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地域が健康になるような新しい流れを創造する「ソトコト」編集長 指出 一正さん

日本中にローカルとの豊かな出合いを増やす。
「関係人口」の提唱者・指出一正さんにお話を伺いました。

プロフィール
『ソトコト』編集長。1969年群馬県生まれ。上智大学法学部国際関係法学科卒業。雑誌『Outdoor』編集部、『Rod and Reel』編集長を経て、現職。島根県「しまコトアカデミー」メイン講師、静岡県「『地域のお店』デザイン表彰」審査委員長、奈良県「奥大和アカデミー」メイン講師、奈良県下北山村「奈良・下北山 むらコトアカデミー」メイン講師、福井県大野市「越前おおの みずコトアカデミー」メイン講師、和歌山県田辺市「たなコトアカデミー」メイン講師、高知県・津野町「地域の編集学校 四万十川源流点校」メイン講師、岡山県真庭市政策アドバイザー、富山県「くらしたい国、富山」推進本部本部員、鹿児島県鹿児島市「かごコトアカデミー」メイン講師、上毛新聞「オピニオン21」委員をはじめ、地域のプロジェクトに多く携わる。内閣官房まち・ひと・しごと創生本部「わくわく地方生活実現会議」委員。内閣官房「水循環の推進に関する有識者会議」委員。環境省「SDGs人材育成研修事業検討委員会」委員。内閣官房まち・ひと・しごと創生本部「人材組織の育成・関係人口に関する検討会」委員。国土交通省「ライフスタイルの多様化と関係人口に関する懇談会」委員。総務省「過疎地域自立活性化優良事例表彰委員会」委員。著書に『ぼくらは地方で幸せを見つける』(ポプラ新書)。趣味はフライフィッシング。

記者:本日はどうぞよろしくお願いいたします。

指出一正(以下、指出敬称略):よろしくお願いします。

記者:どのような夢やビジョンをお持ちですか?
指出:夢やビジョンではないかもしれませんが、自分の中で大事にしているのは、2種類の魚のこと。イワナとタナゴです。イワナは森を象徴する魚で、タナゴは田んぼを象徴する魚。いずれもその土地の豊かさを表しています。ぼくは小学2年生のときから釣りのことばっかり考えていて(笑)
大学に入ってからは山登りを始めて、釣りと山登りに夢中だった20代を東京で過ごしていました。当時『山と溪谷社』という出版社が発行していた『Outdoor』という雑誌の編集部にアルバイトで採用されました。そしてそのまま編集者となり、いまに至っています。雑誌やメディアをつくることはもちろん大好きなのですが、根底にあるのは、自分が愛してやまないイワナやタナゴのような魚たちがいっぱいの素敵な世の中になってほしいということです。日本各地のローカルに、最高に健康的な魚たちがいっぱいいる社会はかっこいい。そして都会的なものばかりでなく、中山間地域が保っている美しさや文化を「おしゃれ」だと感じられる価値観にバージョンアップしていくことと、それを普通に享受できる社会をつくることが大事です。いまぼくが『ソトコト』というメディアを通して発信していることは、そういう意味合いも強いかもしれない。これは自分の夢にも帰結していて、「バックキャスティング」(「こうありたい」という未来の目標を定めて、そのためにいま何ができるかを考え、行動していく)の思考とも言えそうです。

記者:それを具現化するために、どんな目標や計画を立てていますか?
指出:「いただいた依頼を断らない」ということですかね。自分という人間のできる範囲をあんまり決めすぎてしまうと、ある一定のコミュ二ティの中でしか、仕事や社会が回らない。それって居心地はいいんだけど、新しい可能性やシナジーが生まれにくいんです。だからこそ、『ソトコト』というメディアの本来の仕事はもちろん行うけれど、それと同時に、地方創生や未来づくりに関する新しいタイプの依頼をいただいたら、断ることをせずにずっと受け続けています。地域の婚活プロデューサーの仕事もお受けしたことがあります。すべて誰かがぼくに「あいつなら、やってくれるだろう」と、期待して依頼してくださる仕事です。そういった依頼にお応えしていくと、結果的に、いままで自分が出会えなかった人たちと出会う近道にもなるし、自分では突破できなかった社会やコミュニティの仕組みの中に入れてもらえたりするものなのですね。やっている最中は、ゲームのテトリスのように、いま目の前で起きていることに必死なのですが。

