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豊かな食と社会をつくるヒント「循環」久比食卓会議 後編

3月上旬の穏やかな気候のなか、広島県呉市豊町の大崎下島・久比(くび)をめぐるめく事務局と全国各地で食や農に携わるプレイヤー、7名で訪問しました。1日目から2日目の午前にかけてフィールドツアーを行い、循環をテーマに久比地区の取り組みをご紹介いただきました。(フィールドツアーについて、詳しくはこちらのレポートでお伝えしています。)
 
2日目の午後は、訪問メンバーと久比地区で活動する方々が集まっての交流会、「食卓会議」を行いました。

食卓会議とは…地域へのフィールドツアーや交流会を通じて、地域間の学び合いを生み出すプログラムです。地域内だけではなく、地域外からの多様なプレイヤーの関わりが、地域内に新たな食と農のチャレンジを生み出す循環につながることを目指しています。

今回のレポートでは、地域内外の交流会の様子をご紹介します。当日は、お互いのチャレンジを共有し合う場と、食の循環をテーマに「豊かな食と社会をつくるためには?」を話し合う場の2部構成で行われました。


互いのチャレンジを共有

今回ファシリテーターを担当するのは、久比地区で活動するデザインチーム「逍遥学派(しょうようがくは)」のお二人です。まずは、逍遥学派の活動紹介から始まりました。

逍遥学派 大橋まりさん、福崎陸央さん

「私たちは学びの拠点「あいだす」というコミュニティスペースを2022年から運営しています。あいだすには、大人も子どもも垣根なく集まります。特に「何かしなきゃいけない・しちゃいけない」といったルールはなく、自分たちも常々考えながら場づくりをしています。一つだけあるテーマは、「あるものから始まる」ということ。買い物をするにも片道1時間かかる久比では、すでに地域にあるもので工夫することが必要です。それが現代の私たちにとっては学びになると思っています。
 
以前、私たちがお餅つきをしようと思ったら全然うまくできなくって。地域の方が「腰が入ってない!」とか「こういうふうにつくるのだ」と教えてくれました。完璧でないものに、人と人が関わる隙間みたいなものがあるんだと気づきました。それが「間」。「あいだす」は「間(あいだ)」の複数形(間s)なんです。
 
その活動の延長で、デザインチーム「逍遥学派」が生まれました。お金にならなくても、本当はすごく面白いものがあると思っています。そういう理解されづらい活動や領域に、人が関わる仕組みをつくっていきたいです」
 
次に、地域外から集まったプレイヤーの活動紹介です。それぞれの紹介をします。
 
<地域外から集ったローカルプレイヤー>
谷口千春さん|minagaruten
森剛士さん|株式会社ポラリス
森脇暉さん|株式会社レストレーション
杵鞭和也さん|俵山ビレッジ
土居将之さん|楯の川酒造株式会社
山森達也さん|ゲストハウスgiwa
髙石恭平さん|みらい株式会社

minagaruten 谷口千春さん
「広島市郊外の佐伯区皆賀という場所でminagaruten(ミナガルテン)というコミュニティ施設を運営しています。園芸の卸売業を50年間営んでいた倉庫をリノベーションしてつくりました。テーマは「人とくらしのウェルビーイング」。まずは自分自身をしっかり満たして、自然も含めた周囲の環境に幸せを流したいと思います。皆賀は元々、水はけが悪いことから「水長」と書いたそう。治水工事で改善したことをみんなが喜んだ、というルーツが今の「皆賀」になっています。滞りのあるものをしっかり流していくこと、つまり循環させることがキーワードだと思います」
 
株式会社ポラリス 森剛士さん
「元々は心臓外科医で、現在は介護の世界でデイサービスを全国で70箇所ほど運営しています。事業内容は高齢者の介護度改善、つまり高齢者を元気にすることです。日本中の高齢者を元気にすることに挑戦していますが、一社では何もできません。なので、さまざまな企業と連携してコレクティブインパクトを生む形をとっています。最近、Forbesの「世界でインパクトのある事業をしている企業」に選ばれました。「介護のない世界をつくりたい」というまめなの考え方にも共感していて、これからも一緒に取り組みを続けていけたらと思っています」
 
株式会社レストレーション 森脇暉さん
「幼少期は、山口県下関市の端っこのアマゾンみたいな場所で育ちました。地元から出て、たまに帰るたびに何かなくなっていて。高校以外の全ての母校が廃校になってしまいました。その経験から、地方を盛り上げて存続させることをミッションにした会社をつくり、現在はグランピング事業やクラウドファンディングプロデュース事業、動画制作事業を行っています。徹底的なこだわりは、しっかり地元にお金が落ちる仕組みにすること。多くの人に地域の価値を感じてもらえる入口のようなプラットフォームをつくりたいと思っています」
 
