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書いているのは自分ではない

小野美由紀さんの次の発言が印象的だった。

小野:「自分が書いている」と思うとしんどいけど、「自分の中の他人がやっている」と思うとラクになりますよね。

出典:「限界集落で「創作」を語る:ヒビノケイコ×小野美由紀×イケダハヤト」(2016/02/17)

この考え方は何も新しい話ではない。古くは古代ギリシアの頃から、作家や詩人にはダイモン(daemon, 半神半人、神と人の間の霊的存在)が降りてきて書くものだということになっている。人間が自分で書くという観念はそもそもなかった。「オリジナル」にこだわるのは、おかしな話なのだ。だって、創作の源泉は外からやって来るのだから。

そのことを強く主張する現代の作家に、米国の女性作家エリザベス・ギルバート(Elizabeth Gilbert)がいる。彼女のその主張はTEDトークでも聞くことができる。

Your elusive creative genius (Feb 2009)

ここでビデオが再生できるけれども、左側に View interactive transcript というボタンがあり、それを押すと、話す内容を文字化したものが表示される。それだけでなく、ビデオの進行に同期して、話しているところがハイライトされてゆく。つまり、声と文字の両方で確認できるので、話の内容がよく頭に入る。(以下、話の内容を原文でも引用しますが、日本語の説明のあとに念のために置くだけですので、英語表現が気になる人以外は気にする必要はありません。)

知っている人も多いと思うけれど、TEDトークは一人最大18分の持ち時間であらゆるテーマについてしゃべる。世界のプレゼンテーションの模範と目されるくらい水準が高い。有名人から無名のクリエーターまで、顔ぶれはさまざまだけれど、聴衆の期待に応えるだけの革新的な内容がある。TED会議に出席するために応募し、かつ6,000ドルも支払う聴衆の期待に応えるのは並大抵のことではない。

何十本もTEDトークを見たけれど、こと創作の秘密にかかわるトークのなかで、本トークはピカ一といっていい。何らかの創作に従事するひとは一度は見る価値がある。これを見ると肩の荷がおりる。楽になる。自分が何かをつくり出さなければならないという、思いつめた責任感から解放される。

以下、この女性作家ギルバートの話の要点をわかりやすくまとめてみる。

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