記者:その目標に対して、現在どのような活動指針を持って、どのような活動をしていますか?
指出:常に日本のローカルの地域に足を運ぶ。最近では、1週間のうち6日間は地域にいることも多くなりました。それぞれの地域の情報を共有し、よりまぜこぜでフラットになっていったらと考えています。例えば、昨日青森で出会った若者がやっているおもしろいことと彼らの存在を、今日出会う鹿児島の若者へ伝えること。いまこの日本中のローカルで起きていることを、可能なかぎり時間差とエネルギーロスがない状態で伝えたい、本当の地域のことを届けたい。コミュニティと情報の運び屋ですね(笑)。距離や時空を超えるというのは、何もエスパーだけがやることではありません。一般の人たちが、自分たちでできる地域の盛り上がりやローカルプロジェクトを「これもおもしろいんだよ」って自発的に発信して、隣の友達をいかに誘えるきっかけをつくれるか。みんな、気軽に誘い出せないのは、人間ってそんなに変わったことをしたくないということを感覚的に理解しているから。ルーティンのほうが居心地がいいし、その地域の常識に則っていたら、誰からも不審がられないし、叩かれないしですしね。ローカルの何かおもしろいことに出合うためには、予期せぬ事象や誰かが始める「普段と違うこと」に対して接点を持つことが大切です。
例えば、東日本大震災が起きたことによって、「東北」という魅力的な場所を首都圏の若者が新たに見つけました。美しい風景と憧れられる大人たち。「ローカルって、こんな豊かなんだ」って。みんながマイナスかもしれないと思うことも、その場所に接触したり、接点を持つことでプラスに転じていくかもしれません。何もウルトラ級のイベントばかりが地域に必要なわけでもありません。みんなが普段好きなことって、クスッと笑えるような、小さくて些細なことだったりする。その些細なことが、実はかけがえのないものだという気がしています。
「ローカルがかっこいいよ」とか、「人と人とのつながりって、面倒くさかったり、汗臭かったりするかもしれないけど、それがうれしかったりもするよね」と誰かが言う。それを「確かにそうかもな」って感じる人が増えていくと、社会が変わっていく。僕はそんな些細なことが大好きで、大きな野望があるわけではないんですよ。編集者の仕事って、誰かの何かに対する接触率や接点率を上げること。そういう意味でいい本とか、売れる本をつくることと同じように「この人とこの人をつなげたら、何が起きるだろう。おもしろいかもしれないな」っていうことを日々、広義の仕事として考え、続けていくことが大切かもしれません。「この地域とほかの地域の人がつながったら、新しいことが起きる」そんな気持ちもありながら活動しています。

記者:そもそも、その夢やビジョンを持ったきっかけは何ですか?そこには、どのような発見や出会いがあったのですか?
指出:ぼくは自分のことをある意味、「環境問題がつくった人間」だと思っています。群馬県高崎市の出身で、小学校のときにたくさんの公害に関する映画や写真を観ました。その中で一番目に焼き付いているのが、合成洗剤でブクブクになった多摩川と、背骨が曲がった生きたフナの映像です。水俣病の悲しい話もたくさん聞きました。日本の公害問題が大変なときの小学生で、魚や自然が大好きな男の子でした。そんなことから、「大人たちがつくった社会の中で起きていることは、間違っているんじゃないか」と考えていました。家ではおじいさんがクジャクを飼っていました。お父さんが仕事の付き合いで、いきなり山を買ってくる家で自然が身近にあったんですね。「なんだ、自然って買えるんだ。
じゃあ、あんなブクブクの悲しい姿になるくらいだったら、自分で川を買ったらいい」。ナショルトラストの思想をはなはだ勝手に体得していました。「社会や自然を変えるのは、誰かに任せるのではなくて、自分でできるじゃないか」っていう発想が、この原体験から来ているかもしれませんね。

