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思い出時速60キロ

失恋してしまったから、免許を取った。とかなんとか言ったら、なにがしかの踏ん切りがついたみたいで、かっこいいのかもしれないけれど
本当は別に失恋したからってわけではなくて、前々から免許は取ろうと思ってて、たまたまあいつと別れた時期と免許を取った時期が偶然重なったに過ぎない。運転をしてると車好きだったあいつのことばかり思い出してしまってどうにもよろしくないのである。

免許を取って気づいたこと。

あいつの横、いつもの助手席で見ていた景色と、自分で運転しながら見る景色はまるで別もののようだ。いつも一緒にいて、それでも私たちはきっとそれぞれ別の景色しか見れてなかったのかもしれない。
きっと遠く離れてしまったから、わかる事だってある。
二人の間でどうしようもなくこんがらがって絡まりもつれた糸も今の私だったらきっともっとうまくほぐす事ができるに違いないのだ。
だけどそれは二人の距離が離れてしまったからで、
二人の心が離れてしまったからで、
私の彼に対する気持が冷めてしまったから、そんなふうに冷静になれるのに他ならない。好きじゃなくなることが解決策だなんて。恋愛ってままなりませんね。

なんていってみたり。


恋愛ってしゃらくさいわ。

二人をがんじがらめにした糸はプツリと音をたてきえちゃって、もうどこにも影すら残ってやしない。
解放された私はもう自由だ。免許だってあるし彼の車の助手席に座らなくたって一人でどこにだって行ける。


なのにどうしてこんなに胸が痛いんだろう?


どうしてこんなに寂しいのでしょうか?

自由とはつまり孤独の別の呼び名である。

そういった昔の偉い人はだれだったっけか?

窓を開けると強い風が車内に流れ込んでくる。頬を激しく打ち付けていくその風は思いのほか心地よくもある。願わくば風がしゃらくさい感傷も吹き飛ばしてくれればいい。

私は一人ぼっちで。
だからきっとこれからどこにだっていける。

窓の外を眺めると思い出が時速六十キロで遠ざかっていくのが見えた

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