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考えを外に出す勇気

2023.03.10
トウキョウ建築コレクション(通称トウコレ)2023、修士論文展の公開審査会にファイナリストとして参加した。

自分は『中山間地域内で自然形状木の建材利用を容易にする情報技術の研究』というタイトル。曲がりや枝分かれを持った"クセのある木"である自然形状木を、3DスキャンやMR(複合現実)などの情報技術を使うことによって設計や製作に取り込めるようにしよう、ということを試みた研究である。
Youtubeの映像では1つ目(上のリンク)の59:50-で発表、1:32:30-で質疑応答を、そしてを2つ目(下のリンク)の33:40-で先生方と議論している。

"生きた木"をデジタルで扱う挑戦

今回の研究では生きたままの一本の立木をスキャンし、それを伐倒する前に情報環境上で修正を繰り返しながら設計をすることができるシステムを開発した。

自然形状の材をスキャンとモデリングによって扱いやすくしたり、枝分かれを持った木を情報環境上でカットできるようにしたりする研究はあったものの、伐倒する前の木から扱う研究はなかった。
手探りで進めながらなんとか形にはできたもののその段階で提出を迎え、ケーススタディとしての研究成果となり課題が多く残った。まあこれは提出前からわかっていたことだし、むしろ課題を洗い出すというところをゴールとして設定していたところもあったのだけど。

先生方との議論のときは、その前提を理解した上でいくつか質問をされた。
上の映像でも答えてはいるが、その後改めて考えて感じたことがあったのでここに記録も兼ねて残しておこうと思う。

システムの実用化への疑問と期待

Q1: 今回作ったものの用途が不明瞭で、"構造体"と称しつつ遊具・家具としての利用に留まっているように思う。建築の構造体として利用することについてはどのように考えているか?

A1: "人が入ることができる構造体"と設定したものの、時間・サイズの制約があり、用途としては不十分な製作物であったのは事実。
構造解析の導入は重要な課題の一つとしてある。昨年のトウコレに出ていた関口さんの研究では構造解析までやっており、実現可能性は十分にある。ただし関口さんが扱っていた材は直線的なものが多く、自然形状木で同じことをするには応用が必要になる。

今回質疑にあがった構造解析についてだけでなく、UIを改善したりやMR上で設計できるようにしたりすることも重要な課題として挙げられる。
既往研究には、その点でより操作性のいいシステムを開発しているものもある。研究の特徴として挙げたキーワードでもあるが、すでに既往研究などで開発されている様々な手法を"つなぎ合わせ"て自分の開発したシステムへ適応させることで、これらの課題も解決できる可能性があると考えている。

Q2: 今回製作を行った東京の森だけでなく、全国各地に同じ課題を持った森がある。例えば全国のあらゆる残材を集めてデジタルアーカイブにし、そこからデータを引っ張ってきてものづくりができるプラットフォームをつくるなど、サービスとしての考えは?
(最初の問題提起に対する答えとして、もっと社会的なシステムとかも提案としてあるといい、と言う意味での質問だったのだと思う)

A2: 今回の成果には入れられなかったが、可能性としてはあると思う。でも今の状態では費用対効果が良くなさそう。少なくとも自分一人とか、研究グループでとかの規模感で全国の残材を扱えるようにする、というのは難しいように思う、、

プラットフォームを作る上での課題は大きく3つある。
まずは保管場所。扱うサイズが大きいゆえに起きる問題。これは立木のままで扱うことで解決できる(きちんと使われて次の世代の植樹へ循環されれば、の話ではあるが)。
2つ目は運搬。
そもそも価値がつかない木を扱うので、全国のデータを集めても運搬費としてかけられる額には限度があるのではないか。あとこれは個人的な意見になるが、自然環境への配慮として伐倒と植樹の促進を試みているので、遠距離の運搬で二酸化炭素を出すのはなんだか違う気もしている。運搬可能な範囲に制約を設けることは一つの解決策にはなるかもしれない。
そして3つ目はデータの精度。
扱う範囲が全国規模になって、さらに(立木は生き物であり刻々と形態が変わっていくため)データを定期的に更新する必要があることを考えると、自分達だけでデータを収集することが難しい。一般の方も同じようにスキャンしてデータをアップできると良さそう。
今回の研究ではスマートフォンでのフォトグラメトリのデータを扱ったため、多くの人が持っているスマホでも同じようなデータを得ることは十分に可能である。ただいろんな人がアップすることを考えると、そのデータの形式であったり品質の基準であったりを決めておく必要があると思う。

Q3: プレゼンでは研究成果として綺麗にまとめて発表しているが、この研究の今後の展望としてはどのようなことを考えているのか?
(この質問では、今回の研究のもっと先にある野望的なことを聞かれていたのだと思う)

A3: システムの一般化、それによる人々の森林管理やものづくりに対する意識の変革と風景の変化を期待している。
今回のケーススタディであがった課題を改善することで、チェンソーとMRデバイスをある程度扱うことができる人であれば立木から製作をすることが可能になる。そのレベルまでハードルを落とすことができればシステムの利用者が増えたり、それによって自然形状木の価値が高まる可能性があると考えている。
そして価値が高まることで運搬の範囲が広がり、山の麓や街中でも自然形状木を扱ったものが作られるようになり、まちの風景が変わっていくのではないか。