俵山ビレッジ 杵鞭和也さん
「山口県長門市の俵山温泉エリアで、「俵山ビレッジ」という事業を行っています。俵山温泉は「西の横綱」との異名がつく、西日本で一番効能が強いと言われる温泉です。「3本足で(杖をついて)来たら、2本足で帰る」という逸話があるくらい。昔は賑わっていましたが、湯治文化が失われつつあったり、コロナの影響で旅館が廃業したり、いろいろな要因が重なりエリア全体が衰退しています。一方、観光客を迎える文化があり、地元の方はとても活気的です。地元の方に支えてもらいながら、20代から50代までの、全国から移住してきたメンバー11人で俵山ビレッジを始めました。僕たちが目指すのは、「健康のディズニーランド」をつくること。食でも農でもサウナでも、手段は問わず健康につながる場を楽しみながらつくっています」
 
楯の川酒造 土居将之さん
「楯の川酒造は、創業190年の伝統地域企業。6代目社長の佐藤淳平を筆頭に、精米歩合99%(米を99%磨いたお酒)という業界初のやり方で、日本酒の価格の限界突破を目指す、ちょっと変わった蔵です。「お米を多く使うこと=環境負荷が高い」のは明らかですが、かといって少量しか使わなければ農業自体は存続しない。一本のお酒を手に取ることで守れる田んぼの広さがわかる指標を設けたり、ブロックチェーンで生産者から消費者までをつなげたり。持続可能性を追求する方法として、さまざまなアプローチをしています」
 
ゲストハウスgiwa 山森達也さん
「僕が住んでいる静岡県三島市は東京から1時間程度の立地なので、リモートワーカーがすごく増えています。僕が移住した2019年からの数年でも、大きな変化がありました。コミュニティスペースや子育ての学校、インキュベーション施設や図書館、僕がつくったゲストハウス、2023年4月にはサウナができます。やりたいことは関係人口創出。すぐに移住・定住に至るわけではなく、何度も訪れ、お試しで住んでみて、と段階が上がっていくものだと思っています。その動機作りとなる、地域コミュニティの窓口としての役割が一番やりたいことです。その取り組みのひとつが、夜1時間だけ開いているバー。1時間だけだと全然儲からないんですけど、この1時間を目指して地域の人も宿泊者もやってくる。この「全員が必ず会う」状況を無理やりつくっているんです。カウンターとお客さんの間も曖昧になっていて、ふらっと勝手に入って、勝手にビールをとって、勝手にお金を払って帰る人とかもいます(笑)そこまで混ざり合うことは狙ってはなかったのですが、いい場になっていると感じます」
 
みらい株式会社 高石恭平さん
「地方を拠点に、メンバー各々の専門性を活かしてコンサルティングをする会社です。自治体のDXやアセットマネジメントを支援しています。その中に農林水産チームがあり、私は耕作放棄地活用の農業法人の設立にチャレンジしています。今考えている活用方法は、耕作放棄地を、有機農業にチャレンジできる場として使えるようにすることです。休耕田は農薬のリセットが終わっていることに着目しました。また、陸上養殖を行っている企業との関わりもあって。「どこでも水産品をつくれる」という面白い仕組みに挑戦している企業のため、みなさまにご紹介できればと思っています」

議論1「食は何を循環できるのか?」

お互いの活動紹介が終わり、3チームに分かれて議論を始めました。最初の議題は「食は何を循環できるのか」。フィールドツアーでそれぞれが感じた「循環」を思い描きながら、「食」があることによってどんな「循環」が生まれているのか、各チームで話し合いを行います。
 
おもしろい方向に議論が進んでいたのは、さまざまな循環の“接点”が食卓という形として現れているのではないか、と捉えたチーム。
 
「生産から加工までの過程でいろいろな循環を起こしてきた“食材”と、社会のなかでまた別の切り口から循環を生み出している“人”。食材と人がもつ循環のバックグラウンドが交差する場所を食卓という形で表現できるんじゃないかと」

<縁側を使って議論するチームも。>

「そもそも食自体が本来は循環しているものですよね。みなさんの活動紹介を聞くなかで、今の社会はその循環の仕方に滞りや問題があるのでは、と。食をテーマにすると循環しているものが見えてきやすいように思います」
 
