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[カレリア民話] お金の入ったお財布(RAHALOMPŠA)

お金の入ったお財布

昔、おじいさんとおばあさんが暮らしていました。おじいさんが村を歩いていると、とても大きなお財布を見つけました。(中には)何百ルーブルものお金がありました。おじいさんは喜んで家に帰ると、おばあさんに言いました。
―見てみろ、わしが見つけた金の、この額を!今や貧乏ともおさらばだ。さあ、このお金をしまっておくんだ。

おばあさんは、どこにお金を置いておけばよいか分からず、途方にくれました。どこに置いても、すっぽりと隠せる場所はなく、長持ちに入れても、誰かがそこから盗むのではないかと恐れました。それからヴァッツァ(サウナぼうき)の下に置きましたが、ふさわしくありません。おばあさんは、どこに置いたらよいのか分からず、とても困り果てていました。最後に、自分のふところに入れました。おばあさんは満足すると村へ行き、じいさんが一生暮らしていけるほどのたくさんのお金を見つけたことを村の女たちに話しました。

おじいさんは困ったことになりました。「ああ、なんてことだ、(ばあさんに)言うべきでなかった。わしらからお金が盗まれてしまうだろう。」おじいさんは、おばあさんからお金を取り上げました。
おじいさんがお金を見つけたことを知ると、人々はおじいさんに「お金を見つけたんだって?」と尋ね始めました。おじいさんは「いいや、何も見つけてないよ、ばあさんが嘘をついているんだろ。」と言いました。

おじいさんが森に行くと、(仕掛けておいた)漁網には1匹のカワカマスが、ワナには1匹のオオライチョウがかかっていました。(おじいさんは)オオライチョウを漁網に、カワカマスをワナに入れました。家に帰ると、おばあさんに「(漁のための)ワナを確認して来ようじゃないか」と言いました。(彼は、もうすでに行ってきたことは言わなかった。)そうして(ワナを)見に行きました。おばあさんは、驚きました。
―こんな不思議なことがあるのかい、カワカマスが(陸の)ワナにかかって、ライチョウが漁網にかかるなんて!

おじいさんは「世界の終わりが来るんだよ。」と言いました。
おばあさんは、「私が世界の終わりを見ないですむように、その間、あたしをどこに連れてってくれるんだい?」と言いました。おじいさんは言いました。「家に帰ったら、お前さんを隠してやるよ。」

家に戻ってきました。おじいさんは木の桶をひっくり返すと、おばあさんをその中に入れ、「動くんじゃないぞ、(終焉が)終わったら教えるから。」と言いました。

おじいさんは桶の上に大麦をばらまくと、(大麦を)ついばむよう、メンドリとオンドリを置きました。おばあさんは中で「こんなにも雹が降るなんて、今が世界の終わりのピークなんだわ」、「まもなく終わるでしょう」と一人言い聞かせていました。おじいさんは、桶の下からおばあさんを出すと「もう世界の終わりは終わったぞ!」と言いました。

さて、おじいさんがお金を見つけたかどうかを調べに役人がやって来ました。おじいさんは「見つけていないよ、ばあさんが嘘をついたんだ」と言いました。おばあさんには「ところで、それはいつ頃起こったことだね?」と尋ねました。おばあさんは「あれは確か、カワカマスが(陸の)ワナに、オオライチョウが漁網にかかった日の数日前だったね。」と言いました。おじいさんは言いました。「お前さん方、聞いたかい、いつそんなことが起こるってんだい、ほら、可哀そうなばあさんはすっかり頭がおかしくなっちまったんだ。」

―では、いつカワカマスが(陸の)ワナにかかったのかね?
(役人は)おばあさんに尋ねました。
おばあさんは言いました。「世界が終わった日の前日だよ。」
―では、その世界が終わった日っていうのは、いつのことかね?
調査員たちはふたたび尋ねました。
―お前さんたち、屋根に鉄の雹が降ってきたあの音を、聞かなかったのかい?
おじいさんは言いました。「哀れなばあさんはすっかりバカになっちまった、でたらめばっか言ってるよ。」
そうして調査員たちは言いました。「あなたは頭がおかしいようなので、我々はあなた方を無罪としましょう。」

こうして、おじいさんとおばあさんはお金を手に入れましたとさ。

単語

onnakko [接] だが, しかし, それにも関わらず, まさか
panna talteh (保存のために)しまっておく, 片づける
šišälö [名] ふところ, 懐中
rysä [名] 建網, 漁網
hauki [名] カワカマス
anša [名] わな
meččo [名] ヨーロッパオオライチョウ
čuuto [名] 奇跡, 神業, 不思議なこと, 驚くべきこと
rotiutuo [動] 生まれる, できる, ~になる
kumuol'l'ah [副] (容器の)底の方を上にして
yksinäh [副] 独りで, 孤独に
rae [名] 雹(ヒョウ)
teräväh [副] 速く, まもなく, もうじき
virkakunta [名] 官吏, 役人
tutkie [動] 研究する, 勉強する, 従事する, よく調べる
tapahtuo [動] 起こる, 発生する, 行われる
monies [副] いくつか, いくらか
höpertyö [動] バカになる
plašie [動] 無意味なことを言う, でたらめを話す

出典

所蔵:ロシア科学アカデミー カレリア学術研究所(KarRC RAS)
採取地:カレヴァラ地区のヴオッキニエミ(ヴォクナヴォロク)
採取年:不明(記載なし)
AT 1381

O.BorodkinによってM.A.Remshより採話されたもの。これらの話型はカレリアの中では北部にのみ存在する。

日本語出版物

フィン・カレリア民話としての出版物はなし。

つぶやき

笑話と小話に分類される話型、AT1381「おしゃべりな妻と発見された宝」です。おしゃべりなばあさんに対して責めたりするのではなく、穏やかに、なおかつユーモアに解決しようとするあたり、カレリアの人々の平穏な人間性と日常が伺え、くすりと笑ってしまいます。

このあたりの笑話は愚か村の人々のお話にも通じてきますね。カレリアにも愚かな人々が住む村のお話は色々あるので、いずれ紹介したいです。

AT1381にはバリエーションが多くあり(カタログだとA~F)、逆に妻にだまされて信用を失う夫の話、殺人をおかした息子を愚か者にしたててかばう母、妻が秘密を守れるか試す夫、秘密をおおいに誇張して話す妻などなど盛りだくさん。けれど、カレリアに伝わっているのは平和的に解決する、紹介したバリエーションのみと考えられています。

>> KARJALAN RAHVAHAN SUARNAT(カレリア民話)- もくじ

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