死ぬまで生きる

疲れた。
人間関係に。
恋愛とか友達とかに。
働くことに。
生きていることに。

泥のように眠りたい。
泡になって消えてしまいたい。

嫌なもの全部取っ払ってしまいたい。
でもそんな簡単にはいかない。
大人になるってそういうことかと思った。

何も考えず鞄一つで東京に来たときのように
全て置いて何も持たずにどこかへ行くなんて
今はもうできなくなってしまった。

本当はできるかもしれない。
けれどあれもこれもそれも捨てられない。
何も捨てられない自分が嫌になる。

心に余裕がない。
大好きなものに熱中することすらできない。
本を読んでも音楽を聴いても落ち着かない。
料理をすることすらもう一週間はしてない。

ないないない。
出来ないことばっかり。

仕事に行けない。
逃げられない。
どこにも行けない。

今ここにいるのに
私は確かに生きているのに
存在しているはずなのに。

自由ってなんだ。
ちゃんと生きるってなんだ。

本当に自由だった私はもういない。

守りたいものがなくたって
誰にも縛られてなくたって
自分で自分を縛っている。

やりたいことがなんにもない。
私の居場所もどこにもない。

ただ息をしている。
ほんとにそれだけ。

息を吸って吐いて瞬きをして。
少し飯を食って寝て起きて。

それだけ。

気力とか元気とかそういうのがない。
散らかった部屋の片隅でうずくまる。
生きる意味なんてどこにあんだよ。

死にたいなんて思ったりする。
でも実際に死のうとなんてしない。
ただの逃げ道でしかない。

別に死にたいわけじゃない。
生きていたくないだけ。
消えてしまいたいだけ。

私が稼いだお金で買ったものしかないこの部屋が
今まで私が生きてきた証だと思った。

私が自分の意志で作り上げた人生の見本みたいで
そこに未来が見えるものが何一つないことに
ほんの少しだけ安心して
そしてちゃんと絶望した。

お金より大事なものなんていくらでもあるのに
あの頃の私はそういうのに心を奪われていたのに
やりたいことも行きたいところもあったのに。

他人と自分を比べるなんてことはしない。
今の自分と昔の自分を比べて死にたくなる。

パスワードを昔の恋人の誕生日にしていた。
SNSのIDにI LOVE YOUを忍ばせていた。
他の男と会ったあとに好きな男の隣で眠る。
そんな自分が心底惨めで汚くて馬鹿みたい。

愛に飢えて
金に囚われて
欲を満たして

振り返ってみたらそこは酒池肉林。
大事なものなんて何一つなかった。

他人に興味がないのに愛されたい。
何もしたくないけど生きていたい。
死にたくないけど消えたい。
矛盾まみれで笑っちまう。

どこにいるのが正解なんだろう。
どこへ行ったって私は私でしかなくて
きっとまた自分を嫌いになるんだろう。

そうだ、死んでしまおう。
もういっそこの人生を捨てちまおう。

でも後がめんどくさくならないように
できるだけ迷惑をかけないように
ゴミをまとめて
書類を整理して
コスメと服を売って
布団を干して
綺麗に片付けておこう。

そんで綺麗な景色を沢山見に行こう。
せめて最後だけは綺麗なものに囲まれていたいから。
美しいものを見て満たされていたいから。

それから美味しいものも沢山食べよう。
もう太るとか気にしなくていい。
生活費なんて考えなくていい。
好きなだけ食べてしまおう。

あぁそうだ。
死に場所も探さなくちゃ。
あんまり人に迷惑をかけないところ。
静かで綺麗な森の中とか海沿いの崖とか。

それに遺書も書かなくちゃね。
何も言わないときっと心配する人がいるから。
お手紙を沢山書こう。
普段言わないありがとうをちゃんと伝えよう。
最後くらい素直にならなきゃ。

やることがいっぱいあるなぁ。
それまで生きなくちゃいけないな。
でもちょっと気持ちが楽になったな。

だって私はいつでも死ねるんだ。
だからどこにだって行けるし何でも出来る。
もう自分で自分を縛る必要すらないんだ。

その気になれば明日にでも死ねる。
そう思うだけですごく自由になれた気がした。

もし死ぬ準備が全て整ったとき
もう少し生きてみようと思えたら
私はこの世界をまだ好きでいられるのだろう。
自分をまだ見捨てないでいられるのだろう。

そうしたらあとちょっと生きてみよう。
明日はいい事があるかもなんて思いながら。
きっとなにも変わらない明日を生きる。

そう思えなかったのなら
この世界に私の居場所はもうないのだろう。
その時は潔く死んでしまえばいい。
何も問題はない。

未練なんて残らないように
死ぬまでにやりたい事をやる。
会いたい人に会って
食べたい物を食べて
行きたい所に行って
当たり前の事を全力で目に焼き付けて。
普通の人が普通にしている事をしよう。

ほんの少しの間でもいいから
普通の人になってみたいんだ。
どうせ死ぬんだからそれくらいさせてよ。

人間みんないつかは死ぬんだ。
いつ死ぬかを自分で決めたっていいじゃないか。

神様なんていたとしても
見てるだけで何もしてくれやしないんだから。

自分の人生は自分で決めろ、なんて言うのに
自分が死ぬ時を自分で決めちゃいけないの?

死んだら負け、とか
死ぬのは逃げ、とか
そんなことはどうだっていいんだ。

私は誰かのために生きてるわけじゃない。
私が苦しんで悩んで泣いたって
それを誰かが背負ってくれるわけじゃない。
誰かが決めたって行動するのは私だ。
だったら自分で決めて行動するよ。

いつ死ぬかもわからない。
死にたくなくなるかもしれない。
生きる意味ができるかもしれない。

でも今の私は死にたいと叫んでる。
だから死ぬことにした。

未来の私が生きたいと思うなら生きる。
でもそれまでは死ぬために生きる。

これから死ぬまでの私が
きっと今までの人生で一番楽しい。

可笑しいね。


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