見出し画像

すけっちぶっく

小学生の頃は憧れだった。
小学校からの帰り道、同じく学校帰りであろう、可愛い制服に身を包み、楽しそうにお喋りしているお姉さんたちとすれ違った。
ランドセルを背負った私には、とても、

"きらきら”

した、オトナに見えていた。

そんな憧れていた「高校生」になり、
実際の所、全然、オトナじゃない。
まだまだ、心もカラダも、餓鬼、だった。

学校祭で男の子にナンパされて。
体育祭で頑張ってる姿を見て、つい目で追いかけてしまって。
野球部の彼に吹部の彼女が甲子園に行ける様に手作りのお守りを。(少女漫画の見過ぎ)
お休みの日はおそろこーででぃずにー。
なんて青い春は来なかった。

全然"きらきら“ なんかしていなかった。

毎日、怠い、面倒臭い、と思いながら、通っている通学路には、私が見る二度目の桜の景色が映し出されていた。

高校二年生。
くだらない学校カーストのポジションは、何とか底辺より少し上を保ち、幸いクラスの人には無視される事は無い。居ても居なくても良い空気みたいな存在の自分だけれど、無害ならそれが一番幸せ。と思いつつ。 

地毛と誤魔化せる程度に髪を染めて、コテでゆるく巻いて、先生に怒られない程度にメイクして。
(うちの学校は割と校則が厳しかった)
休み時間になるたび、定位置に集まり、彼氏や流行りのアイドル、音楽、その他諸々、あっはっはー、まじやば、ぴえん。と話している。

毎朝早く起きて良く、へあめいくや、化粧をする時間があるなぁと思いつつ眺めている、上位カースト集団に 

"憧れ“ 

を持っていた。


小学生の私が瞳に映した"きらきら” している
「高校生」は、今の

自分

じゃなくて、上位カースト集団だったのだと。
その気持ちに気付いた時、同じ場所、同じ時を過ごしているのに。同じ 

「高校生」

なのにこうも住んでるセカイが異なって。
勝ち組と負け組で線が引かれている様な。
人生の中の短い貴重な高校生生活を
無駄にしている様な気がして。
自己嫌悪に陥る。

そんな気持ちに気付いてからは、教室に居たくなくて
お弁当をささっと食べて、お昼休みは図書館に足を運ぶ様になっていた。
(一応、お昼ご飯を一緒に食べてくれる友達はいた)

お昼休みの図書館通いが始まり、暫くして。
図書館の隅。普段は借りられる事のないジャンルであろう、芸術図書や資料集の本棚の隅に、

「すけっちぶっく」

を見つけた。

この、「すけっちぶっく」為るモノは、匿名で好きに落書きをしたり、メッセージを書いたり、
所謂、匿名交換日記だった。ほら、よく、観光名所や、駅に置いてある、誰でも書ける思い出ノート、あるじゃん。あれ。

私が手に取った、一番新しい「すけっちぶっく」は三十冊目くらいだった気がする。
主に流行りのアニメや漫画のキャラが書いてあって、過去のすけっちぶっくを遡ると、歴代の先輩方の上手なイラストが、空白を見つける方が難しいと思うほどに、書き込まれていた。懐かしいキャラが時代を感じる作画で書かれている。

“羨ましい”

そう思った。

こんなに素敵な絵が描ける、特技がある。
自分には、特技も趣味も無かった。
絵は、最早画伯並みだったし、長く続けているスポーツも無い。習い事でピアノやバイオリンなんて勿論させて貰えなかった。成績も優秀じゃ無いし。高校生はとりあえず、カラオケなんて風潮もあるけれど、歌も上手くないから、カラオケに誘われても躊躇ってしまう。

ああ、私には何も無い。


また、自己嫌悪に落ち入る。
何処に行っても、この感情は付いてくるのか。
そう思うなら、自分を変えれば良い事も分かってるけれど。ただ、それも面倒だから、こうして逃げている。
逃げた先で、またこの感情に捕まる。

