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多重「人格」のこと(5)

ここ二日は、(頭の中が)賑やかだった。

別の人格、というかまあ自分ではあるから別の特性というか。正確には、○○才だった頃の自分の忘れていた記憶、封じ込められていた感情がやって来た。

きっかけは、最近よく連絡をしてくる私に好意を持つ男性に、ライン上で、解離性同一性障害で心理士のお世話になっている旨を初めて伝えた事だったと思う。今までなら、家族の事や私の心の問題を人に知られたくなく、隠したり誤魔化したりしていた。最近では、これを知って離れていくならそうすればいい、と開き直れるようになったので、その流れだった。返事は夜になっても来ず、幾らかスッキリした気持ちで湯船に浸かった。いい香りの湯の中で寛いでいると、やって来た。8歳くらいの女の子だ。8歳の頃の私。ポロポロと涙をこぼして泣き出した。

「やっぱり私は変なんだよね。変な家族、皆んなみたく出来ない。だから皆んな、離れて行ってしまうんだよね。」

顔をくちゃくちゃにして、しゃくり上げながら、泣き続けた。あの時うまく悲しめなかった子、心に痛みを閉じ込めていた子だ。家族に痛めつけられ、周囲とのコミュニケーションの取り方を知らなくて、習字の先生からは裏で不良の出来損ないと言われ、友達だと思っていた子達からも、「先生がそう言ってた。」と、悪口を言われた。私は、何も反応しなかったと記憶している。「あんな子と、関わっちゃダメ!」という声に、気付かない振りをした。

「酷いよね、でもあんな人達どうでもいいよ。私はずっと、一生一緒に居る。一緒にいよう?」

と、声をかけた。頼りなげに、その子は頷いた。その後、お風呂の泡の形を動物に見立てて遊んだり、ゲームをしてはしゃいだりした。ここは安全で、誰も傷付けない、と伝えた。私は、優しい人達が自分を養子に迎え入れてくれる夢をよく見た。兄からは、「お前なんか産まれて来なければ良かった」「死ね」父からは、「男だったら良かった」母からは、「どうしてこんな難しい子が出来ちゃったんでしょう。明るくて、楽しくお喋りできる、私と相性の良いふたご座の子が良かったかしら」と、言われ続けた。その度に、どこかの誰かが救いに来てくれる空想が、もっともっと好きになった。現在の私が8歳の私を養子にすると決めた。8歳の私は、夢が叶って、とても嬉しそうだった。

同時に、当時のそんな状況下でも、仲良くしてくれた(実在の)同級生の存在も思い出した。彼女の家の暖かなサンルームで漫画を読んだ時間。二人しか知らない作品の感想を伝えあったり。ピクニックにも行った。控えめで、でもしっかりしていて優秀な女の子だった。ありがとう、と相変わらずくちゃくちゃになった顔で泣いたが、今度は嬉し涙だった。

次の日も、8歳の私は居た。仕事はなかなかはかどらなかったけれど、いいよ、あなたの方が大事だよ、と、好きに遊ばせた(在宅勤務だから出来ました…)。とても楽しそうに、ほぼ一日中ゲームをしたり舞い踊ったりして遊んだ。

その内、18歳もやって来て、一緒に遊んだ。二人とも遊び好きだが、18歳は更にティーンエイジャーらしく、明朗快活だった。他のエレメントと違い、二人はずいぶん長く留まった。長年抑え付けられていたのだから、ゆっくりしていけば良いと、そのまま一緒に居た。単純に、楽しかった。夜眠って起きると、居なくなっていた。というより、私の中へ溶けていったのだろう。二人の存在は、今も私の中に感じる事が出来る。

例の男性からは、翌日返信が来た。

「治療がうまく行ってるようで、良かった」

また、怖いものが一つ減った。

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