見出し画像

【知ってる?激レアアメコミ映画】「X-MEN」なのにホラー?突然変異の‘‘いわくつき’’映画『ニュー・ミュータント』

マーベル・シネマティック・ユニバース(MCU)に、DCエクステンデッド・ユニバース(DCEU)…近年、映画界はアメコミ映画全盛の時代を迎えている。毎年、いくつもの作品が公開となり、そのすべてを追いきるというのは、なかなか難しいのではないだろうか?現に、名だたる有名作品たちに蹴落とされる形で、時代の波に飲み込まれてしまったアメコミ映画というのは数多く存在している。ここでは、そんなアメコミ映画の埋もれた名作たちにスポットライトを当てる。

「X-MEN」シリーズを土台としながらも、全く新しいホラー作品として昇華させた異色作『ニュー・ミュータント』は、まさに、‘‘突然変異’’で誕生したかのような一本だった。
2000年の『X-MEN』より幕を開けた映画「X-MEN」シリーズは、これまでにスピンオフ作品を含め計12作品が世に送り出された。
突然変異のミュータントたちの苦悩と葛藤を中心に、現実世界の差別や偏見を孕んだ心揺さぶるストーリーが評価されたシリーズであり、マーベル・シネマティック・ユニバースとはまた一味違う魅力を放っている。
そのユニバースは時間軸が大きく軌道修正されたり、‘‘無責任ヒーロー’’の登場などで拡がりを見せるようになり、今後も領域を広げていくことは明らかだ。
そんな『X-MEN』シリーズには、たびたび公開が延期され続けた、‘‘いわくつき’’の作品があることを知っているだろうか?
2020年にようやく全米で公開された『ニュー・ミュータント』である。

度重なる延期の理由

『ニュー・ミュータント』は、当初2018年4月13日の公開を目指して製作がスタートした。
ところが製作途中で配給元の20世紀フォックスがディズニーに買収されてしまったことから予定が大きく狂ってしまう。
公開日が2019年2月22日、8月2日、2020年4月3日と延期に次ぐ延期の連続となり、このままお蔵入りとなってしまうのではないかという心配がファンの間で囁かれ始めていたのだ。
そして、ようやく2020年8月28日に全米公開。日本ではビデオスルーとなってしまったが、2021年3月31日にリリースされた。

ミュータントたちの隔離施設を舞台にした、ホラー映画

本作は、『X-MEN』シリーズと世界観を共有する「X-MENコレクション」と題された作品であるが、その中身はこれまでの作品たちとは大きく異なり、ホラー要素満載の作品に仕上がっている。
ネイティヴ・アメリカンの居住区を巨大な竜巻が襲い、必死に逃げるダニエル・ムーンスター(ブルー・ハント)とその父であったが、あえなく父が竜巻の犠牲になってしまう。
なんとか逃げ切ることに成功したダニは、とある謎の施設で目を覚ます。
そこにはダニと同じく強大なパワーを授かったミュータントの若者たちが収容されており、医師のレイエス(アリシー・ブラガ)のもと、心理療法が行われているのだった。
そんな中、ダニが施設に収容されると時を同じくして、施設内に不穏な空気が漂い始める。
収容された若きミュータントたちの中に眠る消し去ったはずの過去の記憶が次々と呼び起こされ、彼らを恐怖のどん底へと突き落とすのだった…。

『ニュー・ミュータント』の物語の舞台となるのは、とあるミュータントたちの隔離施設。
精神病院といった方が早いかもしれないが、ここはあえて施設ということにしておこう。
複数の若者たちが謎の施設でセラピーを受けながら、過去の記憶に苦しめられ、次第に自らの精神を解放していく構成は、決して「アメコミ映画」らしいプロットではない。
むしろ、低予算で製作されたホラー作品、もしくは超能力スリラーに近い作風だと言えるだろう。
そう、「X-MENコレクション」である『ニュー・ミュータント』は一種のホラー映画なのだ。

一本で二度おいしいとはまさにこのこと!