「すけっちぶっく」の中では、誰とも知らない相手に、お互いがお互いの絵を褒め合っていた。

私もこのキャラ好きです!
この間、最終回見て泣きました。
この漫画、もう直ぐ終わってしまって寂しいね。

紙の上で、絵から文字から、その人達の楽しそうな感情が伝わってくる。私は、野外から、その楽しそうな光景を眺めている傍観者だった。

「すけっちぶっく」の傍観者として、暫くした頃。
その時、丁度自分の読んでいるラノベ作品のイラストを描く人が現れた。シリーズも随分出ていて、ラノベ界隈では有名なタイトルだったと思う。

その頃、世間のJKで流行っていたのは横文字で書かれた
ケータイ小説
為るモノで。

おもしれぇ、女。と、主人公が興味を持たれたり、暴走族のオヒメサマになったり、はたまた、男装潜入してバレたり。目が覚めたら、新撰組に捕まってたり。
とりあえず、ありえない夢世界で、いちゃいちゃ、にゃんにゃんの話が流行ってた。

(ここで、世代がバレる気がする。こんぺいとう、僕の初恋を君に捧ぐ。でピンときた方、きっと私と同世代!さっき、ぴえん。なんて使ったけど、若作りがここでバレてた)

そんな、いちゃいちゃにゃんにゃんの夢世界の話に興味の無かった自分は、一人と喋るバイクが不思議な国に旅をする話。に、ご執心だった。

誰かも分からない誰かさんが描くイラストは、シンプルでラノベに出てくるモトラドと呼ばれるバイクが、メインに書かれいて。背景にその主人公とモトラドが旅した国の風景やその国の特徴が描かれていてた。
そして、絵の下にはいつも、筆記体の様なサインが書かれていたが、名前として解読することは出来なかった。

きっとこの絵は、何巻のあの国の話だ!と想像するのが楽しかった。誰かさんが書いたモトラドの絵が3枚程「すけっちぶっく」に書かれた時。

傍観者から「すけっちぶっく」の
住人
になりたいと思った。

素敵な絵の感想を。私もその話が好きだと言う事を。
誰か分からない、誰かさんに伝えたかった。

勇気を出して、絵の感想と、自分がそのラノベが好きである事。あと、自分の好きな国の話をおススメした事を。今でも覚えている。確か、プレイカラーの桜色の細い方で書いた。

(プレイカラー流行ってませんでしたか?たくさん色持ってるほどなんかすごい!みたいな。使わない色までやたらと、筆箱に入っていた思い出。ちなみに私は、パステルの水色、ピンク、黄色、を使ってた)

「すけっちぶっく」の住人を少しだけ体験できた。
返事が来るかもしれない。と言うドキドキ感に、私はとても満足だった。

毎日、昼休み、返事がこないかと。
図書館に通うことが、
逃げる 
事から、
行く
と言う心理に変わっていた。

その気持ちの変化に、自分は嬉しさを感じていた。
たぶん、好きな人にLINEをして
返事待ちをしている気持ち
と一緒だったと思う。

桜が葉桜になり、コンクリートの通学路を桜色に染めた頃。

いつも通りに、お弁当をささっと食べて、食後のデザートの蒟蒻ゼリーをもぐもぐして。
図書館に向かった。

「すけっちぶっく」を本棚から引き出して、自分がコメントしたページを恐る恐る覗いてみる。

プレイカラーの桜色で書いた文字の下に、返事の言葉は

無かった。

元々期待半分、諦め半分の気持ちで居たものの、
無ければ無いで、やっぱり寂しい。

反応が無かったか。
と、一番新しく書かれたイラストのページを捲る。

そこにはいつものシンプルなボールペンの黒で書かれたモトラドと、私がお勧めした国の話であろう背景が描かれていた。
右下にはいつものサイン。
言葉として返事はなかったけれど、絵として返してくれたのだと分かった。

この時の私の気持ちを表すなら
たぶん、私の気持ちは

”きらきら“

していた。

同じプレイカラーの桜色の細い方で、絵の感想と、ラノベに出てくる白くて大きい喋る犬も可愛いですよね。と書いた。

数日後、「すけっちぶっく」にはモトラドと白い犬が描かれていた。

青空に、桜の木の新緑に色づいた葉が映える頃には、「すけっちぶっく」の誰かさんとのやりとりが、5回を超えていた。
パターンは決まって、私がプレイカラーの桜色の文字でお勧めした話が、暫くするとイラストになって返ってくる。

