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スリランカ、ウィルパットゥ国立公園にて

その青年はジープの助手席にふかふかの座布団を敷いて、そこにカメラを置いていた。
わたしが助手席に乗り込むと、彼はカメラを大切そうに自分の膝の上へ乗せた。
名前はDさんという。二十歳ぐらいだろうか。
わたし以外誰も泊まっていない古いホテルが手配してくれた、ジープとドライバーだ。

サファリでDさんは、いい写真が撮れる場所に停車してくれたり、動物が現れるまでじっくり待ったりしてくれた。
ほぼ雨が降らないケニアのサファリと違って、スリランカのサファリには、植物が生い茂っている。
見通しが悪いから、耳をそばだてて緑の中をよーく見て、動物を探していった。
Dさんは運転しながら動物を探しているのに、わたしよりも見つけるのがめっちゃ早い。
なんて優秀なドライバーだろう……と感激した。
彼もいい写真を撮りたいから、真剣に動物を探してくれるのだ。

聞くと、ドライバー歴は4年らしい。
「この仕事は楽しいし、リラックスできる」と話してくれた。
仕事が好きな理由に「リラックスできる」が挙がることにおどろいたし、素敵すぎるなーと思った。
夕日に照らされた小さな湖がオレンジ色に光っていてきれいだった。

ホテルに戻って、オーナーに「彼は素晴らしいドライバーだね」と感謝を伝えると、「もちろん知ってるよ」と返ってきた。
実は、Dさんは貧しい家の生まれだけど、優秀だからこの仕事を任せているらしい。
オーナーは「彼はサファリのことなら何でも知ってて、写真の才能もある」と、誇らしげに話してくれた。

次の日も、Dさんは助手席のふかふかな座布団の上にカメラを置いていて、わたしが助手席に乗ると、カメラをそっと自分の膝の上に乗せた。
カメラは、サファリへ撮影に来たカメラマンに譲ってもらったものらしい。
その人のドライバーを1~2カ月ほど務めたご縁で、カメラマンが持ってきていた4台のうち、使っていない1台をもらったのだそう。
ランチの時間に、4年間のベストショットを見せてもらった。
ネコのようにごろごろと転がるヒョウや、草むらにのっしりと現れるゾウ。
嬉しそうに見せてくれたのも印象的だった。

3日間ほどドライバーを務めてもらって、最後の日にFacebookで繋がった。
Dさんは別れ際も「じゃ~ね~」と軽いノリで、そういうところもいいなーと思った。
このホテルもサファリも居心地がよかった。
夕食は毎日スリランカカレー。
砂糖がたっぷり入ったセイロンティーを飲むと、いつか帰らなくちゃいけないことを一瞬だけ忘れてしまった。

そして4年後の今日、DさんがFacebookに「結婚しました」の投稿をしていてなんかうれしくなった。
旅行者としてちょっとしか会ってないけど、幸せそうにしていることがわかって、あたたかい気持ちだ。
それで、旅行中のことを思い出した。

スリランカのサファリは何度でも振り返りたい思い出。
砂埃が舞う地面も、風が吹き上げる草むらも、鮮明に覚えている。
遠い将来に再会を祈る。

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