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意外な共通点。

 随分前になるけれど、今年の春ごろだったか。
江戸川乱歩の「屋根裏の散歩者」という本を読みました。

江戸川乱歩の本はいろんな文庫から、組み合わせも様々に出版されているのだけれども、私がとったのは、角川ホラー文庫のものでした。
表紙が和柄で綺麗なやつね。

 乱歩の作品は子どもの時から大好きなのですが、大人向け?の本格ミステリーは最近になるまでちゃんと、読んだことがありませんでした。

初めて読んだのは、小学生の時。
行き慣れた書店に突如としてずらーっと並べられた少年探偵団シリーズを発見し、歓喜したのが始まり…。
テレビだったか、怪人二十面相のことは知っていたんです。
でも、当時はそれが今の時代に読めるとは思ってなくて!!
そもそも小説であることにもびっくりして!
しかも三十巻くらいある!!!
「全部そろえて読んでやる~!」と息巻いたことを覚えています。

10冊くらい読んでみて、

「あれ、これいろんな怪人がいるのかと思ったら、
結局、犯人は毎回怪人二十面相なんだ…」

ということに気が付いて。
さすがに全部読むのは、断念したけれど(笑)
なんでか、雰囲気が大好きだったんですよね~。
(魔法人形が一番好きだったな。)

 頭の中での乱歩作品は小林少年中心の世界で止まっていました。
『二銭銅貨』くらいは大学の時に読んだ気がするけれど…それも記憶のかなたへ…。

一度三重県を一人旅する機会がありまして、たまたま立ち寄った鳥羽湾の近くに、江戸川乱歩博物館なるものがあり。
好奇心をそそられて行ってみたんですけど。

少年探偵団シリーズじゃない、大人向けミステリ作品ばかりフューチャーされてて、ちんぷんかんぷんでした。
タイトルを見てもピンと来ない。
それでなくても、人形がけたけた笑い出したり、あやしいライトで照らされていたり。おどろおどろしくて、極彩色のお化け屋敷みたいな謎なところだったんだけど(笑)

読んでから行けば、もっと楽しめたかもしれないのになー。
とちょっと勿体ない気もしたりして。

後悔しつつ、余裕ができた今、ちびちび読んでいるところであります。



でも、やっぱり書き方がうまい…。
「うまっ!!!!」って思わず叫ぶくらい表現がうまい…。
『押し絵と旅する男』とか大好きです。

と、前置きが長くなってしまったのだけども。
今日話題にしたいのは、押し絵の男でもなく、屋根裏でもなく、『暗黒星』というお話です。
これ、屋根裏の散歩者に一緒に収録されているお話なんだけど、あまりメジャーでもないし、乱歩の中では良い出来とは言えない作品だと思います。
ミステリの初期とはいえ、結構突っ込みどころがあるのが否めない乱歩先生です。


 この暗黒星というお話は、ある富豪一家の中で起こった殺人事件に、名探偵明智小五郎が挑むお話です。怪しい殺人予告が届き、家族が順繰りに殺されたり、誘拐されたり、危害を加えられたり…一体犯人は誰なんだ!という、典型的ミステリーの型にのっとったものになりますね。

しかし、この話の構成。
序盤から「犯人はこいつです」と言わんばかりの演出があるんです。

話しに出てくる一家の息子にあたる人物が、
「お父様、僕は恐ろしい夢を見たのです。お父様もお母様も、ひどい死に方をしている夢で…これから恐ろしいことが起こるに違いありません。」
みたいなことを、事件が起こる前、一番最初に言うんですよね。

不穏さをあおる演出なんだろうけど。
ミステリとオカルトは相性はよくても、絶対に相容れないことを考えると、この発言は推理物をよく読んだことがある人なら、「ア、こいつが犯人だ!」と見抜けてしまう発言になってしまいます。

だって、「予知夢を見た」なんて非科学的なこと、論理がすべてのミステリーでは通用しないんですもの。
のちのちになぜ予告的な夢を見ることができたのか、ということにまで、説明をつけなくちゃいけないんだから。
「この人が犯人で、これから、事件を起こす張本人だからこんなことが言えるんだ、つまりは虚偽。」と考えるのが一番理にかなっています。

案の定、読み進めると、「やっぱりな」という展開。
一家一同、驚くなかれ息子が犯人だったんです。父を、母を手にかけ…

暗黒星というタイトルは、近くまでよっても、そこに星があることがわからない真っ黒な星のことを指すらしく、あまりにも近すぎて気が付けない、意外な犯人の存在と重ねて表現しているらしい…。

コンセプトはかっこいいのに…おしい~!!!
わざとなのかもだけど!(笑)


でも、私が一番気にかかるのは、この先なんです。

この少年が罪を犯したのは、一家の主である父親に強い恨みがあったからです。実は、少年はその家の本当の子どもではありませんでした。
けれど、養子という記録もない。

 実は少年の本当の父親は、まったく別のところにいました。そして、殺人事件のあった家族の主(父親)を憎んでいました。
理由は自分の妻をその男に無理やり取られてしまったからです。仕事も何もかも台無しにされ、長い間仕返しをしようとたくらんでいました。
そして、その仕返しは、自分の新しい妻との間にできた子を、この憎き相手の赤ん坊とすり替えることでなされました。

つまり、殺人を企てた少年は生まれたばかりの赤ん坊の時から、この復讐のために一家に送り込まれた人物だったんです。
成長してあるところで、実の父親からことのあらましを聞かされ、自分の本当の両親の無念と憎しみのために、育ての親を殺そうとしていたということになりますね。

なんだかもう、呆れるくらい壮絶な話です。
この落ちになると、やっぱり江戸川乱歩すごい…と思うんだけど。

それはさておき。

私はこれを読んでいて、すごく奇妙な感覚になりました。
というのも、この展開と良く似た話をどこかで見たことがあったからです。

無理やり取られた妻と、赤ん坊のすり替え。

映像的に、断片が頭に浮かぶから、小説じゃなさそう。
え、映画か??? なんだっけ???どこで見たんだったけ???


と、しばらく考えた末に、ようやく思い出したのが。

あの有名なハリー・ポッターの続編、『ファンタスティック・ビースト』でした…。じつは、あの映画にもほとんど同じ設定が出てくるんです!
ミステリではないし、話の筋も違うけど、同じ設定が結構な重要度で、話の中に埋め込まれています。
気づいたときはちょっとびっくりしてしまいました。


いったい、何がこの二人をつなげているのか。

JK・ローリングの読書量は半端なさそう。
とはいえ、江戸川乱歩を読んだことってるのかな? 
江戸川乱歩は海外の推理小説もたくさん読んで研究していたようだけど…。
自然発生的にここまで似ている設定を考え付くものかな。
子どものすり替えとか、妻を奪われたとか、単体ならまだしも。
この掛け合わせでくるってなかなかおこらないと思うんだけど。

もしかして、この二人が参考に読んだ共通のお話が、どこかに存在しているんじゃなかろうか!

とちょっとワクワクしてしまいました。

大正時代の探偵小説家と、現代のファンタジー作家がつながる作品。
どこかに眠っていたりするのでしょうか。

我が七不思議のひとつです。
いつか正解にあえたらいいなぁ。




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