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意味不明小説集

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自分の意味不明小説や、noteで見かけた不条理だったりホラーだったりする、星新一系の意味不明ショートショート(1頁漫画も)をまとめています。
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#短編小説

【怖い話】持ち込み小説

これは出版社で編集者をしているBさんが体験した怖い話。 昔から物書きの登竜門として"持ち込み"という方法がある。 直接、出版社に作品を持ち込んだり送ったりして売り込むことで、今でこそ数は減ったものの、持ち込み作品からキラリと光る新人作家が生まれたりもする。 Bさんのもとにも日々いくつもの作品が持ち込まれてくる。 編集者の中には持ち込み作品には目もくれない人もいるが、Bさんは自身も若かりし頃、物書きを夢に見たこともあり、礼儀として持ち込み作品を一つずつ丁寧に読むのを習慣として

ショートショート「法律違反」

 私は目を疑った。  しかし、目の前の光景は現実である。  あの、憧れのアイドル歌手が、酒を飲んで酔っ払っているなんて……。  赤い光に照らされ、窓ガラス越しにうつる顔は、テレビやグラビアでは決して見ることが出来ないものだった。  何より、彼女はまだ十九歳だったはずである。明らかに違法行為だ。  私は意を決して声をかけた。 「あのう、すみません。あなた、ひょっとして、アイドルの……」  憧れの乙女は、ほろ酔い気分の緩んだ声で答えた。 「あれ、バレちゃった?」  何ら罪悪感は覚

職業選択の不自由 (1分小説)

おそれていた「職業選択の不自由案」が、可決された。 政府は、最近「国内総生産、世界第2位奪還」に必死なんだ。 『銀行員の家庭に生まれた子供は、銀行員。八百屋の子供は、八百屋。バレエリーナの子供は、バレエリーナ。 今後、反社勢力以外の、すべての職業を世襲制にします。 親から英才教育を受けた子供たちは、将来に必要な技術を10代で吸収し、やがて、それは我が国の強力な経済力に…』 テレビで、首相の会見を見ていた兄は、怒りをあらわにした。 「やめてくれよな。歌舞伎界に生まれ

ヤツ

「キャッ、キャッ、キャッ」  ヤツが来た。  また啼いている。私を挑発しているのだ。カーテンを開けてオレを視ろ、と。  その手に乗るものか。  私はベッドに横たわったまま目を固く閉じ、下腹に意識を下ろして、長く息を吐く。  そして深々と吸い込む。これ以上吸えないところまで吸い込んだら、また細く長く息を吐き、吐ききってから、ゆっくり吸い込む。いや、吸い込もうとする。  苦しい。肺に空気が入ってこない。 「キャッ、キャッ、キャッ」  息を吸わなくては。  ヤツにしてやられたくない