実は大学院入試で研究計画書を書いた当時は、「新しい土着の風景をつくりたい」と書いていた。
その地域で採れる木でつくられた建築やオブジェクトが増えることで、そのような景色が見られるようになったら面白いと思う。

ファイナリストのプレゼンから見た自分の研究

他のファイナリストのプレゼンや質疑を聞いている中で、自分が修士研究や日頃建築について考えていたことに生かせると感じたことがいくつかあったので、そちらについても記録として残しておこうと思う。

清水さん『木造建築の参加型施工・運営手法に関する研究』
シュトゥットガルト大学の学生寮「バウホイズレ」で40年続く、DIY的なメンテナンスと運営の手法に関するリサーチ。
シュトゥットガルト大学にはshopbotなどのデジタルツールも豊富にある。それらが身近にあるはずなのにあえて活用せず、アナログな方法が継承され続けている。不特定多数が参加する施工や運営においては単純なルールとシンプルなツールを使うことが重要である、ということが、よくよく考えればそうなのかもしれないけれど新しい発見のように思った。
高度な技術よりもローテクなことの方が一般化や継承に適しているという事実が、デジタル技術を掛け合わせながら一般化させようとしている自分の研究との対比されて見えた。どのバランス感でデジタルとアナログを取っていくべきなのか、改めて考えさせられる内容だった。

山口さん『都市のオーセンティシティの文脈化を通した河川空間整備の在り方に関する研究 』
土木計画学から考えられがちな河川空間の整備を、都市的な視点から考えていった研究。
現状では平常時と数年に一度やってくる整備期間が分離されて考えられているが、平常時の人々の使われ方を情報として把握し、それを整備の時に反映させていくことが重要なのではないか、という視点を持っているのが良いと思った。これは河川空間に限らず、街であったり、はたまた自分が研究のフィールドとしていた森林であったり、さまざまな場所の整備の仕方に通ずることであるように感じた。
建築という分野において工学的な側面と文化人類学や芸術などとのバランスの取り方を考えることと、この研究での土木的な観点と普段の使われ方や景観などのバランスを考えることが似ていることのように感じた。片方ずつ考えるのではなく、双方を行き来しながら考えていくことが重要だと思った。
社会実験的なことと土木計画が相互に作用し合うことが実現したらもっと豊かな景色が生まれるのではないかと、想像したらワクワクした。

異種競技戦におけるプレゼンとコミュニケーション

今回のトウコレのファイナリストの研究テーマを見ると、私のようなデジタル技術を使ったものをはじめ、歴史的な研究、都市学的な研究、エンジニア色の強い研究など、その幅がかなり広いことがわかると思う。

審査員の先生方もおっしゃっていたが、今回の審査会は異種競技戦であった。これまで建築学生として設計をプレゼンする場ではこれほどのジャンルの違いはなかったと思う。
分かりやすくするために削ろうとすると、自分が背景として大切にしていた行間が抜けてしまう。どのようにプレゼンすれば分かりやすく伝わるのかということにずっと頭を悩ませていたし、持っていったプレゼンや質疑が結果として正解だったのかは分からない。

多ジャンルの人が集まって発表する場では非専門の人でも伝わるような内容や言葉遣いにした方が良いというのは想像がついたし、多少気を付けて話すようにしていた。
でもそれ以上に重要なのは話の組み立て方や伝え方を通して研究に対する熱意や展望を相手に伝えることだということが、今回の発見で1番大きかった。

見事グランプリをとった中西さんはその点が抜きん出ていた。どんな質疑に対しても自分の言葉で答えるし(もちろんそこには見たり調べたりしたことによる根拠がある)、それだけで終わらせず、そこから話を膨らませて自分のフィールドに持ち込む力があった。
その引き込み力は自分に圧倒的に足りないスキルだと思うので、いつか自分もそうなれるように頑張ろうと思えた。

自分の考えを積極的に社会に出してみる

学部生の頃などはこのような場に出展してみようなんて思ったこともなかった。周りにはいつだってすごい人がたくさんいて、自分なんかが出しても、、と思うことばかりだった。
周りにすごい人がいるということは今でも変わりないけれど、そんなことは気にせず、とりあえず出してみて考えればいいや、失敗すればいいや、という気持ちを持てるようになった。

自分の研究や展望、意見は、これまで生きてきて一生懸命考えてきた結果なのだから、周りから見てどうであれ、胸を張って話していいんだよな、と思うようになった。
それを聞いて共感してくれたり、逆に違う意見をぶつけてくれたりすることで、また自分の物事の捉え方が豊かになるような気がしている。

実は今回も出展するか迷っていた時期もあったが、出してみてよかったなと思う。
今後も積極的に気持ちを社会に出して、たくさん失敗して、学び取ろうと思えた体験だった。

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