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とうもろこしご飯、そこにある黄色

春の始まりにミモザ、夏の始まりにとうもろこし。黄色いものが増えて暖かくなる。近くのお花屋さんには淡い黄色のひまわりが、ピンクのお花と共にかごに生けられている。

秋には菊花を散らす。銀杏の黄色い葉が落ちて冬は始まり、木々はどこまでも静かになる。節目節目に、そこにある黄色が目に映る。



とうもろこしご飯
とうもろこしを一本、実を包丁で削ぐ。米に水、塩を溶かし、実と裸になった芯を乗せて炊く。炊き上がりに芯を取り出して、酒を振る。少し蒸らして混ぜる。口にするとやわらかな甘味が満ちている。


先日。新しい靴、新しい鞄を身に着けていく日。鳥居をくぐると草木は青く、しっとりと濡れている。落ちた水が道の端を流れる。いつも財布に入れている五円玉を取り出して握る。木々から落ちた雫で、髪が湿り気を帯びる。大事ないとそのままに、境内へ向かって歩いていく。節目のとき、迷うことがあるとき、気が急くとき、手を合わせに来て、おみくじを引く。近くに腰掛け、いただいたお言葉を何度か口にする。いつもどこか思い当たるところがあり、しばらくは手帳に挟み、日々思い返している。

近くに好きなカフェバーがある。壁一面を埋めるレコードから選び音楽を流すお店で、いつも一駅前から公園を抜けて、息をつきながらワインをお願いする。店員さんとは特別お話することもなく、「赤ワインを」と言うくらいの間柄だけれど、「この赤はジューシーな感じで、たぶんお好きな感じですよ」と選んでくださる。

その日もお参りをしてから、いつものように公園を抜けてお店に来た。本を開き、手帳に書き留めながら、自家製のレモネードをいただく。お会計を済ませると、「来週からワインもお出しできるようになるので、よければいらしてください」と。気づかないような距離で見守っていてくださって、特別に言葉を交わさなくてもどこかつながっている。つい、にやけながら「嬉しいです」と言ってしまった。



『居るのはつらいよ』(東畑開人/医学書院)
(余計な詮索はしません。けれど、いつもあなたの時間が心地よいものでありますように、と考えています)という声が聞こえてくるかのようなカフェへ足が向く。

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