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【超短編】夢見る天気予報

「雪は夜明けすぎに、寿司へと変わるでしょう」
 NHKのアナウンサーの声で、部屋の片隅のラジオが喋る。布団の中でまどろみながら、回らない頭で考えた。そうか寿司か。なら外に出たときは道路がぐちゃぐちゃかもしれない。汚れていい服だな、今日は。

 玄関を開けてみると、久々に降った寿司のせいで人々が騒いでいる。
「醤油も降ってくれなきゃよう、これだから使えねえってんだ」「アンタしっかりしなよ、歩けるの?」「こんなに寿司が降るのは政府の陰謀です」「なぜ小麦粉や麺が天から与えられないのか?このような現実は……」

 僕は、醤油皿が必要だと感じて取りに戻った。それにしても圧巻の光景だ。いくら、ウニ、トロ、かっぱ巻き、時々ちらし寿司まで窓の外を飛んでいく。当たったら痛いだろう。頑丈な傘と箸も要る。

 もう一度、戸を開けると、若い女の子が天に手のひらを向けて立っていた。彼女にはトロばかり降っている。おっ、いいね。
「君も食べる?ずいぶんマグロに好かれてるじゃないか」
 女の子は立ったまま
「私はイカが食べたいの。ここにいて動かないまま、イカがこの手に降ってこないと嫌」
 僕は飛んできたエビを捕まえる。「そりゃ残念」

「いつまで降るのかしら」
「もうじき止むよ」
「どうしてそんなことが言えるの」
「寿司にだっていろいろ事情があるんだ」

 話しているうちに寿司の降りは弱くなり、光が差し込んでくる。僕の足元には、キャッチできなかった卵焼きとイカが転がっていた。彼女は空を睨んでいて気づかない。
「ネタ切れよ」
「また今度だね」
そう言って目を覚ました。

本を買ったり、勉強したりするのに使っています。最近、買ったのはフーコー『言葉と物』(仏語版)。