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暗洞に声よ響いて #9

【最初から】
【前回へ】

そして、行く先々で既に狩場が使用され、やんわりと向けられる(ここ使ってんですけど)オーラに抗えず退散を繰り返し、さりとてダンジョン自体から出ることは出来ず、その結果私は第5階層にまで来てしまっていた。
『この階層より上に行くと、一気に敵が難化するようですね。今の装備では攻撃が通じない場合があります』
「このフロアで狩場を見つけたいなあ」
元々はボスが設置されていた”区切り”の階層らしい。さっき調べた。

その時、ドゴン! という音と共に、いかにもファンタジーと言った装備の青年冒険者がすごい勢いで私の目の前の壁に突っ込み、そして、ぶっ倒れた。

ありえん。

そう心中で吐き捨てながらぼくは前に歩を進め……ようとすると、足元が爆発したかのような勢いで前進……否、横方向に跳躍し、行き止まりの壁に衝突。体力が3割ほど削れた。

「だ、大丈夫ですか」
衝撃に朦朧としながら……気のせいだが……身体を起こそうとすると、ハスキーで落ち着いた声がかかる。んんん? これCV誰? めっちゃ好き。いや違う。BGだから地声か?
「あ、大丈夫。大丈夫です」
なんとかそう言いながら座り、コントロールをオールからフルに戻す。
「何が起こったんですか? 敵?」
「いや、オールで動かそうとしてみたんだけど、ステータス過剰でまともに動けなくて……。瞬歩ムズすぎワロタ」
異能バトルの主人公にはなれなさそうだ。

「ワロ……?」
「なんでもない。デス」
しまったぁぁぁ! 古代のオタクかよ。
「まあ、それならいいですけど」
「や、どーもどーも」

イベントに挑んで数時間。未だにお目当てのものは手に入らずにいた。
それどころか、イベントボスが倒せないのである。
「ついにオールコントロール前提のギミックが実装されだしたか……」
エネミー自体のステータスは正直大した事はないと思うのだが、ギミックを満たさなければダメージが通らない。一方、ステータス差があってもプレイヤー側には一定程度はダメージが入るというのがこのゲームの理不尽なところだ。まあステ差があればダメージ0になるとパワープレイが横行して問題が出るのだろうが……閑話休題。

その結果どうなるのかといえば、ボスの攻撃を凌ぎつつも延々と勝負のつかないままクエスト時間が切れ、強制排出されるのだった。

ならばオールコントロールでギミックを攻略すればいいかといえば、この階層レベル帯に比して過剰な各種ステータスは、オールコントロールの際に超人的どころかまともに動けないレベルの身体能力をぼくに与えてくれた。大完!

……じゃなくて。

「オールコントロールで、このレベル帯に適合した初心者……これから勧誘する……か」
最速ゲットする気が萎えてしまったぜ。

そんな事を考えながら先程声をかけてくれた女性プレイヤーさんの去って行った方を何となしに眺めると、そこには高速で攻撃を全て躱し、初期武器と初期防具と初期技で敵をなます切りにする、その、女性プレイヤーさんがいた。

【続く】

資料費(書籍購入、映像鑑賞、旅費)に使います。