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#映画感想文267『イノセンツ』(2021)

映画『イノセンツ(原題:The Innocents/De uskyldige)』を映画館で観てきた。

監督・脚本はエスキル・フォクト。

2021年製作、117分、ノルウェー・デンマーク・フィンランド・スウェーデン合作。

ちなみにエスキル・フォクト監督は、『わたしは最悪。』の脚本家としても有名な方。

主人公のイーダは9歳の女の子。父親が転職し、団地に引っ越してきたばかりで、夏休みなのに誰も遊んでくれない。両親は自閉症の姉のアナにかかりきりで、つまらない。

ちょっと姉のアナに意地悪をしてやろうと、イーダはガラスの破片をアナの靴の中に忍ばせる。イーダは悪い子ではないし、姉のことが嫌いなわけでもない。それでも、そんな気分になってしまうときがある。そういえば、子ども時代の気分は大人のそれより浮き沈みが激しかったかもしれない。

アナの靴下には血が染み込んでいる。同じ団地に住むアイシャは共感性が高く、テレパシー的な能力があり、アナの怪我と痛みを出会う前から感じ取る。自閉症のアナも、アイシャとは心で言葉をかわすことができる。

退屈をしていたイーダが団地周辺を歩いていると、ベンジャミンという少年に出会う。彼はおそらく移民で、白人の子どもたちとは馴染めずにいる。暇な二人が裏山で遊び始めると、ベンジャミンが念動力を見せる。彼は念力(テレキネシス)で物を動かす超能力者で、はじめはビンの蓋を動かす程度だったのだが、能力が覚醒し、彼自身がそのパワーを抑えられなくなっていく。

超能力を持ったアナ、アイシャ、ベンジャミンと主人公のイーダは、はじめのうちは超能力で面白おかしく遊んでいたが、あるとき、亀裂が入り、ベンジャミンの暴力性が止まらなくなり、恐ろしい結末を迎えることになる。

子どもの無垢さと危うさが緊張感を持って描かれており、イーダの勘の良さ、身を引く場面の判断能力の高さにも驚かされた。

実際のノルウェーにも巨大な団地があるのだろうか。(もしかしたら、CGかもしれないが)団地には中産階級もいれば、移民や難民の家庭もあり、ある種の圧縮された社会がそこにはある。

親が知りようのない子どもたちの世界と日常からの逸脱が淡々と描かれ、ある瞬間に崩壊を迎える。

本作は大友克洋の『童夢』に影響を受けたものであると監督が正直に語っており、読んだことのある人はより楽しめるのではないだろうか。

ただ、猫を虐待して、殺めてしまうシーンなどもあり、万人に勧められる映画ではないとも思う。

そういえば、わたしは小学生の頃、少ないおこづかいで猫缶を買って、野良猫の親子を餌付けしたりしていた。怒られるとわかっていたので、親には一切話さなかった。(親は気付いていたかもしれないが)友達とこっそりやっていた。そういう子どもだけの秘密がたまらなく楽しかったことも、ふいに蘇ってきた。猫はどこの社会においても、身近で自由な存在なのだろう。

(それに子どものときは超能力が本気で欲しかった。よく妄想していた。そして、今もほしい)

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