思い出日記

冬が訪れた。
わたしの住む北海道は当然ながら冬が厳しい。短い秋は淡々と過ぎていった。

余震に怯えずに済むようになったし、後期が始まって時間も経った。

大学のキャンパスはいつの間にか色づいて、葉が落ちて、大きなクリスマスツリーのLEDに照らされている。

ハルさんと初めて会った日、講義の終わりが遅くなって慌てたわたしは講義の出席カードを提出し忘れて、ハルさんとふたり、大学に戻った。大雨の中、その日慌てて生協で買った折り畳み傘を差しながら。
今でも大学敷地内を、ここハルさんと通ったな、と思いながら歩く。

その夜雨上がりの夜景を見ながらハルさんにキスされたときはかなり戸惑ったっけ。
2日後ハルさんに「なにか思い出になるものください」と頼み込んだ結果シルバーの指輪をいただいてからは、外出の際には欠かさず身に付けるようになったし、その指輪の定位置の指が細くなったな。
ふたりで「かわいいね」と笑ったぬいぐるみは結局購入した。(ハルさんはそのぬいぐるみをネット注文しようとして失敗していたけど、結局どうなったのか)


夏、ハルさんと旅行した。
サークル旅行と偽って家を出た。

ハルさんの運転は誰よりも丁寧だったな。
音楽の趣味はちっとも合わなかった。
動物園ではしゃぐハルさんは可愛かったし、甥っ子にお土産を大量に買うハルさんも微笑ましかった。
一緒に食べたスイーツはとても美味しかったし、花畑の中をふたりで歩いたのは幻想的だった。
初めてハルさんと本当の意味で体温を共有したことも、熱を出したハルさんがとても苦しそうだったことも、ふたりで金曜ロードショーのハウルの動く城を見たことも、お祭りの中を歩いたことも、初めて家族以外の人と飲んだお酒の味も覚えている。

わたしは別れる朝に「持ち込んだ日記の最後に何か書いてほしい」とわがままを言って、メッセージを書いてもらって。

一番最後に手を合わせて交わした「またね!」が現実になることを祈って、時は巡る、夏は終わり、秋が過ぎ去り、冬が始まる。

10月に通話した時、ハルさんが「また会ったときは、」とサラリと口にしたから、あの日の「またね!」はどうやら実現するらしい。

ハルさんは魔法使いみたいだ、と思う。

LINEのやり取りが減ってしまった今、平成最後の冬も、どうか、あの日のまたねが現実になるよう祈ってしまうのは、本当にかなしい。

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