今日はなんの話をお勧めしようかと、考えていた。
窓際の席。初夏のちょうど良いそよ風にエモさを感じながら、受けている英語の授業。

先生に当てられた男子が、例題文を英文に直しているところだった。暫くして、チョークをかたんとレールに置く音が聞こえて生徒が静かに席に戻っていく。

「難しい問題なのに、正解だ。すごいな」

と、先生がピンク色のチョークで花丸を書く。
まだ、ノートに移す前に、花丸描かないでよ。
見え辛いなぁ。

「流石だよね。一ノ瀬君。頭も良いし、バスケ部では2年にしてスタメン。そして顔が、ジャニーズ顔。まじ、ハイスペ」

きゃっきゃっとカースト上位集団が騒がしい。
確かに、噂で有名なイケメン君。
もちろん、私は同じクラスでありながら喋った事は無い。喋ろうもんなら、目をつけられ、多分この平和は一瞬にして崩れる事だろう。



古典の授業。
不幸にも、出席番号と今日の日にちが重なって、当てられてしまい、古文の現代訳を黒板に書いている。人前に出る事もそうそう無い為、こんな小さな事でも少し緊張してしまう、自分がいる。

何とか書き終えて、少し緊張して震えた手で書いていたから自分が書いた黒板の文字が読みにくく無いかと、心配しつつ席に戻る。

「じゃあ、ついでに説明して」

先生の言葉に、思わずドキッとする。人前で喋るのが苦手な自分は、当てられて喋ることにも、緊張してしまう。

「。。。。。いつかはその美しさも、花の様に枯れてしまうだろう、という意味です」

「そうですね。小野小町が詠んだ。。。」

問題なく、解答できたことに安堵した。
教室の時計を見るとお昼休みまであと30分だった。


いつものように、お弁当をささっと食べて。桜色のプレイカラーを片手に持って、教室を出た。お勧めする話は英語の授業中に決まっていた。

本棚から「すけっちぶっく」を引き抜いて、人があまりこない図書館の端っこ。窓際の席に座る。
窓からは校庭が見えて、昼休みの時間潰しに男子がサッカーしているのが見える。

周りに人がいない事を確認してから、1番新しいページを開くと、いつものシンプルな黒のボールペンで、描かれたイラストが目に入った。

が、その絵はモトラドのバイクの絵でも、ラノベに出てくる主人公のイラストでもなく、はたまた話に出てくる喋る白い犬の絵でもなく。

教室の窓から頬杖をついて桜を眺めている、ポニーテール姿の女の子の絵だった。着ている女の子の制服はまさに、通っているここの制服。

窓際の席。


ここ数ヶ月席替えがなく自分は窓際の席だった。


黒髪のポニーテール。


肩につく髪の長さは校則で結えることが決まっている為、腰まである髪を私はへああれんじなどせずに、めんどくさがって紺色のリボンで結えている。


制服。

は、もちろんここの学校の物を着ている。


顔。


自分の顔に似ている。。。。。かもしれない。

ついに、誰かさんにバレてしまった。
相手が私だと気づいて、誰かさんはショックを受けているかもしれない。こんな奴とやり取りしていたのかと。
どうしよう、どうしよう。何故だか分からないけれど、涙がこぼれ落ちそうになる。

「古典の授業の、黒板に書かれた文字の癖と、桜色のプレイカラーを持って席を立ったから確信した。君が、さくらさんだったんだ。」

さっきまで人の気配は無かったはずなのに、突然声をかけられて、驚く。溢れそうになった涙は何とか瞳に留まり、思わず声のした方に顔を上げた。

そして、また驚いた。
声の主は、英語の授業中もてはやされていた、

一ノ瀬君

だった。

「え?何で涙目。そんなに、模写下手くそだった?ごめん。嫌な気持ちにさせるつもりは無かったんだ」

一ノ瀬君を見上げた私の瞳は確かに、涙が浮かんでいた。

「いや、ちがうの。絵はとても上手。でも、やり取りしてるのが、私だってバレて誰かさんはきっと、こんな奴とやり取りしてるのかって嫌がるんじゃないかと、もうこのやり取り終わりだと思って悲しくなって」

