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[書評] 天皇

矢作直樹『天皇』(扶桑社、2013)

神祇伯白川家に伝承された神道と延信王

本書(2013)執筆のころ、著者は東京大学医学部救急医学分野教授として、天皇の治療に関る医師団に属した。そんな著者ならではの貴重な証言の数々が含まれる書。

内容としては、『人は死なない』(2011)に既出の九死に一生を得た登山時の体験や、後に『日本史の深層』(2018)に展開される独特の史観などを含むが、本書には貴重な白川家の歴史に関する記述がある。

白川家のことを神祇伯白川家と呼ぶが、そのわけについて著者は次のように述べる。

神祇伯白川家に伝承された神道は、白川神道、伯家神道とも呼ばれますが、ひとつの学派をなしたものではなく、白川家を中心にして継承された諸々の神拝作法、神事・神法や行事を総称して呼んでいるものです。またその長官を「神祇伯」と言います。(第二章)

初代神祇伯に任ぜられたのが延信王(生没年不詳、11世紀)で、それ以来の歴史を次のように述べる。

白川家は、花山天皇皇子清仁親王の王子延信王が万寿2年に神祇伯に任ぜられてから、35代を経て明治初年まで神祇伯王として朝廷に仕え、臣下で唯一伯王を賜わりました。(第二章)

延信王の父は清仁親王(?-1030)。清仁親王は花山天皇(968-1008、在位984-986)の第一皇子。花山天皇の次の天皇が一条天皇(980-1011、在位986-1011)で、紫式部が一条天皇の皇后彰子の家庭教師に入った。

なお、上記に延信王が神祇伯に任ぜられたのを万寿2年(1025年)としているが、正しくは、寛徳3年(1045年)である。花山天皇の5代あとの後冷泉天皇(1025-68、在位1045-1068)の御代であった。

本書が白川家の伯家神道について述べるのは以上であるが、現在の天皇との関りについては書いていない。「明治初年」のことばににじませてあるが、換言すれば「明治初年」以降、現代に至るまで伯家神道は途絶えていたのである。それがある時点で復活するのであるが、それは本書より後のことに属する。

本書の第三章は「国際銀行家に影響された日本」と題されており、天皇をテーマとする書にあって異色に見える。

国際銀行家という存在がいつ始まったかについては著者は次のように述べる。

この国際銀行家という存在は、18世紀にフランクフルトのユダヤ人両替商マイヤー・アムシェル・ロートシルトがヘッセン=カッセル方伯ウィルヘルム九世の遺産管理を任され、そして5人の息子たちをヨーロッパ中に派遣して国境を越えた両替商支店網をつくったのを発端としています。(第三章)

国際銀行家が現代に及ぼす影響が決定的になったのが1913年のことで、ウィルスン米大統領は全国準備機構法(連邦準備法、オーウェン・カーター法、Federal Reserve Act)案に署名した。これにより、〈米国の中央銀行である連邦準備銀行(FRB)を彼ら[国際銀行家たち]の手に渡してしまった〉のである。

サブプライムローン崩壊に始まる金融危機(2007-10年)は記憶に新しいが、その原因はグリーンスパンFRB議長の金融緩和策だった。グリーンスパンが2008年3月20日のワシントン・ポスト紙のインタビューでおこなった発言が本書に引用されている。

長期(この間経済は平均4%も成長していた)にわたって1.0%という低い政策金利を続けた理由を問われ、「FRBのせいではない。global forces(全世界的に力を及ぼす勢力者たち)が長期の低金利を続けさせ、住宅バブルを加速させた」と答えました。(第三章)

つまり、著者に言わせれば、〈彼は「FRBの株主=国際銀行家たち」の力にコントロールされたと告白した〉のである。

彼らはどういう人たちなのか。それについて、著者は次のように述べる。

現在、世界を動かしている国際銀行家のメンバーとしてオナシス家、ケネディ家、デュポン家、メロン家、ハリマン家、モービル家、モルガン家、ロスチャイルド家、ロックフェラー家などがあげられています。このような家々はお互いに婚姻により深い関係を築いてきました。この世界を動かしている人たちはみな繋がっていると言われています。(第三章)

こうした国際銀行家たちのことが日本の天皇に関する本書に登場するのはなぜか。〈日本もまた明治維新直前から彼らの影響を受けてきた〉ことは知られているにせよ、天皇とはどんな関係があるのかと思う読者は少なくないだろう。

その点については、本書はあまり多くを語らない。ごくわずかな記述ではあるが、本書の基本姿勢として、行間ににじみ出るところをくみ取るのがよいかもしれない。たとえば、次の記述。

たいへん重要なことですが、天皇家はこれらの勢力とまったく無縁というわけではありません。なかでも、ロスチャイルド家とは親しい関係にあられると言われています。(第三章)

例えば、と言って〈昭和天皇から叙勲されたエドモンド・ロスチャイルド(イスラエル建国に多大な寄与)〉のことを著者は挙げる。

さらに、ディビッド・ロックフェラーとの関係についても著者はふれる(昭和天皇が訪米のおりディビッド・ロックフェラーを訪れたこと、平成19年11月にディビッド・ロックフェラーが天皇陛下を訪問したこと)。

天皇と国際銀行家たちとの関係についてのまとめとして、著者は次のように述べる。

こういった関係を保っているからこそ、天皇陛下を戴く日本が、国際銀行家がコントロールする国際社会において一方的に足蹴にされないのだとも言えるわけです。(第三章)

しかし、国際銀行家たちも〈決して一枚岩というわけではな〉いことを著者は指摘し、複雑な権力のからみあいとの関係という側面があることに留意するよう読者をうながす。

これらすべての動きも或る摂理のなかで必要なことであるとの著者の洞察が、次のことばに表れている。

創造主の摂理は、この世(現象界)というトレーニングの場で、ポジティブとネガティブという二項対立のかたちでものを見せることで私たちに意識の進化を図られている(第四章)

つまり、近代史において戦争により金を儲けてきた国際銀行家という存在も、〈人類全体の意識の進化のために必要な役割〉を演じたのだと、したがって、〈人類の意識が上がっていけば将来的には当然力が落ちていくものと思われます〉と著者は達観する。

本書刊行後十年を経て、世界はその明察のとおりに動いているようにみえる。

著者にはいろいろな傾向の本がある。評者は著者の本では『閉塞感がニャくなる魔法の言葉88』(2022)などを愛読している。あちらを〈軟派〉(ニャン派?)の代表本とするなら、こちらは〈硬派〉の代表格のひとつだろう。なにしろ、〈日本が戦争を放棄しても、戦争は日本を放棄していません〉とさらっと書く本であるから。英国が〈海賊の国〉、米国が〈盗人の国〉とするなら、日本はどんな国といえるだろうか。〈世界の平和と人類の福祉〉(教育基本法前文)に貢献する国であってほしい。

本書が一推しの映画がある。フォスター・ギャンブルが製作した「THRIVE(スライヴ)」(2011)である。今でもYouTubeで観ることができる(日本語版あり)。前半でフリーエネルギー(トーラスやベクトル平衡体)、後半で国際銀行家を頂点とする富のピラミッドを扱う。

〈一握りの人たちによる富の独占という現状を、誰でも簡単に手に入れられるフリーエネルギーの汎用化により、誰もが繁栄できるように変えたいとの願いが込められたもの〉と著者は述べる。

#書評 #矢作直樹 #天皇

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