前半部は、過去にトラウマを抱えた若者たちが来る日も来る日もセラピーを受け続ける中で、友情が芽生えていく姿を描写。次第に作品全体に不穏な空気が漂い始め、彼らが精神的に追い詰められていく様子が映し出される。
ここまでは「X-MEN」らしさは皆無だと思われるかもしれないが、実はそうでもない。
もともと「X-MEN」シリーズというのは、普通の人間ではない突然変異のミュータントであるキャラクターたちが、その強大な力に苦悩し、そして葛藤しながら前に進んでいく姿を描いてきた。
本作に登場する若きミュータントたちもまた、自らの力が原因で、大切な人を傷つけてしまい心にトラウマを抱えている。
苦悩と葛藤を繰り返しながら、精神的解放へと繋がっていくストーリーが展開されていくのだ。
その過程がより強調された、すなわち「X-MEN」シリーズとはかけ離れた作品のようで、意外にも最も「X-MEN」らしい作品と言えるのである。

それでも前半部は「アメコミ映画」らしさを求めるファンには、やや退屈に映るかもしれない。
だが、心配することはない。この映画は後半部に入ってから怒涛の展開を見せる。
前半部が超能力スリラーならば、後半部は完全なるアメコミアクションなのだ。
隔離施設の裏に隠された真実が明るみになった瞬間から、「アメコミ映画」らしい外連味のあるアクション描写が印象的になる。
その迫力たるや、これまでの「X-MEN」シリーズに勝るとも劣らない、まさに圧巻である。
さらに劇中では2017年に公開された映画『LOGAN/ローガン』とリンクする部分もあり、やはり本作はあくまでも「X-MEN」ありきの作品であることを強調する。
ホラー要素満載の超能力スリラーと「アメコミ映画」。一本で二度おいしい作品と言えるだろう。

次世代を担うフレッシュなキャスト

『ニュー・ミュータント』のキャストには、フレッシュな顔ぶれが揃えられている。
主人公のダニエル・ムーンスター=ミラージュ役に海外ドラマ『オリジナルズ』のブルー・ハント、ダニと深い信頼関係を築くレイン・シンクレア=ウルフスベーン役に『ゲーム・オブ・スローンズ』アリア役で有名なメイジー・ウィリアムズ、魔法を駆使して強大な敵に立ち向かうイリアナ・ラスプーチン=マジック役に映画『ウィッチ』(2015)や『モーガン プロトタイプL-9』(2016)のアニャ・テイラー=ジョイ、強大な力を駆使して戦うサム・ガスリー=キャノンボール役に『ストレンジャー・シングス 未知の世界』のチャーリー・ヒートン、自らの発火能力に苦悩するロベルト・ダ・コスタ=サンスポット役に『13の理由』のヘンリー・ザーガがそれぞれ起用されている。

特に強烈な印象を残すのが、アニャ・テイラー=ジョイとメイジー・ウィリアムズ。
鬼気迫る表情の数々で情熱的な演技を魅せ続けるアニャは本作でも健在。
改めて、彼女の女優魂を思い知らせる熱演だと言えるだろう。
一方で『ゲーム・オブ・スローンズ』では、小さな暗殺者として逞しく成長していくアリアを演じたメイジー・ウィリアムズが、本作では内気な性格の持ち主で、過去の悪夢にさいなまれながら絶叫を繰り返す姿を見事に体現しており、イメージをガラリと変える。
フレッシュな若手俳優たちの好演もまた本作の見どころなのである。
また、若手陣を取りまとめる存在としてレイエス役のアリシー・ブラガも良い仕事ぶりを発揮しており、実に緩急自在かつ狂気的な演技を披露。
『Queen of the South ~女王への階段~』で魅せた貫禄の存在感を本作でも発揮している。

映画「X-MEN」シリーズから誕生した‘‘突然変異’’のホラー作品『ニュー・ミュータント』。
心理的描写が強い辺りは、「X-MEN」初のTVドラマとして製作された『レギオン』を思い起こさせる。
そういった意味でも、今後の「X-MEN」作品は、予想の斜め上を行くような作品が多くなっていくのかもしれない。

『ニュー・ミュータント』は、ディズニープラスにて配信中。

(文・構成:zash)

ここから先は

0字
あなたの知らない「アメコミ映画」と、きっと出会える!

名だたる有名作品たちに蹴落とされる形で、時代の波に飲み込まれてしまったアメコミ映画というのは数多く存在している。 本マガジンでは、そんなア…

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?