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『カビンくんとドンマちゃん』感覚過敏と感覚鈍麻を描く本:新たな視点で世界を見る

2023年8月に発売された話題の本 『カビンくんとドンマちゃん』を読みました。
うちの家族はみんなHSPで刺激に敏感な部分があり、感覚過敏のところは「うんうん」と思うところ多し。
そして、読み始める前は「感覚鈍麻は分からないな」と思っていましたが、自分の経験と照らし合わせて「意外と自分に関係あるな」というのを発見。
過敏と自覚している人もそうでない人も、一度読んでほしい本です。
小学校高学年の読み聞かせで一部分を読むのもいいかもしれません。


「食べること。着ること。楽しむこと。
僕(私)は、なぜ人と同じようにできないんだろう」
感覚過敏(カビンくん)と感覚鈍麻(ドンマちゃん)の2人が感じている困りごとをストーリー形式で追体験できる本。感覚セカイの「そうだったのか!」がわかる1冊です。
著者は、感覚過敏研究所の所長であり、感覚過敏の当事者として発信を続ける現役高校生、加藤路瑛。

加藤路瑛より
「感覚過敏とは、視覚・聴覚・嗅覚・味覚・触覚などの諸感覚が過敏な状態な事を言います。感覚鈍麻は、感覚過敏とは対象的に、寒さや痛みなどを感じにくく、どちらも何気ない日常のシーンで困難なことがたくさん出てきます。
かつての僕のように、つらさの理由がわからず自分を責めてしまう人や、自分の子どもの感覚が何か違うのではないかと悩んでいる親御さんへ、この本が“感覚の困りごと”の一助になればと思います」

Amazonサイトより

① 感覚過敏と感覚鈍麻の世界

感覚過敏

感覚過敏というと、私としてはまずHSP (繊細さん)のことが頭に浮かびます。
ですが、感覚過敏は、HSPだけでなく、自閉症スペクトラム障害(ASD)、注意欠陥・多動性障害(ADHD)、不安障害、または外傷後ストレス障害(PTSD)など、他の多くの状態や障害にも関連しているそうです。
この本では、主人公のカビンくん自身がどの特性をもつかは詳述されておらず、「感覚の過敏さそのもの」に焦点を当てて、学校生活で過敏さからくる困りごとを描いています。
カビンくんは、制服や靴下が「痛い」。
ブレザーは甲冑のように重く感じる。
学校では、友だちの話し声、給食の匂い、食器がカチャカチャいう音が刺激になって突き刺さる。
過敏でない人にはなんでもない毎日が、とてもハードです。
本当は、頭からフードをすっぽりかぶってうずくまっていたいくらい。
見た目に違いはないけど、そういう感じ方をする人がいる、そういう毎日を送っている人がいるというのを知ってほしいなと思います。

感覚鈍麻

感覚鈍麻というのは馴染みのない概念でした。読むまでは、まったく想像がつかない感じだろうなと思っていたのですが、読んでみていくつか発見がありました。
ひとつは、村上春樹の小説『ねじまき鳥クロニクル』に出てきた加納クレタ。20代までありとあらゆる痛みに支配された生活を送ってきたが、あるきっかけで何も感じなくなった、という設定の女性です。
「カビンくんとドンマちゃん」を読んでいて、そういえば、と思い出しました。
感覚鈍麻って小説の中で描かれてたんだ、という発見。

それから、ドンマちゃんが周りとの距離がうまく測れず、壁にぶつかっておでこにタンコブを作るシーン。
これって車の運転(私みたいに運転になれていない人の)と一緒。
車体感覚というのが分からない。どこまで行けばぶつかるのか、危ないのか危なくないのかが分からない。
これが自分の体でもそうだということ。
自分の体の境界が分からないということなのでしょう。

ドンマちゃん、排泄の感覚もつかみにくく、トイレに行くのがギリギリになってしまう。普段はトイレに行きたいと思わなくても決まった時間に行くようにしている、というエピソード。
これは、子どものトイレトレーニングを思い出しました。子どもも膀胱に尿がたまる感覚が分かるようになるのが2歳~3歳と言われていますよね。
トイレに行きたいという感覚が分かるからトイレに行く。その感覚がないと漏らしてしまうこともある。
感覚鈍麻というのは、思っているより大変そうです。

もうひとつ思い出したのは、認知症のこと。
認知症では、暑さや寒さ、痛みなどに対する反応が鈍くなることがあるそうです。
認知症が進行するにつれて脳の痛みを認識し処理する能力に影響が出ること、言語能力や自己表現の能力が低下するため、痛みを感じていてもそれを適切に伝えることが難しくなることが原因だそうです。
ドンマちゃんの感覚鈍麻とはメカニズムが異なるかもしれませんが、「感覚鈍麻」というのはまったくの他人事というのではないな、というのに気づきました。

②感覚過敏・鈍麻から派生する孤独感、劣等感

感覚が過敏なこと、感覚鈍麻なことだけが困りごとではありません。
カビンくんは、学校の騒がしい声や明るい光に頭痛がするし、給食はほとんど食べられるものがない。それが元で、友だちとの交流を避けがちになり、みんなと同じことができないことで劣等感を持ちます。
ドンマちゃんも、まわりの友だちが「さむーい!」などと共有する感覚や感情に同調できない。自分がまわりとズレているなと感じている。

カビンくんとドンマちゃんは、同じクラスになり、お互いに自分の感覚について話をすることで、安心な場を手に入れていきます。
人に話して受け入れられることで、自分のことを受け入れられるようになる。
「できないよりできるほうがいい」「できない自分はダメだ」というところから、「できてもできなくてもいい」と思えるようになる。

感覚過敏・感覚鈍麻それ自体でも苦労している上に、人と同じでないこと、友だちと共感しあえないことで自己評価が下がってしまう。
過敏さ、ドンマそれ自体はすぐには変えられないかもしれないけど、そこから派生する孤独感は緩めることができるということが示唆されています。 

③ 感じ方の違いは知らなければ分からない

感じ方の違いは、外から見ただけでは理解できないものです。
人それぞれが持つ感覚の世界は独特で、その感じ方は言葉だけでは伝えにくい。
ですが、その違いを理解する糸口として、「カビンくんとドンマちゃん」おすすめです。
生活の中でどう困っているのか、過敏さがどう自己評価に影響するのか、ストーリーを楽しみながら知ることができます。
当事者も当事者じゃなくても、自分とは違う感じ方の人がいる、ということを知ることは世界を広げてくれると思います。

著者の加藤さん、感覚過敏の当事者や家族が集まるオンラインコミュニティをDiscordで運営しているそうです。
私はこちらものぞいてみようと思います。

今回はこのあたりで。ではでは。

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