このように、すでにあらゆるものが循環している社会のなかで、食の位置付けを改めて考えるグループも。そのほか、食が循環させているものの一つである「お金」の役割についてや「感謝や文化を巡らせている」など、なかなか普段であれば考えることもないような議論が行われていました。

議論2「豊かな食と社会をつくる、これからの地域と都市の関係」

さらに議論は発展し、「豊かな食や社会をつくる、これからの地域と都市の関係のあり方」について話し合いました。
 


「まだ少しモヤモヤしている部分もあるんですが……」という言葉を冒頭に置きながら、チームの議論を会場全体に共有し始めたメンバー。
 
「農家さんがつくったものの背景には想いやこだわりがあるけど、その部分は価値として支払われていないよね、という話が出ました。大きな消費地である都市部に価値をわかってもらう必要もあるし、対価を払ってもらいたい。けれど一方で、対価の在り方として、お金じゃない関係もあるんですよね。価値の付け方って難しいと感じました」
 
会場からは「なぜ、モヤモヤしているのか?」との質問が。
 
「なんか結局、都市的な価値の付け方である「お金」に落ち着くしかないのかっていうところかもしれません。資本主義的な「お金」でしか価値を返してもらえないのは、本来は「想い」とは真逆のところなのではないかと
 
次のチームからの共有にも、先ほどのモヤモヤの話題につながる部分がありました。
 
「地方から人が出て、都市からお金が帰ってくるという関係性が基本のなかで、お金以外の尺度として何が生まれるかがポイントになる。最近は地方から人が出ていくだけじゃなく、都市から地方に人が流れる関係性が生まれていて、そこにヒントがあるんじゃないか、という話がでました」
 
「都市と地域が相互依存に陥っているのでは」という発言もありました。生産する地域と消費する都市がお互いに自立できる状態になるためには、何が必要なのでしょうか。
 
「都市は生産性を失ってしまっている側面があるので、どうしても生産する地域に頼らざるを得なくなっています。そうした時にいかに都市から地方に人が来るかということが必要で、互いを知るきっかけになりますよね」
 
一方で、「都市と地域」というふたつに分けるのとは違う考え方も。
 
「東京もひとつの地域。都市と地域というより『都市機能を持った地域』と『自然に近い地域』という地域性の違いがあるのでは。都市部は与えられることを楽しむものかもしれないし、ローカルは自分でつくることを楽しむものかもしれない。『ローカル』といっても場所によって全く特徴が違うため、都市も含めて日本各地の『地域性の違い』と理解するのがよいのかもしれません」

「豊かな食や社会をつくる、これからの地域と都市の関係のあり方」というテーマは、すぐに答えが出るものではありませんが、食という共通点のあるプレイヤーが集い議論をすることで、互いに深い気づきを得ることができたように思います。

「参加する」から、想像できること、わかること。

三宅さんからの挨拶は、めぐるめくが食卓会議で生み出したかったものが言語化されたようなものでした。
 
「全国からキーパーソンがこの場に集っていることが、本当に奇跡的だなと思っています。今この場にはいませんが、今回の企画はまめなの一員であり、ナオライの自然農パートナー・竹田麻里さんがいなければ成り立ちませんでした。こういった“見えない部分への想像”を大事にしたい。僕自身もめぐるめくの取り組みに参加するなかで、目の前の人の背景にどういうストーリーがあるのだろうという想像力がかきたてられて、他の地域のことが知りたくなります。これからも各地とつながっていきたいと感じています
 
三宅さんの発言を受けて、最後に事務局の広瀬も思いを語りました。
 
「私自身も、やっぱり「参加する」ということの重要さを実感しました。自分の手でレモンを収穫したからこそ、そこで聞いた話は絶対に覚えているし、その場で食べることで血肉になっていく。「生産」と「消費」の関係が薄いなかで、「生産」のことを考えましょうと言っただけでは、記憶に残りません。スーパーでどれだけ背景を語っても、なかなか覚えてはもらえません。今回、「知る」だけじゃなく「参加して関わる」ことが重要だとわかったので、我々としては今後も関わる機会をつくっていきたいです。今日の縁をきっかけに、新たな取り組みやつながりが生まれることが「めぐるめく」になっていくんじゃないかと思っています」
 
久比地区のみなさま、本当にありがとうございました!
 
食卓会議のファシリテーション
合同会社逍遥学派 
https://toinotabi-moguru.studio.site/
 
今後もめぐるめくでは、食卓会議を各地で開催予定です。

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