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【れぽ】マティスー自由なフォルムー

先日、国立新美術館で開催されているマティス展に行ってきました。
平日だったこともあり、それほど混みあっておらず比較的ゆったり鑑賞することができました。

▷アンリ・マティス

マティスは野獣派(フォービズム)を代表する画家です。
穀物商の家に生まれた彼は、父親からの期待もあり法曹家を目指していました。しかし、虫垂炎を患ったことで暇潰しにと母から贈られた絵具箱をきっかけに絵を描きはじめ、20代で絵の道へと歩を進めることになりました。
当初、美術学校でアカデミックな教育を受け、ルーヴル美術館でドラクロワなどの作品模写をしていました。
その後、印象派、特にセザンヌの作品に影響を受け、色彩表現を探究し始めました。
色彩の魔術師」とも呼ばれるマティスですが、色彩に加え、線による表現、いわゆるデッサンにも同じくらい力を入れていました。

▷野獣派(フォービズム)

フォービズムは原色などの彩度が強い色を用い、荒々しい筆致で描くことを特徴としています。
1905年のサロン・ドートンヌで展示されたマティスらの荒々しい作品が「野獣の檻」と批評されたことをきっかけに「フォービズム」という言葉が生まれました。
マティスの他にアンドレ・ドランや場合によってはジョルジュ・ブラックもこのフォービズムの画家として上げられる場合があります。

▷アトリエ

マティスは画業の節目でアトリエを移転していました。
アトリエでの制作をメインに活動していた頃のマティスは、オリエント風のオダリスクを精力的に制作しました。
旅先で購入したオリエント風の小物や生活雑貨、家具に至るまでさまざまなものをアトリエ内に配置し、オリエント風の衣装を身に纏ったモデルと共に度々絵画に登場させました。
『小さなピアニスト、青い服』では、手持ちのテキスタイルであった赤いムシャラビエがモデルの背景に描かれています。
また、『ロカイユ様式の肘掛け椅子』ではまるで肖像画のようにヴェネツィアの肘掛け椅子が堂々と描かれています。
このように彼の趣味の一つでもあったテキスタイルの収集やその他のオリエント風雑貨を多く所持していたことはこの頃の彼の作品を彩るのに必要不可欠でした。
アトリエの内部全てが絵画の題材となっていた彼にとって、それは想像力を喚起する精神的な空間として地位を築き上げていました。

▷切り紙絵

多くの作品依頼を受け、制作を仕事にし続けてきたマティスの画業は順風満帆に思われました。
しかし、70代になった彼は大病を患い命の危機に晒されます。手術が成功しなんとか一命を取り留めたマティスですが、体力の衰えが激しく、ベッドの上で制作することも多くなりました。
そこで新たに完成させた独自の技法が「切り紙絵」です。
これは助手にあらかじめガナッシュで色付けをしておいてもらった紙をマティスがベッドの上で切り貼りし制作するというものです。
当時としては技術の後退とも取られかねない技法でしたが、この技法はマティス自身が長年悩み続けてきた「デッサンと色彩の永遠の葛藤」を解決する糸口となりました。彼は「切り紙絵」を「ハサミで行うデッサン」と位置付けたのです。
一冊の本を出発点とした「切り紙絵」は当初、小さめの作品の制作に用いられていましたが、次第に大型の作品やステンドグラスのデザインのための習作などにも用いられるようになりました。
彼の「切り紙絵」の代表としては連作である『ブルー・ヌード』が挙げられます。
中でも『ブルー・ヌードIV』は三種類の青色が使用されており、紙同士が重なる部分が多いことで質量、印象ともに重厚感のある作品に仕上がっています。

『ブルー・ヌードIV』ー アンリ・マティス

なんと中央に位置する太もも部分だけで約10枚もの紙が使用されています。

また、今回の展示の目玉の一つでもある巨大な作品『花と果実』では5枚のカンヴァスを用い、当時住んでいたヴィラに咲き誇っていた花と鮮やかな果実を色彩豊かに彼らしく表現しています。

『花と果実』ー アンリ・マティス

▷人生の集大成 : ロザリオ礼拝堂

晩年、ヴァンスにあるロザリオ礼拝堂を手がける大仕事に就いた彼は、これを人生の集大成として位置付け、総合芸術作品としてデザインしました。
建築家やガラス工、陶工らと共に制作に勤しみ、細かなディテールにまで趣向を凝らしました。
礼拝堂そのものはシンプルにし、ステンドグラスを用いた光の入り方で建築空間の広がりを表現することをコンセプトとし、主に3つの壁画と3つのステンドグラスで構成されています。
壁画やステンドグラスのデザインは実物大の「切り紙絵」を用いて試作を繰り返しました。

ロザリオ礼拝堂のステンドグラス ー アンリ・マティス


また、建築物のみにとどまらず、数種類の司祭服のデザインも手がけました。ゆったりとした近代的なフォルムはなんと海藻のフォルムから着想を得たそうです。
光の入り方に趣向を凝らした事で、時間や季節によって全く別の景色となるこの礼拝堂を見る瞬間としてマティスは「冬の朝11時が一番」と述べています。

日本でもかの有名な『枕草子』で「冬はつとめて」とあるように冬の朝には何か幻想的な雰囲気を感じさせるものがあるのかもしれません。

▷むすび

この記事では絵画を中心にご紹介しましたが、実はマティスは彫刻や舞台芸術、衣装デザイン、壁画など多岐にわたる芸術作品を残しています。
また、今回の美術展では彼の作品だけでなく実際に使用していたパレットや絵画に登場したオリエント風雑貨なども展示されており、マティスの人生をより近くに感じることができました。
『マティスー自由なフォルムー』は5月27日まで開催されています。
少しでも興味を持って下さった読者の方はぜひ、国立新美術館を訪れてみてください。
あなたもきっと、マティスの生を感じられることと思います。

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