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Book/Film Reviews

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2019年8月の記事一覧

【書評】ウィズ・ザ・ビートルズ、「ヤクルト・スワローズ詩集」

村上春樹の短篇。連作短編「一人称単数」その4と5。「文學界」8月号。 ウィズ・ザ・ビートルズ ときは1964年秋。ところはたぶん神戸。 ビートルズの2枚目のアルバム《ウィズ・ザ・ビートルズ》が運命の日 (*) に出てから約1年後、その女子高生がそのアルバムを「大事そうに胸に抱えていた」。 (*) 1963年11月23日。米35代大統領ジョン・F・ケネディが南部ダラスで暗殺された日。 その頃、そのタイトルのアルバムを持っていたとしたら、英国盤以外にあり得ない。 当時は

【書評】アナーキストの銀行家

フェルナンド・ペソア『アナーキストの銀行家』(彩流社、2019) 「独創的な晩餐」 ベルリン美食協会の会長ブロージットが〈独創的な晩餐〉を催すと宣言し、会員に対し、晩餐会に招待するので、〈晩餐の独創性を見つけてみろ〉と挑戦する。この晩餐を開く理由は、少し前に自分とフランクフルトの街の五人の青年との間にあった言い争いであると説明する。はたして晩餐のどこに独創性があるのか。〈独創〉と名がつけば何でも許されるのか。ペソアにしてはめずらしい狂気を扱った作品。 「忘却の街道」