泊 昌史(TOMARI, Masashi)

せかい演劇祭2022劇評コンクール最優秀賞https://spac.or.jp/cri…

泊 昌史(TOMARI, Masashi)

せかい演劇祭2022劇評コンクール最優秀賞https://spac.or.jp/critique/ 「一青窈 x 台湾音楽」http://ja.taiwanbeats.tw/yo-hitoto 震災評論『風化術』http://onlinebarkansuke.booth.pm

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関典子ダンス公演「牧神とニンフの午後」(2月13日改訂ver.2)

 2022年2月12日に投稿したものにさらに加筆し、関さんから指摘いただいた以下の事項を修正しました;動員数は200名!出演者の人数は全部で12名、録音はデュトワのものではなく、パブロフ→パブロワ。  2022年2月12日、オミクロン株が雨季の大雨のようにあたりを覆うさなか、開場した18:30にはすでに100名もの人々がすこしでもよい席をとろうと列をなしていた。開演前には200名を超す人々が席をうめていた。  わたしがいままでに鑑賞したダンスの数などとぼしいものだが、それ

    • アケルマンのフェミニズム映画:「ジャンヌ・ディエルマン」ノート

       シャンタル・アケルマンの出世作、「ジャンヌ・ディエルマン ブリュッセル1080、コメルス河畔通り23番地」を観た。この長いタイトルは一人息子を養う寡婦のジャンヌの宛先だろう。  暖房をつける、息子の靴を磨く、朝食を並べる、息子を起こして学校にやる、食器を洗う、買い物をする、ポストの中身を見て、男と寝て日銭を稼ぎ、夕食をつくり、息子に本を読みながら夕食を食べる癖を戒め、食器をまとめ、ラジオをつけて、息子のセーターを編み、ともに散歩する。淡々と日課が記録されていく過程で、ボタン

      • 「乱世備忘」から「Blue Island 憂鬱之島」へ:「いま・ここ」から歴史の海へと合流する

         陳梓桓(CHAN Tze Woon)「Blue Island 憂鬱之島」を観た。「乱世備忘」のころの、デモのライヴ映像の乱造から脱皮した、建設的な作品が実現した。半世紀の来し方を、世代間の溝を埋めるように、当事者たちが内省的に対話を重ねながら映画を制作していく(dialogue in progress)姿勢に感銘を受けた。  いま必要なのは「挫折」と距離をおき、歴史と国際関係を見つめ直して、100年先をおぼろげにでも見据えることだ。劇中では67暴動、文化大革命、天安門事件

        • 「『ポーランドへ行った子どもたち』-歴史を遡求する主体」

           『ポーランドへ行った子どもたち』は掛け値なしに偉大な映画だ。朝鮮戦争中の50年代、3千人もの戦争孤児を金日成が東欧の共産主義同盟国に寄託した。その一国だったポーランドには、ソ連に送られてほとんど放棄されていた子どもたちと合わせて、1500人もの子どもたちが受け容れられた。ドイツとソ連の侵略を経験した際に子どもだったポーランドの大人たちが、空襲と爆撃によって家族と故郷を失った子どもたちを世話する過程で、チュ・サンミ監督の云う、「傷の連帯」が成立した。監督は実存的な悩みから発し

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          『メイド・イン・バングラデシュ』のフェミニズム

           「メイド・イン・バングラデシュ」を観た。自分の人生にとって大切な五指に入れたい映画だ。  バングラデシュの首都ダカで2013年にラナ・プラザが崩落し、1138が死亡、2500人以上が負傷した大事故が起きた。国の一大産業である縫製業の工場で働いていた工員たちが陸続と犠牲になった。  日々ミシンでTシャツをつくる23歳の主人公のシムは、事故後に給料と残業代の支払いが滞ったことを抗議するも、相手にされない。その途上、労働者の権利を擁護(advocate)するNGOの職員の女性と

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          「「香港スケッチ」評ーまずしいミュージカル」

          「香港スケッチ」を観た。哀しくなるくらい、まずしいミュージカルだった。  日・英・粤(広東語)の三カ国語でやるのは構わないのだが、どの歌唱、音楽、セリフ、踊り、美術、衣裳、そして思想を取ってもプラスチックだった。クリーンなはりぼて。英語で歌えば否が応でもブロードウェイの栄光と聴き劣りしてしまうし、日本語のセリフも文化的リソーシスが枯渇していて急場しのぎだった。粤劇(えつげき)が蔵する民衆知や、王菲(ワン・フェイ)をはじめとする広東語のポップスが活かされるわけでもない。カンフ

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          山口茜「隙き間」と『砕かれた四月』ー市場化、復讐、女性