こんな私と相手にしたいなんて思わないはず。

「まぁ、確かに。これでのやりとりは終わりかもしれない」

やっぱりこれで、終わり。。。

「けど、こんな奴なんて思ったことない。やっとこれで、君と話すことができる。ずっと探してたんだよ。桜色の文字の君を。名前が分からないから、勝手にさくらさんって心の中で読んでたんだけど。図書館の先生に聞いても、一応個人情報だから、このスケッチブックにイラストやコメント書いてる生徒の名前は教えられないって言われてさ」

まさか。私を探していたなんて。
こんな私とも会話してくれるなんて。

「イラスト描いているのが、クラスで人気者の一ノ瀬君だとは思わなかった。アニメとか小説とか好きな感じとか一切なかったし、そもそも運動神経抜群なスポーツマンのイメージ」

あっはっは、と。これまた爽やかに笑う一ノ瀬君。
イケメンを近くで見たことない私には眩しいが過ぎる。

「そんなに褒めても何も出てこないよ。俺さ、将来の夢建築関係だから、絵は割と得意。姉貴がアニメ、漫画好きだからそこらんの意識も割とある」

「もっと好きなものの話しようよ。
さくらさん
じゃなかった。
まあ、でも実際の名前も桜入ってるもんな。
同じクラスなのに名前呼んだことなかったけど、

“美桜さん”

俺と友達になってください。楽しい話沢山しよう」

多分、一ノ瀬君のあの笑顔と私の名前を呼んでくれたあの時の声は、

"きらきら“

していて、青い春として、記憶に残るのだろう。

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

「そういえば、初めて声かけた時あったじゃん」    
「図書館の隅の窓際で、私がすけっちぶっく広げてた時?」
「そうそう、あの時。誰かさんって言ってたけど、俺のことそう呼んでたの?」
「そうだよ。だって、いつもサイン書いてあったけど、筆記体みたいでわからなかったし。心の中では誰かさんって呼んでた」
「実はさ、あの日、声かける割と前から、やり取りしてる相手、美桜じゃないかと思ってたんだよね」
「え。どうして?」

教室では静かな子だったけど、授業で当てたれて音読したときの声の綺麗さ。               
黒板の文字。
窓際で、外の景色眺めてる美桜が綺麗で、
思わずスケッチしてしまったのを、
クラスの男子に見られたときは焦った。

きっと、思っていた。
というか俺がすけっちぶっくの向こう側の相手が美桜だったら良いなって思ってたんだ。

「うーん。内緒」
「なにそれ、言っといて内緒って。一ノ瀬君。ずるくない?気になるじゃん」
「あ。また、苗字。いい加減、彼女になったんだから、名前呼びしてくれない?」
「え。えっと。。。」

戸惑ってる姿も可愛いし。
耳赤くなってるのも可愛い。
顔覗くと、避けて恥ずかしがってるのも可愛い。

「いじわるしないで。翔太の、ばか!」

俺の彼女はかわいい。

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

みたいな青春したかったわ(遠い目)

クラスカーストって現実に本当にあって、私もクラスカーストは底辺でした。
文化祭や体育祭で、ヘアメイクしてお化粧して花冠して、応援うちわもってきらきらしてるみんなが本当に羨ましくて笑
ブスな自分には似合わないし、
やったとしても、
あのブスが花冠してる笑笑
みたいな言われるか分からない。
(被害妄想がすぎるけど、当時は本当にそう思ってた笑笑)
とりあえず自分にめちゃめちゃ自信が無かった。

そんな中でも、一生のお友達に出会えたことは本当に財産で。その子に出会えただけで高校生活価値のあったものだなって今では思います。

その高校に入って。それが正解だったかどうか。
結局数年先になってみないとわからないもので。
当時の自分は、もっと頑張って勉強して違う高校にに行けばよかったと思っていたけど。
今では、確かにまぁ。
違うところに行っていたらまた違う人生だったかもしれないけど。
悪くはなかった。
と思えているので。
今は本当に嫌かもしれないし、どこ選択が正しいのかも正解かもわからないけど。
それが分かるのは数年後だから、とりあえずいま楽しいことしよう!
くらいの気持ちがあってもいいんじゃないかなぁと思ってみたり。

前半は
ミセスグリーンアップル V I P
中盤は
メランコリック  
(私は天月さんや歌詞太郎さんのをよく聞いてた)
後半は
ミセスグリーンアップル 青と夏

みたいな感じです笑










この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?