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酒場の記憶

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儚い記憶を辿った酔どれの記録。
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はじめての根津

はじめての根津

東大とも谷根千とも縁遠い人生ゆえ、根津で呑むのは初めてだった。

戦前の匂いを色濃く残しながらも真新しい洒落た路面店が混じり込む町並み。これがいま流行りのレトロモダンか。

そんな中、私が心惹かれたのは小洒落たベーグル屋など駆逐するような佇まいの『木曽路』だった。

カウンターだけの小さな酒場。
「2人、行けますか?」と覗き込む私に、御年92歳の女将さんがノリよく「温めておきましたよ」と座っていた

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ハマらなかった@野毛呑み

ハマらなかった@野毛呑み

 久々横浜に来たので、野毛を訪れてみた。
 結論から言うと、ハマらなかった。敗北だ。すべては訪れるタイミングが悪かったようだ。訪れたのは、休日の昼の2時。数年振りに桜木町駅の改札を出ると大学生風のカップルや家族連れが目につく。概ね左手のみなとみらいへ向かっていく。こちらは地下へ潜り、野毛ちかみちを歩く。ここですでに立ち呑み屋がちょろちょろ並ぶ。ただ午前中からややハードな野暮用があったので、昼とはい

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ビワイチ③番外西成

ビワイチ③番外西成

ビワイチから、同行者の住む奈良の川上村へワープ。
美しい吉野の景色に抱かれ、良質の温泉で疲れを癒し、翌日。

9時過ぎの特急で大阪阿倍野。御堂筋線で隣の動物園前駅へ。

西成の商店街のゲストハウスへチェックイン。
親切、清潔、低価格と完璧な宿。
大きな声で、「いい1日を!」と送り出してくれる。泣く。

一食目は、きらくで、ホルモンうどん。中華そばにもできる。
脂がたっぷりで、熱々のうどんが冷めず、

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遺骨を持って

遺骨を持って

「遺骨を持って馴染みの酒場をまわってくれ」

冗談とも本気ともつかない酔狂なことを言われていた。

過日、八広の日の丸酒場を訪れた。

「痩せちゃってたからね」

「はい。また来たがっていたんですけどね」

「うん、うん」

「で、陰膳的に、ボールをもう一杯いただけないかなって」

グラスをうつくしく満たす焼酎ハイボール。

「これは俺からね」

好きだったアテで呑むボールは今夜も美味しい。

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一人忘年@きよし→小島屋(堀切菖蒲園)

一人忘年@きよし→小島屋(堀切菖蒲園)

こんなご時世だが、せっかく近くまできたので、11カ月ぶりにやってきた。

口開け5時過ぎ。

小島屋は灯りは灯っているが、暖簾はまだ。

今夜は、きよしからのスタート。

入口の張り紙に驚く。

コロナ対策の為、地元のお客様のみの営業とさせていただいている……という。

地元のお客様という意味では、私は該当しないのだろうが、かと言って一見というわけでもない。混んでいれば、地元の常連さんに席をお譲り

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岩金(東向島)→日の丸酒場(八広)

岩金(東向島)→日の丸酒場(八広)

緊急事態宣言が解除された間隙を突いて、4ヶ月ぶりに酒場を訪れた。

空白期間はアルコールもほぼ口にしていないとあって、河岸選びに興奮したが、久々下町のガールズバーにした。

「岩金」

16時開店かと思いきや宣言解除を受けて、17時開店になっていた。

1時間ほど瞑想して過ごし、17時5分頃に入店。

カウンターにこそ飛沫防止カーテンがかかっているが、その他は異常なしだ。

各テーブルには消毒スプ

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創業100万年@『大衆酒場カネス』(一之江)

創業100万年@『大衆酒場カネス』(一之江)

2020年は、9.11の2001年、3.11の2011年のような記憶のされ方をするのだろうか。

バブル崩壊やリーマンショックとも違う、どんよりとした空気が漂っている。

そんな沼地を歩き続けているような日々に、嬉しいことがあったので、久々酒場に行こうと思った。

半年ぶりだ。

久しぶりにカネスでぼーっとゆったりしようと一之江まで足を伸ばしてみた。

口開けの16時半過ぎに暖簾を潜るとすでに常連

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酔いどれの憂鬱@かどや(中野)

酔いどれの憂鬱@かどや(中野)

YURIKO KOIKEの会見で、東京は緊迫モードに突入した。早くもスーパーでGGY中心に買い占めが横行し始めているという。

全盛期のYUJI ODAをもってしても、レインボーブリッジさえ封鎖できなかったのに、YURIKO KOIKEに東京を封鎖することはできるのだろうか。

想像したくもない。

週末に予定していた旧友との会合もキャンセル。

これは参加者の一人が骨折、入院という不運に見舞われ

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名店に、名大将あり@丸千葉(南千住)

名店に、名大将あり@丸千葉(南千住)

あの『大林』が休業したという。

以前はあの界隈にもちょこちょこ呑みに訪れていたが、引っ越して距離も遠くなり、だいぶご無沙汰になっていた。

噂は確かなのか。百聞は一見にしかずだ。

南千住駅は、JR常磐線・東京メトロ日比谷線・つくばエクスプレスが走っていて、案外、交通の便がいい。

最近は高層マンションもできて、再開発が進んでいる。駅前はどこの駅とも変わらない雰囲気。

しかし、あしたのジョ

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東京のちいさな沖縄@しゃけスタンド(代田橋)

東京のちいさな沖縄@しゃけスタンド(代田橋)

先日訪れた方南町から環七通りを南へ下りていくと、甲州街道が見えてくる。杉並区と世田谷区の境界線だ。

世田谷側には京王線の代田橋駅がある。降りたこともなければ、急行で通過した記憶すら怪しい。方南町以上にこれまで縁のなかったエリアだ。

そんな未開の地をふらつきながら、環七通りからちょいと路地に入ってみた。

そこはオリンピックを半年後に控える東京では、もはや珍しくなったバラックが建ち並び、OOHス

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休日、昼呑み、パラサイト@やしろ食堂(方南町)

休日、昼呑み、パラサイト@やしろ食堂(方南町)

渋滞していた仕事がひと段落ついたので、昼飯を食べに丸の内線の終点・方南町を訪れてみた。

マイナーな印象だったこの街も、いまや財閥系の真新しいマンションが建ち並び、『アド街』『モヤさま』でも特集されたりと「いまちょっとキテる街」へと変わりつつあるようだ。違うか。

駅前の小さな商店街を歩く。

お、書店だ! いまや街の小さな書店は珍しい。時代も変わった。せっかくなので文庫を2冊買う。

可愛い花屋

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呑み初め2020@きよし(堀切菖蒲園)

呑み初め2020@きよし(堀切菖蒲園)

「くっ、働き方改革の余波がこんなところにまで…」

昼呑み上等15時オープンの『きよし』が、定休日を1日献上する引き換えに、いつの間にか日曜以外は17時オープンになっていた。

こんな時こそ角打ちの出番だ。ひとまず駅裏の『金子酒店』へ向かう。

曇りガラスに映る微動だにしない人影に違和感を感じつつ、引き戸を開ける。

なんと制服姿の若い警官が、バツの悪そうな表情で振り向いた。

「え、正月からサボ

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