           サファリ・Pの劇「隙き間」を観た。原案はアルバニアを代表する小説家のイスマイル・カダレの『砕かれた四月』だ。同作はブラジルで映画化されている。映画の原題は”Abril Despedaçado”で、砕かれた四月との関係が明示されているが、英題および邦題は「ビハインド・ザ・サン」と悪訳されている。  原作の妙味や映画化の功罪について、そして演劇版のみごとな演出については後日述べるとして、山口茜が上演台本と演出を手がけた本作では、2作とも異なる解決の糸口を提示した。  見終わった

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          千葉市美術館「ジャポニスム」展-ロシアのジャポニスム

           浮世絵の収蔵と展示で定評のある千葉市美術館の「ジャポニズム:世界を魅了した浮世絵」展を観てきた。  歐米とロシアにまで広がりを見せた近代の特異な芸術運動を、モデルと仰がれた当の北斎や広重らの浮世絵と縦横無尽に並列して対照させる展示は、適切にして広大な現象をかいまみさせるすぐれたものだった。  ゴッホやモネの絵画構成や画題選択への影響はつとに知られていたが、本展で若きホイッスラーや、ビアズリーの版画にもジャポニスムの影響が確認できる点が興味をひいた。『白樺』の柳宗悦が先鞭を

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          「大いなる緑の谷」とノルドストリーム2

           ジョージア映画祭プログラムF「第1回ジョージア映画祭アンコール」と題して4作が上映された。  観た順番に題名を並べよう; 「私のお祖母さん」、「スヴァネティの塩」「少女デドゥナ」、そして「大いなる緑の谷」。  いずれも佳作ぞろいだったが、時事ニュースとからめて、最後に観た「大いなる緑の谷」について書いておきたい。牛飼いのソサナは近代化に順応できない昔かたぎの人間である。少なくとも祖父の代からずっと牛飼いである。ある日長い牧畜生活から帰宅して、一人息子に、天然ガスによって自

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          第8回ザロモン室内管弦楽団定期演奏会

           ルイ・シュポーア(1784~1859)の「マトローゼ」序曲からはじまり、いまやザロモン室内管弦楽団の十八番になったハイドン(1732~1809)から、「交響曲第100番「軍隊」を抑え、フェリックス・メンデルスゾーン(1809~47)の「真夏の夜の夢」序曲で華々しく前半を終える。そして、後半をたっぷり本間貞史(1948~ )の音詩「秋に寄せて-日本の歌による4章」にあてると云う流れは一見作曲家と題名をたどると、春夏秋の季節の流れと古典派からロマン派への発展がたどられているよう

          第8回ザロモン室内管弦楽団定期演奏会

          “Fire Shut Up in My Bones”

           テレンス・ブランチャード作曲の三幕のオペラ”Fire Shut Up in My Bones”を映画館でみた。ニューヨーク・メトロポリタン歌劇場が千秋楽に上演したものを映像化したものである。  標題は原作を書いたC.M.ブローがエレミヤ書20・9から引用した章句である:「もしわたしが、「主のことは、重ねて言わない、このうえその名によって語る事はしない」と言えば、主の言葉がわたしの心にあって、燃える火のわが骨のうちに閉じこめられているようで、それを押えるのに疲れはてて、耐え

          “Fire Shut Up in My Bones”

          悪の非凡さ:笑福亭鶴瓶の『バケモノ』

           きょうは下高井戸シネマで3作の映画をつづけてみた。ルネ・クレールの戦後の映画「リラの門」、若きトーヴェ・ヤンソンを描いた「TOVE」、そして2007年から「らくだ」を中心に話芸に心血を注ぐ笑福亭鶴瓶を追った「バケモノ」だ。  『バケモノ』をみた怪談をかたってみよう。  2004年ごろから師匠の6代目松鶴のおはこ「らくだ」に取組むようになった、釣瓶。ドキュメンタリーはかれのカリスマ性を節々の言動や、ほかの落語家や芸能人からの賞賛と交遊からほのめかしている。大衆演芸がもつ魔力

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          音楽の魂について:「ジャズ・ロフト」と「サマー・オブ・ソウル」をめぐって

           下高井戸シネマでこの夜、「ジャズ・ロフト」と「サマー・オブ・ソウル」をみた。この感動は筆舌に尽くしがたい。しかしあふれる感興に身を任せて体験を記してみた。追って資料を参照しながら、さらに深掘りしたいが、まずはこの小論で映画の上映に感謝をささげたい。おそらくこの確信が、自分の今後の人生にとこしえに火をともしてくれるだろうから。  ジョニー・デップがなぜ映画『MINAMATA-ミナマタ-』でユージン・スミスを演じることにこだわったのか、なぜユージンは撮影を即興になぞらえたのか

          音楽の魂について:「ジャズ・ロフト」と「サマー・オブ・ソウル」をめぐって