見出し画像

土木、被災地、コメダのはなし

 朝、社長の声による生放送がフロアに流れた。「北陸で被災された方々とそのご家族に寄り添い、全社一丸となって対応していく」、そんなことを話している。建設会社としてできることをしていく所存であり、いま対応中の社員たちには深く感謝すると。
 
 金曜日に出社したときにはまだそれほど情報が集まってなかったけど、火曜日の今日は違っていた。北陸に建設中のいくつかの物件が深刻な事態になっている。中には病院もあって、とりわけここの被害が大きい。
 
 「水と食糧の支援要請に対応中」の文字を見ながら、ニュースを追う。こうしている間にも、土木のひとびとが道路の復旧作業にあたっているはずだ。ここ何日かでいくばくかの寄付はしたけれど、それ以上は何もできないな……と思う。
 
 もっと言えば、いまは何もするべきじゃないのだった。被害の大きかった地域は、当然ボランティアの受け入れ態勢なんか整っていない。素人が手ぶらで行っても迷惑になるだけだ。土木の作業員に混じって復旧作業できないなら、行かないほうがいい。
 
 ニュースでは、自衛隊やヤマザキパン、フジパンの支援が話題になっていた。どの組織も、優れた対応を賞賛されている。いいことだと思うのだけど、同時に、断たれた道をなおしている土木・建築の人たちにもう少し光が当たったらいいな……と思う。
 
 土砂とコンクリートの撤去作業って本当に大変で、やっている人たちが緊急で集められて、お正月返上なのも想像に難くない。その甲斐あって、想像以上のスピードで道路が復旧しているけれど、個人的には現地での夜勤を想像して苦しくなってしまう。
 
 冬の北信越だ。ライフラインが断たれる中での作業が、辛くないはずがなくて。被災した人たちはもちろん、作業員のひとびとの無事を祈るばかりで。
 
 いま自分にできるのは寄付と、復興後に観光に行くことくらいか。旦那さんとは「持ち直すのには何年もかかるから、支援を焦ることはない。そのうち北陸旅行に行こう」なんて話している。悠長に聞こえるけど、いまは余計なことをしないのが大事なフェーズだ。
 
 連日ニュースになっているので、もうこの話題を聞きたくない人もいるかもしれない。直接、被災に関係のない人間にとっては、少しでも明るく日常を過ごすのも大切なことで、だからこの話は一旦、終わりにする。

 
 以下は本日の雑談。

 
 職場で「コメダの豆菓子」をもらった。名古屋発の喫茶店・コメダで、コーヒーなんかを頼むとついてくる。あの豆菓子がそのまま商品になっているらしい。パッケージには「コメダの豆知識」なるものが小さなコラムとして書いてあった。
 
 あの喫茶店は赤いソファで出迎えてくれるが、これは完成に十数年かかった、自慢の一品なのだそうだ。座り心地にこだわって生まれたとのこと。
 
 いい話だな、と思う。少なくとも「客の回転率を上げるために、わざと座り心地の悪いイスを用意する」みたいな、資本主義の権化話よりいい。チェーン店で好きなお店なんていくつもあるけど、コメダも末長くひいきにしたい。
 
 そういえば学生時代、タエちゃんという同期がここの喫茶店で働いていた。横顔のいたって綺麗な人で、最初に名前を聞いたとき「なんか古風だなあ」と感じた記憶がある。おばあちゃん世代に多そうな名前だけど、実際はどうなんだろう。
 
 タエちゃんはフランス語の上手な人で、働くことが嫌いじゃなくて
「お客さん多いときって大変じゃない?」
 というわたしの質問に
「んー、むしろヒマなほうが嫌かも」
 と答える人だった。
 
 「働いているほうが楽」という感覚は、暇な時間をもてあますほうが好きな自分にとっては驚きで、なんだか大人だなあと思った。卒業後、なんの仕事に就いたのかは知らない。彼女のことだから、語学を生かした職業かもしれない。
 
 ひとりで群れずに行動するのが似合う人だった。たぶんいまも変わってないだろう。タエちゃんは、いまでも時々コメダに入ったりするんだろうか。喫茶店に入って、ひとりでフランス語の勉強をする。いまも昔も、タエちゃんにはそれが似合う気がする。
 
 卒業式以来、会ってないけれど、きっと素敵な女性になっているんだろう。豆菓子を見つめつつ、ぼんやり思い出す人がいる。

本を買ったり、勉強したりするのに使っています。最近、買ったのはフーコー『言葉と物』(仏語版)。