胸元に そっとしまわれた古い写真 本当の祖母は 知らないままに
一昨年、祖母が亡くなった。この祖母がなかなかのツワモノで、何が強いってとにかく気が強い。未婚でわたしの父を産み、ひとりで育て、そして見送った。
そんな環境だったから、しかたなく強くなってしまったのだろうと思った。しかし、そうでもないらしい。
葬儀の席で祖母の妹から聞いた話によると、「昔から強い人だった。姉さんが怖いから早く家を出て、ひとり暮らしを始めた」とのこと。
4人兄弟の長女だった祖母。実は家族に手を上げることもめずらしくなかったそうだ。
祖母はシングルマザーだったが、仕事をしていなかった。年金暮らしになってからも宝石や着物を買い「大人になったらあげる」と幼いわたしによく言った。
市内の中心部にある一軒家に住み、父を県外の私立大学に行かせた。食材はデパ地下で買い、遊びに行くといつも出前で寿司をとってくれた。
棺の中へ花を手向ける際、白装束の胸元に挟まれた2枚のモノクロ写真に気付いた。1枚は、着物姿で踊る若かりし日の祖母。芸者だった。
もう1枚は、こちらに笑顔を向ける若い男性の写真。「誰?」と隣にいた母に聞くと「わからない。でも、あなたのおじいちゃんじゃないわよ」と言う。
「誰なのかわからないけれど、この写真だけ手帳に挟んであったから持たせようと思って」
祖母は何も語らない人だったから、誰も祖母のことをよく知らない。強くて怖かった。綺麗だった。誰に聞いてもそれだけ。
人付き合いもほぼなかった。祖母がどんな人生を送ってきたのかは、誰も知らない。
でも2枚の写真を見て、最後に少しだけ知れた気がした。
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