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1963年11月22日。

村上春樹の『偶然の旅人』という話を読んだ。
冒頭から村上春樹本人がひょっこり登場して、これまで自分に起きた「不思議な出来事」についていくつか語ってくれる。

それは、大好きな歌手のコンサートに行ったときに、「絶対あり得ないマイナーな選曲だけど、あの曲とあの曲を歌ってはくれないかしら」と思っていたら、偶然にもその歌手が立て続けにどちらも歌ってくれた、というような、小さな奇跡の連続だった。


不思議な出来事というのは、偶然のふりをして案外頻繁に起っているものなのかもしれない、と彼は考えている。

まったく内容的にはとるに足りない出来事である。それが起こったことによって、人生の流れに変化がもたらされたわけでもない。僕としてはただ、ある種の不思議さに打たれるだけだ。こういうことが実際におこるんだ、と。





 さて、そういう「不思議な出来事」って、私の人生にはあっただろうか、と考えてみる。


そういえば・・・・















札幌に住んでいたころ、私はよく図書館に行っていた。


多くの人が一度は感じたことがあるのではないかと思うのだけど、お金と時間のバランスというのは、有意義な人生を送るためにはとても重要な要素だと思う。

お金だけあっても時間がなければ、好きなことはできない。
時間があってもお金がなければ、好きなことはできない。

学生でも社会人でもなかった余暇期間。
私は贅沢にも後者に苦しめられて、暇を持て余していた。

街の図書館はそういう時、おおいに役に立つ。
無料で本を貸してくれる。


その日も、本を2冊借りた。

1冊目は、「C.Sルイス物語」だった。
C.Sルイスというのは、イギリスの童話作家だ。世界的にも有名な『ナルニア国物語』の作者。これはその一生を描いた伝記のような本だった。
ナルニア国物語がとても好きだったので、ふとこの本が目に入って、「作者はどんな人だったんだろう・・・」気になって手に取ってみた。

2冊目は、「ジャッキー・ケネディ大統領夫人、最後の一日」という、ケネディの暗殺をその妻であるジャッキーの視点から綴った物語だった。
当時、ナタリー・ポートマンが映画で彼女を演じたばかりで、少し興味があったのだ。


私は確かに好奇心に従って、膨大な本がならぶ棚から、無作為にこの2冊を選んだ。

いつもやってることと何ら変わりはなかった。

正直に言って、この2冊の本はそこまで内心に響くような、深い面白みはなかったと思う。
そういう人だったんだなー、そういう事件だったんだなーと、まだ知らなかったことを「へー」くらいに思って読んだ。


ただ、思わず固ってしまう程、びっくりした瞬間があったのは、C.Sルイスの本を読んでいるとき。


病床に付したC.Sルイスがついにこの世を去るときの様子に添えられた、何気ない一文を目にした瞬間だった。


彼の死は、同日にアメリカで起きたジョン・Fケネディ氏の暗殺事件の衝撃により、目立って報道されることはなかった。


慌てて、ケネディの本を開いても、確かに同じ日付が載っていた。


なんてことだろう。



C.Sルイスとジョン・F・ケネディ。
この二人は何の関係性もなさそうに見えて、11月22日という、まったく同じ日にこの世を去っていたのだ。

同じ誕生日、同じ命日の著名人はたくさんいると思う。
こういう選び方をしていなければ、なんてことのない事実。
しかし、私は偶然にもこの2冊を一緒に選んだ。



一体、11月22日は私に何を伝えたいのだろう。
一体なにを読み取ればいいのだろう。


それは考えてみても、ちっともわからなくて。
結局、今になってもわからないのだけど。


ただただ、それが不思議で、おもしろかった。




少なからざる数の不可思議な現象が、僕のささやかな人生のところどころに彩りを添えることになる。それについて僕は積極的な分析をするか?
しない。












おもしろいというだけで十分なのかもしれない。


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