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古いボールペンを見つけた日

古いボールペンが出てきた。もう7年も前に他界した父の遺品である。ちいさな段ボール箱一つ手つかずで置いていた。なんだか手を付けることが出来ずにずっとほかっておいたのだ。今回なんとはなしに開けて見つけたのが写真の一番上のボールペンである。父が現役の頃使っていたものであろうから、半世紀も前のボールペンかも知れない。パイロット製の黒赤をノックで使い分けるタイプである。こんなシンプルなデザインの筆記具を最近ではあまり見かけなくなった。もちろん乾き切ったのかインクは出てこない。使ってみようと引き出しにあった同タイプの替え芯を差し込むとちょうどよかった。三菱鉛筆のジェットストリームの替え芯であった。近頃ボールペンも以前より書き易くなった。このジェットストリームやパイロットのアクロボールなどの低摩擦で低ストレスの書き心地のインクが油性ボールペンの主流になっている。

そして、これらのボールペンとその替え芯には互換性のある物がわりと多い。写真の真ん中はアメリカ製、その下はドイツ製であるがどれにもジェットストリームの替え芯を入れている。海外のペンはそれ自体の価格も高いが、万年筆のインクもボールペンの替え芯も異常に高価格である。そして必ずしも書き心地が良いとは限らない。日本の文字と海外の文字の違いから起因するペン先の構造自体の違いとも感じる時がある。ならば、身近にあるそして優秀な日本製の替え芯やインクを使った方が得であり、安心でもある。そして、こんな互換性を自ら調べてネットで公開してくれる人がいる。インターネットの効用をこんな時には感じる。便利な世の中になったものである。

私は文房具が好きで、特に筆記具にはこだわりがある。いつもカバンかポケットに筆記具を入れている。万年筆が多いが、人と会う時、打合せにはボールペンかシャープペンシル、鉛筆を持つことがある。その時の気分次第である。

私は『弘法筆を選ばず』の逆パターンである。好きでこだわりがあるから、たぶん人より詳しいだろう。そして、持つ物一つで気分は変わる。単純な男だなと自身を思うこともあるが、サラリーマン時代初対面の相手の身なりを目にして第一印象が根付いてしまう場合もあったから、大切なことだと考えている。スーツの内ポケットかワイシャツの胸に刺すペンを女性の装飾品のようにも考えていた。

父のペンには印鑑を押した紙をセロテープで貼り付け自身の所有を示していた。今どきこんなことをしている人は少ないであろう。父が丁寧に押した印影を切り抜きボールペンに貼り付ける姿を思い描き私はペンをカバンにしまった。母に比べると思い出の少ない父である。しばらくは父の思い出とともに行動しようと思った。そんなことを考えていると、気がつけば父の命日が二週間先に近づいていた。

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