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清水義範短編集『アキレスと亀』より「偏向放送」感想

 「(日本人という国民は)排他的な伝統に由来している」「日本でこれまで差別を経験したかと、(家族は)私によく尋ねてきます。その答えは、きっぱりと『はい』です」
 二年前、アメリカ人が書いた英語の本を翻訳したときの自分の訳文だ。日本は西洋人を差別する唯一の国だという話を読んだことがあったが、この質問と答えでなるほどと納得した。
 本作「偏向放送」は、日本で行われている国際マラソンを生中継する日本人二人の会話だけで構成されている。登場人物は放送席のアナウンサーと中継車の解説者だ。ほかの人物は二人の「会話内」だけに登場する。この会話内で、日本人がどれだけ排他的であり、外国人を差別しているかということだけが描かれている。
 本書のマラソンレースでは、アメリカ人が優勝する。著者はアメリカについて、「思考力というものがないまま、雑な頭脳」「精神性も、知性もありません」「頭がラフな国民」「審判が卑怯」と登場人物に語らせている。
 二位はドイツ人であった。ドイツは「いさぎよい、という言葉のない国民」「フェア精神なんかかけらもありません」「ドイツは卑怯」と、これまた「卑怯」である。
 対する日本人は「精神の美徳」「大和魂」を備えている。それがない日本人は「人間のクズ」である。負けた選手は「根性がない」「恥さらし」「頭が悪い」「頭を丸める必要がある」とまで言われている。正しい日本人ならば「知的水準が高く」「正々堂々とフェアに戦い」、そして勝つはずなのだ。
 差別表現にとても気を遣うこの頃にあって、よくぞここまで人種差別、いや国種差別な語を連発させたなぁと思う。頭がよくてフェアに戦い、勝利を収める日本人。この作品ではそれを理想像として掲げている。わたしはこの短編を笑って読むことができなかった。自分もまた、日本人の理想として、スマートに戦いフェアに勝つスポーツ選手や政治家を頭に描いてしまっていたからである。

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