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汝、星のごとく 『正しさなど誰にもわからないんです』

著 凪良ゆう
2023年本屋大賞の受賞作品。
先月から、本に関わる職場に勤務している身としては、読んでおきたい、知っておきたいという純粋な好奇心があった。

瀬戸内の島で育った高校生の暁海と、転校生の櫂が惹かれ合い、すれ違い、別れ、しかし離れていながらも互いを思い合う14年間の恋愛物語だ。
高校卒業後、暁海は地元に残り就職、櫂は上京し漫画家として活躍する。

正直、淡々とした日常の中に、男女の恋愛があって、生活リズムなどが故に一時的に離れるが、そう簡単には忘れることができない、、、といった定番ラブストーリーだと予想していた。
(ごめんなさい、凪良さんの作品を拝見するのは初めてなもので)
しかし、ページを進めていくと、ヤングケアラー、田舎の閉鎖的な雰囲気、男女差別、地域格差、、、と時事問題が詰め込まれ、美しい表現とは裏腹に、心の中にズドンと重いものがのしかかる。
想いが通じ合っているシーンでさえも、登場人物は独りで葛藤し、幸せという名の布団に思いっきりダイブすることを恐れているようである。
読んでいて、苦しくなる。
それが、登場人物の力ではどうしようもできない困難が降りかかり、もがいても、先が暗く、踏ん張ることが嫌いな私からしてみれば『逃げちゃえばいいのに』と突っ込みたくなるが、暁海は逃げないのだ。
鬱病の母との生活のために、やりがいのない仕事をこなし、手取り14万ほどの給料でやりくりする。
逃げない強さ、しかしポンと倒せばそのまま起き上がらなそうな、ギリギリの精神で生きている彼女の姿を追うのが辛い。胸が締め付けられる。
本当は櫂を頼りたくても、すれ違いばかりで、櫂は櫂で漫画家としての相方を失い、自由奔放な母の恋愛に振り回され、一時は成功した漫画家としての人生を諦めてしまう。

男女のすれ違い、再会、といった題材は今まで恋愛もので幾度となく取り上げられてきた。
では、なぜ本作品が人気を集め、本屋大賞受賞になったのか?

時事問題を取り扱っている、瀬戸内の情景を美しく描いている、、、様々な理由があると思うが、暁海の生き様にあると思う。
暁海が、問題から逃げ、楽して生活していれば、読み手のこちらもしては心落ち着くかもしれないが、それでは今までの恋愛小説となんら変わりない。
暁海は、櫂を想いながら、独立した生活をできるための準備を進めていた。
会社勤めをしながら、合間を縫って刺繍で作品作りをし、その努力が身を結び、刺繍一本で生活を成り立たせることができた。
母を養うため、だとしても、自堕落な生活をせず、好きなことを仕事にした彼女の姿勢は、現代のヒロインに相応しい。
令和の恋愛ものの特色だと感じた。
脆いだけではない、真の強さを、言葉数ではなく、行動で示した彼女は美しい。

自分で自分を養える、それは人が生きていく上での最低限の武器です。

刺繍を指導している恩師の台詞である。

いざとなったら、どこにでも飛び立てるように。

その手段は、趣味を仕事にしたり、恋愛以外の何かに没頭したり、、、様々ある。

暁海が恋愛依存にならず、人生をかけて取り組んだ刺繍が、美しいスパンコールやビーズのように、生活を彩っていった。

一方、櫂は漫画を諦めてからは、酒と軽い女付き合いを繰り返す。
櫂が、もっと早く、漫画を再開していたら。もっと早く、新たなステージに立つことができたら。
暁海も櫂の刺繍は、どんな輝きを魅せたのだろう。


私たちは、世間体を気にしてしまう。
しかし、本作品では、『自分の人生を生きよう』という力強いメッセージを訴えている。

正しさなど誰にもわからないんです

暁海と櫂の高校時代の先生の台詞である。

過去に好きだった彼から言われた言葉を思い出した。

『誰のことも考えないで生きてみたほうがいい』

暁海や櫂のように強い責任感があるわけではない。
しかし、周りの目を激しく気にする私に、こんな言葉をかけてくれた。

実際、そんなこと不可能だ。
思いやりがもはや当たり前のように扱われるし、自分のことだけを考えて生きていれば、他の誰かに迷惑がかかる。

ただ、自分の人生を生きることは、忘れてはならないのだ。
自分の好きな糸で、自分の好きなビーズで、自分の好きな模様を紡ぎたい。

たまに歪になったり、思うようにいかなかったり。
センスが悪いと揶揄されたり。

しかし、どこか一部分でも、納得のいく模様を作りたい。

そのためのワンステップとして、今の会社に就職した。

私の人生って、段取りが悪くて(コスパが悪い人生だと自負している)今の刺繍はガタついて、おしゃれじゃなくて、かっこ悪い。

ちょっとずつ、いい糸、いいビーズを手に入れ、好きな模様を作り上げていけたら。

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