『ソトコト』編集部に入って5年ほど経った2008年、東京・渋谷のNPO法人『ETIC.』が主催する「地域若者チャレンジ大賞」という賞の審査員を創設された初回から務めさせていただきました。それまでぼくは、釣りや山登り、キャンプを通じて日本各地の美しい風景が広がる場所にたくさん足を運んでいましたが、いわば「関係人口」ではなく、「無関係人口」でした。例えば、「北海道は最高!」と言いながら、北海道の人を見ているわけではない。単に北海道の風景しか見ていないわけです。つまり、その場所に行くけど、「演者」には興味がなく、「舞台」しか見ていませんでした。そこに暮らす人たちの存在や息づかいには気づくことはなく、「川、きれいだな。山、最高だな。食べ物、おいしいな。あの温泉、よかったな」って。これじゃあ、何のイノベーションにも関われません。「地域若者チャレンジ大賞」の審査員になった際に、『四万十ドラマ』の畦地履正さんや『いろどり』の横石知二さん、『西粟倉・森の学校』の牧大介さん、『巡の環』(現・『風と土と』)の阿部裕志さんといった、地域に根差したイノベーターであるローカルヒーローのみなさんに出会えたことはほんとうに大きかったですね。心より感謝しています。

記者:その発見や出会いの背景には、何があったのですか?
指出:自分が「何かになりたいな」と強く思って、いまを目指してきたわけでもありません。肩書や紹介としては『ソトコト』編集長だったり、編集者だったり、ありがたいことに地方創生のディレクターやプロデューサー、「関係人口」の提唱者のひとりなどと呼んでいただいていますけど、それを明確に目指してきたわけでもない。20代のときは山登りや釣りばかりしていて、当時の同世代の若い人たちが東京に自分のアンテナを張り巡らせるのが当たり前の時代に、東京に住んでいながら、仕事や趣味で日本の中山間地域やローカルに行くという逆の動きもしていた。訪れた地域には、どこもかっこいい風景や建物がいっぱいあって惚れ惚れした。そういう実体験の話を各地の村長や市長や知事がおもしろがって聞いてくださったりしています。「ローカルはいま、人口が減って大変だよ」って一般的には言われるけれど、ぼくからすると、それだけが答えでもありません。「ローカルは、いま、めっちゃ楽しいよ」これも大きな答えです。もちろん、日本の各地の人口は減少していますから、少し先の未来に向かっての考え方はいまから備えておくべき。だからこそ、その地域に住む人たちが増えづらいのであれば、その地域に関わる人を増やせばいい。それも備えのひとつだと、観光以上、移住未満の第三の人口ともいえる「関係人口」を提唱しています。
地域の課題は、人口が減っていることでなくて、まちに関心がない人が多いこと。マルシェやブックマーケット、食事会でもいい。
自分ごととして、まちに関わっていったら楽しいことはいっぱいあリます。そこに住んでいる人と、外からやって来る「関係人口」のみなさんが、おしゃれな共助の関係をつくれたら、最高ですね。
人でもほかの生き物でも事象でも、ぼくたちは小さな存在をもっと見定めたほうがいいと思うし、そのほうが世の中はおもしろい方向に変わっていく。無頓着じゃないものを増やしていきたいんですよね。それがもしかしたら、自分自身の生き方であったり、『ソトコト』という大好きなメディアの楽しい目標かもしれません。

記者:本日は、貴重なお話しありがとうございます。

指出さんの情報はこちらです。
↓↓↓
ソトコトオンライン
https://sotokoto-online.jp/

ソトコトオンラインサロン「ソトコト編集長・指出一正と考える地域の編集講座ラボ」
https://community.camp-fire.jp/projects/view/184056?fbclid=IwAR18J3hmA9QeimozQbbCf0g_SllOqrH1QdjgXXp08NB63ObqziOlDZDAEHI

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【編集後記】
インタビューを担当した、高橋と菱谷です。
指出さんの淡々ですがとても本質的なことを語られる姿勢に、たくさんの人を魅力するのではないかなと感じました。
今後の活躍楽しみにしております。

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この記事はリライズニュース マガジン“美しい時代を創る人達”にも掲載しております。
https://note.com/19960301/m/m891c62a08b36


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