見出し画像

野良猫プースケの記憶

私が今住む大阪府八尾市は歴史の古い街である。
その中の太子堂たいしどうという地名の中で生活をしている。
日本の仏教普及の大きな起点となった聖徳太子と蘇我氏が廃仏派の物部氏を打ち破り、いくさ前に誓った礼として建立した勝軍寺のある太子堂の近くで生活している。

しかしながら、そんな歴史を全く感じさせない街でもある。
私が初めてこの地を訪れたのはもう40年近くも前になる。JR西日本の久宝寺駅の前身でもあった竜華りゅうげ操車場再開発の計画の現地調査だった。ちなみにこの久宝寺も聖徳太子が建てた今は無い寺の名である。

市役所で再開発の資料を手に入れて付近をうろついたが、季節は夏であった。とんでもなく暑い炎天下をスーツを抱え、タオルを手にして町工場と田畑ばかりの中を歩き、ちょうど昼時、飯屋を探したが見つからずたった一軒あった中華料理屋でなぜかラーメンを頼んでしまい暑さが倍増したことばかりが記憶に残る。

今はマンション、公共施設が立ち並び様変わりしている。新しくなった久宝寺駅はもとあった竜華操車場と吹田操車場を結んでいた貨物専用の大阪城東線を利用した新しいおおさか東線のターミナルともなった。久宝寺駅から奈良まで伸びる大和路線に乗り入れており、新大阪から直通で1時間かからないで奈良まで行けるようになった。

この久宝寺駅からJRに乗り阿倍野でやっている合気道の稽古に通っている。
そして、日曜の稽古後の、陽の高いうちに帰れる時には自転車で遠回りして帰る。そうすると、必ずこのクロネコと出会う。身体はデカいがたぶん野良だと思う。ふてぶてしいヤツで至近距離に近づいてもなかなか動かない。危害を与える人間じゃないと分かっていてくれるならば嬉しい。

今日は脱穀した籾殻にかかったブルーシートの上にいた。太陽の熱を吸収して温かい場所なんだと思う。いつもこんな目である「何か用があるのか」と。私は何も用事は無いのである。ただ存在を確認できればいいのである。どんな生活をしているか考えても仕方ない。あれだけしっかりした体格を維持しているからメシを食える場所があり、寝る場所もあるに違いない。たぶん逞しく、人間を見極めることも出来る猫なんだと思う。

こいつらの先祖は蘇我と物部の戦を見ているかも知れない。猫好きな兵士に餌を分け与えてもらった仲間や、そのまま飼い猫として兵士の故郷で幸せに暮らした仲間がいるかも知れない。そんな楽しかった思いがこいつのDNAにあるのかも知れない。猫の記憶を私が知る由もないがこいつの目からそんな郷愁を感じる。そんなことを考える方がおかしいのであろうがいつも想像している。
私も猫として生きた時期があったのかも知れない。それも野良猫として。
そして、次に生まれ変わる日が来たらまたしばらく猫を続けてみたいと思っている。
久しぶりに野良猫となってしばらく生きてみたいと思っている。


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?