アフォーダンスについて学び始めました(後編)

さて、前編で佐々木正人さんのアフォーダンス入門を読んでアフォーダンスとは何かを書いてきましたが、続きに行きます。
ここからアフォーダンスが人に与える影響についての話になっていきます。

環境からの情報で行動を決めるのは脳ではない??

視覚的に入ってくる光学的情報は脳で画像が作られるとすると人によって違うとなります。
この例として絵の情報が紹介されています。
でも一つの絵の中の風景が変われば視点が移動したことが同じように分かります。
これは風景か変わることで絵から「視点が移動した」という情報を与えていることになります。

また、視覚、聴覚、味覚、嗅覚、触覚の知覚システムについても書かれています。
重力に対して姿勢を定位するシステムとして平衡胞が紹介されています。
これはヒトの前庭に似ているようなものでした。

また全身ネットワークの絶え間ない調節をベルンシュタインは協調と呼んだそうです。

ダイナミックタッチと赤ちゃんの発達

ダイナミックタッチは人の身体からさらに広く知覚することができ、棒を振った時の感覚からどこまで届くかを知覚できたりします。
ここには棒のアフォーダンスがあります。
また、豆腐の固さを知覚して適切な力で触れるといったことができます。
生まれた赤ちゃんは自分の身体を動かすことで大きさを知っていきます。

また、触覚だけでなく、光からも姿勢を定位します。
実験で目の前の壁が僅かに上下した時、人の頭も同期して上下します。
動いた時の光学的変化をオプティカルフローと呼び、オプティカルフローへの同期によってこのようなことが起こります。

子どもの発達に関してはピアジェとテレンのそれぞれの研究と主張に触れられており、そこもとても興味深かったですが、この話題は別の機会にじっくり書きたいと思います。
テレンのダイナミックシステム理論は現在のリハビリテーションに大きく関わっているので、ここだけでかなりのボリュームで書きたいことが出てきます。

私個人の考察と感想

移動と視覚的変化を結びつけているのは発達の過程を考えると生得的というよりは乳児期に動く経験を通して後天的に学習して獲得しているのではないかと思います。

棒の使い方において操作とダイナミックタッチでは身体の使い方が違ってきますが、これは前編の缶を叩く職人の話に似ています。
例えばラケットの長さも熟練者と初心者では振った時に得られる情報とそこから長さを判断する精度は当然異なってきます。
ここにはやはり経験と学習があると考えられます。

こうして考えるとやはり脳の関与は切り離せないのではないかと思ってしまいます。
おそらく脳の中にもアフォーダンスに関与する部位があるのではないかと思います。

ただ、個人の中の学習と異なるのはアフォーダンスに対して群として同じような反応をすることが
あげられます。これは歴史や文化との関係もあるのではないかと思うので、同じ環境からの情報でもそこからの行動は生活歴の影響を受ける気もします。

 さて、ここまで個人的に経験や脳とアフォーダンスについて思うことを書きましたが、ギブソンのアフォーダンスでは脳とアフォーダンスを切り離すように説明されている点には時代的な背景が影響しているのではないかと思います。
1960年代のギブソンの研究では現代の脳科学の知見までは入っていないでしょう。
環境から生体が受ける刺激とその直接的な影響は単に経験とか脳での情報処理の影響とは言い切れないものもあるとは思います。
 しかしながらこういったことは脳での情報処理と環境からの直接的な影響の両輪が必要だと思います。環境が行動決定に影響を与えるのと同時に環境からのアフォーダンスの受け方にも個人の記憶や経験の影響はあると考えられます。それが同じ条件での行動選択の多様性にもつながっているのではないでしょうか。
個人的に感じたこの辺りの違和感は時代的な背景も含めて解釈していくとギブソンがなぜアフォーダンスと脳が中枢として働くことを切り離したのかが見えてくる気がします。

 発達は環境の影響を受ける、現在は当たり前と考えられることですが、恐らく1960年代のギブソンの時代には反射や神経成熟説が発達における中心にあった頃だと思います。リハビリテーションでは神経促通手技が中心に行われていた時代だと推測されます。
本の紹介では僅かに触れたのみですな、後半で登場するテーレンは子どもの発達の多様性や環境の発達への影響をダイナミックシステム理論として紹介しています。これは現在の子どもの発達の考え方に大きく影響を与えているものです。現在はさらに研究が進んで神経群選択説が出ていますが、間違いなく環境は発達や学習に影響します。
全体として考えていくと環境にあるアフォーダンスから選択される行動はそれまでの個人の人生における経験や学習の結果が少なからず影響しているでしょう。

ダーウィンが生物としての進化の中で変化するもの、ギブソンが環境からのアフォーダンス、テーレンが発達が環境との相互作用で進むこと、どれも現在子どもの発達を考える上で重要なポイントとして残っています。
日本の現代人の体型や顎のサイズの変化もダーウィンのいう進化の結果の一つだと思いますし、文化の変化により環境から発達への作用も変化しています。
例えば顎の形態が変われば食べたいと思うもののも変化します。
でも生活環境の中でどのようなものを食べているかによっても顎の大きさの発達は変化します。
脳内のネットワークも経験により変化します。
こうしたことの結果として環境にあるアフォーダンスの受け取り方が変化してくるのだと思います。

いろいろ書いて来ましたが、それぞれの時代において行われた研究や提唱された理論も、先人達の情熱もこれからの子ども達の未来を考える私たち大人が知っておいた方が良い歴史だな、と改めて思いました。

アフォーダンスは奥が深くまだまだ入り口に片足がちょっとかかった程度ですが、これから学びを深めていきたいと思います。

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