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ものがたりと焚き火

次男の幼稚園が冬休みに入ったある日の午前中、どろんこ公園に出かけた。もうすぐ引っ越ししてしまうお友達がいる。幼稚園のみんなで遊ぼうってことになったのだった。午前中に行ったけれど既に焚き火の準備を誰かがしてくれていた。もう火がおきていた。アルミホイルに包んだサツマイモを火の下にもぐらせ、四方に散らばり遊ぶ子どもたちを見ながらおとなたちは代わる代わる火の番をした。炎の1/nのゆらぎのせいだとか、太古からのDNAに寄るものだとか、臭覚が懐かしい記憶にアクセスさせるのだとか、いろんな理由付が言われているけれどとにかく焚き火を囲むと不思議な連帯感が生まれる。それぞれが話をし、聞き、泊まりがけキャンプのキャンプファイヤーを囲む夜更けみたいなまどろみが生まれていた。

まだ遊びたいんだいとごねる次男を公園から引き離し、焚き火の香りが全身についているのを気にしつつ、独立した元同僚を訪ねた。仲間と仕事用の部屋を借りたのだという。半年前の彼とは違う新しい生活がそこにはあり、未来に向けて動き始めた清々しい顔を見た。

夜、長男の空手教室で、お互いの子どもが赤ちゃんの頃から知っているママと話していた。長男の過去についてしまった傷跡を気にしてくれ、なんだか傷などにとても詳しいなと関心して聞いていたら医療をお仕事にされている人だった。彼女は最近また仕事をはじめたんだと言った。

ものがたりをギュッと感じた日。

始まりのすぐ前には何かの終わりがあって、終わりってその次にくるはじまりの後が見えないのでとても不安なのだけど、とにかく進む。そんなことを皆が経験しながらゆくのだな。当たり前のことなんだけれど。朝にあびた焚き火の香りが一日中身体についていて、それはときに感情を割り増しさせたりしながら心地よくいつまでも消えないでいた。




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