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理解できないと決めつけないで。【書評】「大人の発達障害」をうまく生きる、うまく活かす 田中 康雄 笹森 理絵

「発達障害」という言葉は、近年、乱発されすぎていて、良識のある医師たちの中にはその傾向を危惧している人も多い。発達障害の専門医である田中康夫氏もその一人だ。田中氏は、発達障害は突き詰めると「すべての方が多かれ少なかれ抱えている特性の一部」だと考えているという。

発達障害というラベルで思考が麻痺してしまうと、それ以上、その人のことを知ろうとしなくなる。発達障害の中には、ADHD・ASD・LDが含まれるが、どれも症状も対処法も全く違う。一つの言葉で括れるようなものではないのだ。発達障害を知ろうとすることは、一人の人を知ろうとすることなのだ。

発達障害者の行動の理由を知る

この本では、仕事面で発達障害が抱える問題の理由と対処法、および、対人関係で抱える問題の理由と対処法が取り上げられている。田中氏は、発達障害という一括りの言葉に満足せず、それぞれの項目で「ADHDの場合は、~~という理由で~~することがある。なので~~するとよい」「PDD(広汎性発達障害)の場合は、~~という理由で~~するので、~~するとよい」と対照しながら解説している。

これはとても大切なことだと思う。出版社の意向もあり「発達障害」というキャッチ-なキーワードで本を出さなければならない著者が多いだろうけれど、発達障害にも、様々な種類があり、問題の原因も対処法も様々なのだ。田中氏は、豊富な臨床経験から、PDDとADHDの違いを丁寧に分けて説明している。(ちなみにPDDとASDはほぼ同義)。

そして、理由が異なれば対処法も変わるので、この辺を丁寧に説いているのはとても助かる。私は個人的に、自分が遅刻してしまう理由に関して、この本を読んで発見があった。自分よりも自分のことを理解してくれているとは驚きだった。さすが専門医だなぁと感服した。

大切なのは「理解」すること

発達障害という安易な言葉。ラベルに依存しすぎないことが大切だ。この本の中で繰り返し出てくる田中氏のメッセージは真剣に考えるべき点だろう。

「自分たちが理解できない人に対して、僕たちは「あの人は理解できなくて当たり前」という仕組みを作ることで安心しようとします。」

「人間理解のなかで、自分たちが理解できない人に対して、便利に「発達障害」という言葉が使われているとしたら、とても哀しいことです。物事をなんでも単純化してしまういまの時代、複雑なことを複雑に考えるのではなく、二項対立の単純な図式で捉えてしまいがちです。あいつは敵か味方か、明るい人か暗い人か、おいしいかまずいか、マルかバツか。でもその図式では多様性を理解することはできません。」(P216)

引用:大人の発達障害をうまく生きる、うまく活かす 田中康夫/笹森理絵 小学館新書

発達障害という言葉を使った時点で、もうそれ以上、理解しなくなる人がいる。「あ~、あいつは発達障害だから、かかわらないほうがいいよ」っていう人もいるよね。または、自分に対してでさえ「自分は発達障害だからしょうがないんだ」と、それ以上の理解をしなくなるかもしれない。

これって、かなり大きな問題だ。発達障害という言葉が知られるようになり、受容的な態度が広がるよりも、差別的・決めつけ的な考え方を持つ人のほうが増えているんじゃないかな。マスコミなどの、安易な言葉の使い方も影響している気がする。この問題根深いけれども。

他者の発達障害も、自分自身の発達障害も、安易に「理解したつもり」にはならないように、これからも注意しておきたい。発達の凸凹は、同じ病名がついたとしても、まったく異なるものだから。

このあたりの問題は下記の本でも詳しく扱われている。

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大人のADHDグレーゾーンの片隅でひっそりと生活しています。メンタルを強くするために、睡眠至上主義・糖質制限プロテイン生活で生きています。プチkindle作家です(出品一覧:https://amzn.to/3oOl8tq