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旦那vs素敵な彼

 痴情のもつれの話ではないので最初にお断りを。美容室で読んだ雑誌に、スーパーマーケットについての記事があった。なにせ、髪を切ったり、シャンプーしたり、乾かしたり、カラーしたり、もう一度シャンプーしたりする間に読むので、細部までは覚えていない。ともかくおしゃれな職種の人たちが、自分の愛用しているスーパーマーケットを紹介して、店舗の雰囲気や品揃え、店員さんや、お勧め商品などについて語るという内容だった。そのなかにこんな感じのコメントがあった。

 〈 私にとって毎日行く近所の◯◯(庶民的スーパー)は“旦那”で、△△や□□(高級スーパー)はたまに会う“素敵な彼”…… 〉

 
 おもしろい例えだなあと思った。これに従うと、私の“旦那”は徒歩1分のところにある大型チェーンのスーパーで、“素敵な彼”には電車に乗らないと会いに行けないーーコロナ禍にあってはその頻度も減ってしまった。
 

 うちの近所のスーパーは、できた“旦那”なのだ。品揃えが豊富。お醤油ひとつ買うにも、濃口醤油・淡口醤油・再仕込醤油・溜醤油・白醤油があって、さらに減塩、有機、無添加の区別とサイズの選択がある。当然、通路も広く天井も高く、商品の陳列も整然として美しいときて、頼もしい限りだ。日々の暮らしを堅実に支え、雨の日も風の日も腕を広げて私たち家族を守ってくれる。こう書いていると、本当の旦那より頼もしいくらいに思えてきた。

 “素敵な彼”はみんなの憧れでもあるので、混雑しているうえに独特な高揚感がある。“旦那”が見せてくれない夢も見させてくれるのだから“素敵な彼”も人生には必要だ。できれば複数ほしいところだ。ちょっと高級なお菓子、初めて見る野菜、綺麗な瓶のジャム、珍しいスパイス、奮発して買うワインなど、めくるめくトキメキを与えてくれる。単調な日常に疲れたときに、甘くささやかれるとヨロめいてしまうのも致し方ない。

 旦那か彼かは選べない。旦那も彼も、ということになりそうだ。

 
 

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