【映画鑑賞】『PERFECT DAYS』#3 断捨離がいらない部屋

一度しか観ていないのに、書きたいことが多すぎて第3回となりました。今回は、あまりにも片付いている主人公平山の和室から考えていきます。どちらかというと既に観た人向けです。まだの方はネタバレにご注意ください。
(約1600字)


簡素な和室

おととい#2で書いたように、平山の朝の目覚めで映画は始まる。まず布団をたたむ。6畳ほどの空間がスッキリと片付いている。

ソファーもテーブルもベッドもない和室。
布団を敷けば寝室、畳めば居間になる日本古来の和室の使い方がここには残っている。昭和40~50年代で時が止まったみたいに。旅館か民宿、あるいは独房のように。

そういえば、1月26日放送の「ニュースで学ぶ『現代英語』」――“働き旅”で人手不足解消へ――(2/2朝まで らじるらじる聞き逃し放送で聴ける)の最後で、トムさんが初めて日本の旅館に泊まったとき、ベッドはどこかだろうと探した、と言われていた。この映画は全編にわたり、外国の方に喜ばれそうなエッセンスが散りばめられているが、この和室もそのひとつだ。

そして部屋にあるものと言えば、布団の近くに低い本棚。すべて文庫だった? その上にラジカセもあっただろうか。後半になって、部屋の奥に(階段から遠く、隣の「盆栽の間」に近い方)背の高い本棚も映っていた。地震対策を考慮したような本棚の向きと配置だった。それから床に、就寝前の読書に使うスタンドライト。
もしかすると背の高い本棚の向かいには洋服ダンスくらいあったのかもしれないが、存在感は薄かった。

実に質素だ。
うらやましくなる。
俳優役所広司さんの風貌から平山の年齢を50~60代と推定すると、この世代は生後半世紀以上が経過してモノを持ちすぎており、しょっちゅう断捨離の必要を感じているはずなのに。

平山は家で食事をしていなかったと思う。朝は玄関ドアを開けて車に乗る前に缶コーヒーを1つ買って運転席で飲む。それだけ?
昼は、お宮の近くのトイレ清掃で働いたあと、決まって、コンビニで買ったようなサンドイッチと飲み物を鎮守の森の木陰で膝に広げていた。それだけ?
夜は、地下鉄の駅の飲み屋のようなところで外食。
某情報筋によれば、このお店は浅草駅の「福ちゃん」らしい。口コミにもさっそく映画のことが書かれている。おいしそう。行ってみたい。

家で食事をしなければ、家事が格段に減る。つまり、
・食材の買い出し
・料理
・食器洗い
が不要で、ゴミを頻繁に出す必要もなさそう。

洗濯はコインランドリーだから、洗濯機が不要で、
・洗濯物を干す
・アイロンをする
も不要なのだ。寝具にはシーツも枕カバーもかかってなさそうだった。

お風呂は銭湯だったので、
・風呂の水替え
・風呂掃除
が不要。

家事が少ないのはうらやましい。

ここで思い出す稲垣えみ子さんの暮らし

NHKの朝ドラの流れでつい見てしまうあさイチに稲垣えみ子さんが登場したのは、昨年7月だった。
エアコンも冷蔵庫もない部屋。食事作りは楽しんでいらっしゃったが、著書に『家事か地獄か』があり、モノが多いままで高齢になると、家事に忙殺されるといった内容の警告を発しておられる。

その男性バージョンの暮らしをこの映画で見せてもらったのかもしれない。

一昨々日(さきおととい)#1で書いたような平山の機敏な動きは、家事が少ないからこそできるのかもしれない。モノが多い普通の家では、あの速さと集中力を一日中保つのは困難だ。家事が多すぎて。
そもそも、モノが多いというだけで、目にするだけで、疲れているのかもしれない。

実はあった物置き部屋

けれど、物語の中盤で観客はおどろく。家出をしてきた姪っ子に布団と二階をゆずり、平山が眠った一階の暗闇は……電気がつくと物がぎゅうぎゅうに詰まっていた。昭和の薫りただよう洋服ダンス、段ボール箱、ほかにも見覚えのある実家テイストの物の数々に文字通り囲まれて、地震が来たら絶対に危ないだろっ ていう寝方をしていた。
平山にも捨てられないものがあるのだと知り、少しホッとした。

人間関係や自分の過去に関する断捨離については、また別の日に書こう。




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