見出し画像

エドシーランとドライブと東大寺

雑貨屋さんに行こう。それぞれ欲しいものがあった。
と最初は話していたのだが、
気がついたら朝10時に迎えに来るはずの車を待っていた。

「ちょっと遠出したいね」ということで、
どういう流れか紅葉を見にいくことになったのだ。
大学4年間を奈良で過ごした友人が
吉野まで連れて行ってくれることに。カメラの練習も込みで。

二日前くらいから遠足に行くような気分で私はウキウキしながら
おやつは何にしようか。洋服は何を着ようか。などなど考えた。
前日、仕事からの帰りしなに無印に寄っておやつを悩んだのだが、
結果私が食べたいものを買ってしまった。
干し芋と黒豆あられと甜菜糖クッキー。今考えれば渋すぎる。

何を話そうか、車の中でどんな曲を流そうか、
そんなことを考えていたら夜中の2時まで起きていた。

寝坊するかと思いきや、しっかり8時には起きて準備をしていた。
朝ごはんを食べて、メイクもバッチリ。
って思っていたら、二度寝の知らせ。いつも通り。

そんなこんなで家の前で落ち合って車に乗り込む。
久しぶりに家族以外の男性が運転する車に乗ったのだが、
不思議と安心感があった。というか居心地が良かった。

朝ごはんをコンビニで買い、本格的に出発した。
車の中のBGMはお互いが好きな曲を交代でかけた。
スタートは彼がよく聞くK-POPだったのだが、
気がついたら私が好きな曲ばかりかけていた。
洋楽、J-RAP、J-POP、とにかく私が今まで聴いてきたものばかり。
彼はいいね、と文句も言わずに一緒に聴いてくれた。
エドシーランをドライブで聴くという念願も叶った。

話題は将来の話、学生時代の話、今の自分の話、シェアハウスの話、
お互いの地元の話、学びたいこと、多岐に渡った。
彼は大阪人なのもあるが、話していてとにかく面白い。
そして、語彙が優しい。心地がいいのだ。

大阪を出てしばらくすると綺麗な景色が広がる。
紅葉の赤、銀杏の黄色、まだ色付いていない緑
ふと「綺麗だね」と呟くと「ほんまやね」と返ってきた。

今までこんな会話したことなかった。
ハッとした。
今までは綺麗だねと言っても、あそと返ってくるだけだった。
ああ、これが人と話す心地よさなのか。
人と話す意味なのかと感じさせてくれた。

そんなこんなで吉野に到着、
大阪を出た時には晴れていたのに、大曇天。
何を隠そう彼は『曇り男』だった。

二人でゆっくり歩いてランチ場所を探した。
そばにしようとなり、蕎麦屋に入ったのだが、
結局頼んだのは小さな天丼とそば団子。
初めてそば団子を食べたのだが、香ばしくて美味しかった。

店主に「次は蕎麦食べにきてね」
と若干の皮肉を言われつつ店を出て神社を目指す。
到着するなりカメラを構えた彼だが、なぜか電源がつかない。
残念そうにスマホを構えながらシャッターを切っていた。

その後紅葉を楽しみながら歩いていると
ぜんざいが突然食べたくなったそうで、
あたたかいぜんざいと塩昆布をあっという間に平らげた。
奈良公園に行く運びになったので、再度車に乗り込む。

山道を駆け降りてきたのだが、
絶えず車酔いをしていないか気にしてくれていた。
私は車酔いは楽しければ、話していれば、気が紛れていればしないのだ。

もうお昼はとっくに過ぎていて、夕暮れの時間になっていた。
奈良に来たからには行かないとということで奈良公園に到着。
鹿にせんべいをねだられながら、(もちろん手ぶらなので、察してすぐに離れていく)修学旅行生をかき分けて東大寺に駆け込む。

圧巻だった。

鎌倉の長谷寺の観音様も圧巻だったのだが、それ以上だった。
オーラというか、歴史というか、偉人たちの息吹というか、
とにかくすごかった。私はそれ以上に金剛力士像が好みだった。
手彫りで作られているあんなに巨大な像、なかなかない。
関西に来て良かったって思った瞬間だったかもしれない。
見惚れいてると後ろからシャッター音。

車の中で一眼レフを復活させ、
奈良公園で得意そうにシャッターを撮る彼の姿が
なんともかわいらしかった。

鹿と、東大寺の門と、大仏と、写真を撮られ、
東大寺を出た後に見かけた夕暮れが本当に綺麗でしばらく撮影をしていた。
「いいねー」「あ、その顔好き」って言いながら撮影するものだから、
なんだかくすぐったかった。
そして、私も彼のカメラを奪い、オートで何枚か写真を撮った。
抜群に下手だった。マニュアルにはどう考えても負ける。ごめんね。

その後、奈良公園の池の周りを歩きながら見つけた
紅葉の木が街灯に照らされてライトアップされていた。
それを必死に写真を撮る後ろで私も
少しばかりスマホの限界に挑戦したけど、
あっけなく実際に見ている方が綺麗だったので、しばし眺めていた。
その姿がなんだか良くて、全身黒のシルエットのように見えた
彼の後ろ姿を私のカメラフォルダーの中に何枚か残した。

それが今では彼とのLINEの背景だ。

お腹がいい加減空いたので、
切り上げて天理に屋台ラーメンを食べに行った。
ちょっと辛くて、いつも食べるラーメンではなく、
鍋の締めに食べるようなラーメンの味がしてとても良かった。
寒い中で食べるからなのもあるが。

そして最後は私からのリクエストで夜景を見に行った。
暗がり峠。そう呼ばれているらしい。
生駒山を途中まで車で登り、残りの15分ほどをせっせと歩く。
かなりの急勾配なのだが、二人で息を切らせながら、
スマホのライトを照らしながら駆け上がる。

息をのむ美しさ。

その表現がぴったりだった。
大阪を一望しながら、しばし無言でいた。

一度だけ横浜の夜景が見える公園に連れて行ってもらったことがある。
それが私が元彼と見た最初で最後の彼との夜景になった。
そんな話をすると、「今日それを塗り替えたね」と言う。
ああ、ずるい。そんなことを最も簡単に言ってしまうのだから。
「一緒にきた男のことも覚えてるわ」と憎たらしく返すことにした。
ちょっと困ってた。

少し元彼との思い出に浸りながら、
今隣にいる彼のシャッター音が心地よく聞こえる暗闇の中
私は眼下に広がる景色に酔いしれていた。多分ちょっと泣いてた。

自分がとてつもなく小さく感じたと同時に、
私の人生まだまだこれからだなと思った。
なんでか知らないけど。

その後、寒さに絶えきれなかったので、二人で峠を駆け降りて
車に乗り込む。
大曇天だった一日を振り返りながら、
またリベンジしようねと二人で約束した。
私には勿体無い約束かもしれない。
あっという間に家に着いた。

布団のなかで自分でもう一度その日交わした会話を考えていた。
彼の描く未来があまりにも輝いていた。
暗がり峠で見た大阪よりもずっとずっと輝いていた。
そして、私がその日に食べたどんなものよりも温かく
彼のくれた言葉と笑い声が私の心の中に広がった。
きっと私の中で忘れられない一日になるだろう。

私にとって君は笑顔の源。
君にとって私はどんな存在?

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?