カチカチ山_note

めけめけの事件簿~カチカチ山

 昔々の物語
 あるところにお爺さんとお婆さんが住んでいました

 おばあさんは殺されました
 殺したのは畑を荒らしていたタヌキです

 タヌキが畑を荒らしたのは生きるため、そのタヌキを捕まえたお爺さんも畑を守るため、つまり生きるためにタヌキを駆除しようとし、お婆さんがその反撃にあったようです

 事情を詳しく聴いてみると、捕えたタヌキをタヌキ汁にしようと縄で縛りつけ、お爺さんはお婆さんを残して出かけたとのこと

 そこですぐにタヌキを駆除してしまえばよかったのですが、タヌキは興奮させるとスカンクのように肛門腺から臭い分泌液を出します
 その状態ではとても食べることなどできません

 したがって罠にかかったタヌキはかなりの悪臭がしていたと推測されます

 ですからお爺さんは捉えたタヌキが疲れて眠りについたところを水に沈めて窒息死させることで、臭いを消そうとタヌキを縛り付けていたのです

 しかし計算が狂ったのはお婆さんが情にもろかったことと、タヌキがズル賢かったことでしょうかね

 さて、タヌキ

 よせばいいのにお婆さんを殺して、今度はお爺さんを懲らしめようとします

 まぁ、自分は殺されかけたのだから、復讐するというのもわからない話ではないです

 そりゃ、畑を荒らしたタヌキが悪いのかもしれませんがね
 もともとタヌキが暮らしていた土地を最初に奪ったのは人間たちです

 そこでできた農作物を多少タヌキたちが食べたとしても、人間は文句を言えないんじゃなのではないかと、僕は思うのですが、しかし、年老いた二人が、食べていくのも、この貧しい里では容易なことではなかったでしょう

 タヌキにしても、今回はへまをやって人間に捕まったわけですが、もしかしたら親兄弟もそうやって人間に捉えられて、皮をはがれて、毛皮として売られたかもしれないし、彼には彼の言い分もあったかもしれませんが、残念ながら、被告もすでにこの世には居ない

 お婆さんを言葉巧みに騙してまんまと自由の身となったタヌキはお婆さんを殺し、タヌキ汁ならぬ”お婆さん汁”を作っておじいさんに食べさせます

 このあたりからも、タヌキにはもともとそうとうな恨みがこの老夫婦にあったことがうかがえます

 お爺さんはタヌキのもくろみ通りにあまりのことに寝込んでしまいます
 最愛の人を不可抗力とはいえ、食べてしまったのですから、そうとうなショックだったのでしょう

 さぁ、ここでウサギの登場です
 お爺さんの話を聞いて、これは酷いと、タヌキを懲らしめにかかります

 いや、そこおかしいだろう?

 なんでそんなおせっかいをやくのかしらね
 ウサギにはウサギの打算があったのでしょうか

 ”うさぎ追いしかの山 小鮒釣りし、かの川”
 そう、この歌にもあるようにウサギはタヌキ以上に人間に狩られる動物ですね

 そしてタヌキは雑食ですがウサギは草食です
 そしてめっちゃ繁殖します

 ここでタヌキを懲らしめたら、しめしめ食いっぱぐれないくらいのことは、当然考えたのかもしれません

 それにしても合点がいかないのは、タヌキがウサギにころりと騙されたことですね

 カチカチ音がするからかちかち山だとか、傷口に塩を塗るとか、泥の船とかもう見え透いているにもほどがあります

 そこで僕は思ったのです
 嗚呼、タヌキはそのウサギに惚れてしまったのだろうと

 若い娘に惚れ込んだ、中年男のように
 と僕は考えをめぐらせたのですが、僕よりもずっと前にその考えにたどり着いた人がいます(※1)

 太宰治という人なんですがね(※2)

 彼もまた、僕と同じ酒飲みで、おとぎ話を聞いても、いやそれは、ちょっとおかしいんじゃないかなぁ と思ってしまう人だったようですね

 やはり、このウサギ、そうとうの食わせ物ではないのでしょうか?
 泥の船でタヌキを窒息死させて、お爺さんの要望通りに、臭いを取った形で、タヌキを引渡し、お爺さんはお婆さんの墓前にタヌキ汁をお供えしたとかしないとか

 そしてお婆さんとタヌキがいなくなって、一番得をしたのはウサギです
 一気に2人分の食い扶持が貧しい里から減ったわけですし、タヌキを成敗した見返りに、ウサギの生活はお爺さんに保障させたのでしょう

 後妻業というのが、あるらしいのですが、これはまさしくウサギは後妻に入ったようなもの

 ここで疑わざるを得ないことがあります
 もしかしたらウサギとタヌキは最初から知り合いで、お婆さんにタヌキを助けるように助言したのは、ウサギではなかったのかと
 そしてタヌキはウサギに助けてもらったので、疑うことができなかったのではないかと

 しかし、残念ながらむかし、むかしのお話です
 それらを確かめる術はありません
 真相は物語の中に、まだ、眠っているのかもしれません

 では、また次回
 虚実交えて問わず語り

 ※1『新約・カチカチ山』 僕の初期の作品です 

 ※2『お伽草紙』
 瘤取り、浦島さん、カチカチ山、舌切雀が収録され、それぞれ太宰治らしい解釈で書かれています
 僕のお勧めは舌切雀

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