時のエピソードが語られている「十八歳の決断」という章が私にとってはもっとも印象的だった。


18歳の決断

著者は8歳から陸上を始め、早々に頭角を現す。

中学生の時に全日本中学校選手権で複数の種目を総嘗そうなめ。まさに敵無し。

「負ける人は努力が足りないからだ」
と真剣に思っていたと当時を振り返る。

しかし、そんな無双状態に転機が訪れる。

高校三年生のインターハイ。著者はこの時の出来事をこう振り返る。

僕はこの大会で100メートル、200メートル、400メートルの三種目にエントリーしていた。
しかし、顧問の先生が僕に黙って100メートルのエントリーを取り消してしまっていた。
100メートルのスタートリストに自分の名前がない。驚いた僕は先生に詰め寄った。100メートルでの優勝を狙っていた僕は、顧問の先生と言い合いになるほど激昂した。

為末大 「諦める力」18歳の決断より

当時、著者はまさに同世代のトップクラス。

しかし、100メートル走では肉離れを起こしており、身体には100メートル走に向いていない予兆が表れ始めた。

それで先生は早い段階で著者の100メートル走における限界を見抜き、先の判断にいたったのではないか、と振り返る。

著者はこれを機に100メートル走から400メートルハードルへの競技変更という決断に至るのだが、当時は相当に苦しい思いが沸き起こる。

ただ実際400メートルハードルを始めてみると自分に向いていることが感覚的に分かる。そして気づく。

「100メートルでメダルを取るよりも、400メートルハードルの方がずっと楽に取れるのではないか…。」

この気づきこそ、著者の発想の転換となり、結果日本人初の陸上競技でのメダリストという偉業を成し遂げるに至った。


勝ちやすいところを見極める

著者は「手段」と「目的」の違いを明確に意識して、勝ちやすいところを見極めることが大事と説く。

著者が種目変更をした時
「諦めるのはまだ早い」

と周りからは言われ、自らにもそのような葛藤に悩まされる。

しかし「何を成し遂げたいか」ということを掘り下げていくと、大事なのは「100メートル走」という手段ではなく、「勝ちにこだわる」目的の方であるということが見えてきた。

そうすると、勝つためには自分にとって勝ちにくい100メートル走ではなく、勝ちやすい400メートルハードルを選択するというのが理にかなっている、という考えに至り、この種目で世界を目指す確信を得られたと説く。

なくならない何かが残る感覚

「おわりに」で著者はなぜ自分が長きに渡って「勝ちにこだわる」という目的に進むことができたのかをこう書いて締めくくっている。

「平凡な人生を」
「大それたことをしない」  
母のこの言葉は、僕にとっては「保険」のようなものだった。
仮にすべてのものを失ったとしても、僕のなかにはなくならない何かが残っているという感覚だ。

為末大「諦める力」おわりに

このなくならない何かが残っているという感覚こそがものごとに全力で取り組む際にとても有効に働く要素であるというのが著者の結論だ。

そしてこの要素を得るためには、気張らず、執着から離れ、気楽に捉え、どうせやるならどこまでできるかやってみようか、という心持ちになれれば自ずと力を発揮できる状態になれるという。

私の身において考えてみる。

40代、中間管理職、上からも下からもプレッシャーがかかり、自分の実力以上の能力が問われる時期のように感じている。

そんな追い詰められた状況でこそ、まずは自分が勝ちやすい領域を探すのが大事なんだな、と。

営業の売り込みが得意ならチームを巻き込んでガンガン売り込んで売上で実績を挙げる。

一方、チームの調和が得意ならそのチームが最大の力を発揮できるチームづくりに取り組む。雰囲気だったり明確なルールづくりなどを徹底的に行い各自のパフォーマンスを上げることで実績を底上げする、ということと理解。自分はこっちかなと思う。

そして心持ちとしては
「頑張れば必ず結果がついてくる」
なんて気張る必要はなく、肩の力を抜いて
「たかが仕事、どうせやらなければならないんだったら、いっちょうやってみましょうか」

と自然体で取り組む。
こんな心持ちで仕事に取り組めば

「ベストをつくさなければ良い結果にはならない」
「こうあるべきだ」

という凝り固まった威圧的な言葉は減り

「こうすればもっと楽なんじゃないか」
「私はそうは思わない」

といったのびのびとそして主体的な言葉が増えるのかな、とも思う。

この本を読んで、前向きに諦めることが自分らしく生きるための要素なんだな、ということを学びました。

かつてテレビCMで「諦めないで〜」というセリフが流行っていたのを思い出し

「ああー、この本はその逆だな。諦めて〜、だな」

と思ったところからのタイトルでした。分かる人、いるかなぁ。いるといいなぁ。

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