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「SHOW BOY」感想。わかりやすいエンターテイメントが作れることに大拍手した。

日本がどんどんわかりやすくなっていく。
「『もし高校野球の女子マネージャーがドラッカーの『マネジメント』を読んだら』」は「わかりやすい」から人気になった。
「君の名は。」が「バカにでもわかるエンターテイメント」と言われていた。悔しいことにとても納得してしまった言葉だった。
芥川賞を受賞した「コンビニ人間」は、文学ファンにだけ向けた「バカにはわからない」高貴な文体が受賞する従来の芥川賞作品ではなく、「バカでもわかる」ちゃんと皆が面白いと思える小説だった。
テレビだけでなく、ネットでも多くのエンターテイメントが楽しめるようになって、イベントやSNSなど他にも「楽しい」が溢れてしまっているこの世界で、ファンにだけ向けてきたエンターテイメントは、廃れていく未来しか待っていないのかもしれない。

つい先ほど、「SHOW  BOY」という舞台を観てきた。主演はジャニーズの「ふぉ~ゆ~」というグループ。たぶん、ジャニーズファンでもない限り、知らないグループだと思う。アイドルが主演というだけで、期待値は下がってしまい、何か月か前までの私は素通りするような舞台だ。ちなみに、私はジャニーズのファンではない。ただ、1回だけ彼らを見たことがあって、彼らの全力で「面白い」をやる仕事への姿勢と、人あたりの良さに私はとても関心し、「彼らの舞台が見てみたい」と思った。それだけで見に行った。

「SHOW BOY」はダンスと歌を魅せ、笑い要素がタイミングよく何度もあらわれるコメディ舞台だ。見終わってまず思ったのは、「だいぶちゃんと面白かった」ということ。アイドルというだけで、期待していなかった自分をずいぶんと責めた。演出や構成、物語、キャラクター、演技、すべてがちょうど良かった。ふぉ~ゆ~は4人のグループなのだけど、平等にスポットライトが当たっていて、その配役はファン心理をちゃんとわかっている感がある。リーダーの福ちゃんには、ふぉ~ゆ~の代名詞のようなスキルはとても高いのに後輩に抜かれていくダンサー、お金持ちで残念キャラの越岡さんはしっかり者の子役と絡ませてお金に困っているギャンブラー、お笑い担当の松崎さんには表情豊かなカタコト中国人、おしゃべり担当の辰巳さんにはマジックで観客とコミュニケーションをとらせて意外な真実を抱えたキーマンを。タップダンスやピアノ、中国語、マジック、それぞれの挑戦を応援することもできて、ファンは大満足だったのではないだろうかと思った。物語は、「人を探す」という王道な設定を主軸に、伏線を回収しまくる王道な展開。言葉や小道具でも伏線を回収しまくっていて、考えつくされた脚本と演出に何度も大きな拍手をした。4人の表情や動きでさらなる笑いの要素を追加して、エンターテイメントとしての面白さをひたすら魅せつけていた。なによりその面白さがとてもわかりやすい。バカにでもわかるエンターテイメントだった。4人それぞれのキャラクターの分け方も、物語も、演出も、笑いの要素になるセリフも子供が見ても確実に面白いと思えるレベルのわかりやすさがあった。なんでこんな小さな箱で、お姉さん方に囲まれて、やっているのか不思議なくらいだった。王道のくせに、ちょっとした演出の工夫や演者の演技のおかげで、既視感が持つ「つまらない」という感情を消し、「わかりやすくて面白い」がちゃんと見事に作れることに私はひたすら嫉妬した。多くの他人を観察し、多くの他人のことを考えなければ「わかりやすくて面白い」は作れない。それを作れる人たちは、想像力の豊かな「優しい」人たちということだ。嫉妬に苦しんだ私は、帰りの電車でその舞台を作る仲間になる妄想を何度もした。

たぶん、「SHOW BOY」のような「わかりやすい」エンターテイメントはこれからも増えていくと思う。エンターテイメントは、幅広い人に好かれるようにデザインしていくしかない。だからこそ、ふぉ~ゆ~の4人を含めて、「わかりやすくて面白い」が作れる人は、今後のエンターテイメントには必要だ。私は、ふぉ~ゆ~が大きな舞台をやる未来をここに予言しておこうと思う。ついでに私も仲間として参加できたらいいな。

いつもお付き合いいただきありがとうございます。