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93歳!特養暮らし ~ここで暮らせて幸せ~

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【宣伝会議 編集・ライター養成講座34期】優秀作品。特別養護老人ホームで暮らす祖母の生活をインタビューしたものです。 ※web用に編集しています。 ※プライバシーにあたる部分は… もっと読む
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【93歳!特養暮らし】 ここで暮らせて幸せ

私の祖母は、現在93歳。東京都下にある特別養護老人ホームに入居中だ。明るく元気なので、このままずっと生きてくれるような気がする。本人も、「死んだお爺ちゃんは、全然、迎えに来ないねぇ。」と嘆くほどだ。 あのおっとりしとた祖父が、迎えに来るなんて気の利いた事はしないだろうが、93歳だ。いつ死んでもおかしくない。だから、「おばぁ録」を残すことにした。 『おばぁ録①』へ続く→

『 おばぁ録① 』 ~ おばぁの今 ~

●祖母の名前 勝間文子(※偽名です) ●大正13年6月6日生まれ ●北海道旭川市出身 ●脊椎狭窄症で、東京都下にある特別養護老人ホームに入居中。 「特別養護老人ホーム」。 地方自治体や社会福祉法人が経営し、一般には「特養」の略称で呼ばれる。    入居条件は、病気や障害で生活が困難な介護認定を受けた高齢者が対象である。民間の有料老人ホームより医療費が控除されるなど、経済的メリットが多い為、入居待ちが出るほど人気らしい。 入居者にはそれぞれ、「寝たきり」や「認知症」、「

『 おばぁ録② 』 ~ おばぁの一日 ~

祖母:「朝の5時には起きるわね。目が覚めちゃうから。朝食までベッドの上で待ってる。6時ぐらいから職員さんが、周りの部屋のおむつ替えに回るの。7時半になったら、朝食。ホールに自分で行くわ。朝ごはんは、白米の人もいるけれど、私はパンなの。何でパンになったかは忘れちゃったけど、朝ぐらいパンが食べたいから良いわ。メニュー全体が洋食になる訳じゃないから、パンとお味噌汁の組み合わせになるけど、気にならないね。それからお昼まで部屋でゴロンとしてるの。お風呂がある日は、自分でお風呂の場所まで

『 おばぁ録③ 』 ~ おばぁの本音 ~

私:「いつも勝手にお土産を選んでるけれど、本当はこういうのが欲しいとかある?」 祖母:「無いわよ~。遊びに来てくれるだけで嬉しいから~。」 私:「いやいや。何でも言ってよ。」 祖母:「いいのよ~。買ってきてくれたら、何でも頂くわよ。」 私:「いやいや、せっかく来るからさ」 押し問答の末、私が次の言葉を発した途端、祖母の本音がでてきた。 私:「じゃあ、お洒落な流行りのケーキでいい?デパートじゃないと買えないような。普段は見ない物の方が食べたいでしょ?」 祖母:「・

『 おばぁ録④ 』 ~ おばぁの昔 ~

祖母が生まれたのは、大正時代13年。関東大震災が起きた翌年だ。しかし祖母から聞く歴史の話に大事件は出てこない。 祖母:「北海道の旭川に住んでいて、お父さんは銀行員だったの。黒壁に囲まれた家に住んでたわ。あの当時では、お金がある方の家だったと思う。家には″ねえや ″もいたわね。ぼんやりだけど、覚えてるわ。川を渡った所に嫁いでいったな。あっ、で、10歳の時に私のお父さんは死んじゃってね。風邪だと思ってたら、肺炎だったのよ。あっという間だった。小さかったからよく覚えてないけど。そ

『 おばぁ録⑤ 』 ~ おばぁの女子力 ~

祖母:「赤い服を着る事だけが、女らしさじゃないのよ。身だしなみ、所 作、言葉遣い、ふるまいも女らしさには大切なのよ。」 祖母は、外に出られる事はめったにないけれど、髪型を気にしたり、その日の気分でブローチをつけたりしてお洒落だ。それに、裁縫も得意でチョイチョイと繕ってしまう。私の家事のことも、自炊してるか、洗濯は丁寧か、さり気なくチェックされている。そして簡単なことが出来ていないと嘆かれる。 また祖母は、日常の細やかな所にまで気配りを忘れない。例えば、私がお土産で持ってい

『 おばぁ録⑥ 』 ~ おばぁの考え ~

私:「最後に、90年生きてきて、こうしとけば良かったってことある?」 祖母:「たくさんあるわよ。でも、今更どうしようもないじゃない。後悔なんて掘り出せばたくさん出てくるんだから。」 祖母:「現実を見なさい。いつまでも夢みて生きちゃダメよ。理想の人と結婚しようが、子供が育ったら親の介護があるかもしれないし、親の介護が終わったら今度は自分が倒れるかもしれないし。どんな事が起こるかなんて分からないの。理想や夢ばかり見ないで、『今起きてる現実』と向き合って生きなさい。」 祖母: