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あしたから出版社 何にでもなれる私たち

あしたから出版社 著 島田潤一郎

決心さえすれば、だれでも、あしたから、あたらしい肩書きくらいはつけることができる。

たったひとりで出版社を立ち上げた著者は、そう話す。
あしたからYouTuber。あしたからバンドマン。
もっと狭めたっていい。簡単でいい。
あしたから規則正しい生活をする人。
あしたから素直になる人。
あしたから無駄にコンビニに寄らない人。
(すべて、私の決意表明である。特に、節約のためにコンビニへの寄り道は避けたい所存。ローソンのカヌレをとりあえず手に取る癖をやめたい所存)
なんでもいいのだ。そして、なんにでもなれるのだ。

彼の言葉は力強く、しかし包み込むように温かい。
しかし、強い意志の言葉と反して、彼の人生は波瀾万丈だ。

大学卒業後、アルバイトをしながら小説家を志すも、自分には才能がないと諦めてしまう。
夢に敗れたあとの彼の人生も面白く、(インタレスティングの方ね)沖縄に移住しアルバイト先の女の子に片思いしたり、その恋に玉砕したり、ヤケになってアフリカに渡ったり、とにかくアクティブだ。
そして、親友のように慕っていた従兄弟の死をきっかけに、叔父と叔母を喜ばせるために本を作る決心をする。
そして、『夏葉社』という小さな出版社を設立した。

彼の本への愛はもちろん、本屋への愛も相当だ。

本の、文学の、いちばんの魅力は、その対極にあるのであって(便利で早い)本を急いで手に入れて、急いで読まなければいけないのであれば、そもそも本なんて必要ないのだ。

本屋さんへ行く、ということは、だれかと会うことと同じだと思う。
(中略)
その意味(本屋を通して会いたかった人に会う)では、本を読むということも、人と会うことと同じだ。

本は、手軽ではないからこそ、じっくり味わい、身になるのだ。
テレビや動画を部屋で垂れ流すのではなく、自分の指でめくり、読み、反芻する行為は、なんでもスマートにこなすことが当たり前のご時世では『手間』だろうか。
その手間が本の魅力なのだと、彼は語る。

ここまで本の良さを語れる人は、彼の他にいるだろうか。

そして、本を読む行為だけでなく、本屋に足を運ぶ行為こそ重要なのだそうだ。

すべては、出会いこそが人生だから。

海外に移り住んだり、ほんの編集の仕事を通したりして、彼は様々な出会いを経験している。
その出会いによって、傷ついたり、嬉しくなったり、して、中には今でも繋がりがある人もいる。
その出会いは、決して無駄ではないし、そもそも無駄な出会いなどないのだ。

本の出会いにも、無駄はないのかもしれない。
あらすじと表紙だけでは、その作品の100パーセントを知ることなどもちろんできない。
だからこそ、手にとって読んでみても『いまいちピンとこない』『私には難しい』などお気に入りの作品には至らないといったケースも少なくない。
しかし、『自分には合わない』という素直な感想は無駄ではない。
そこから、自分に合う、読みやすくて面白いと思える作品を探していけばいい。

本屋には、数えきれないほどの書籍が並んでいる。
私は、SNSや口コミなどで気になった本を、本屋で見つけて買うことが多いが、本屋でビビッときた作品を見つけて購入することも多い。
そして、その宝探しのように、ひとつの作品を選び、出会う課程こと読者の醍醐味だと思うのだ。

本作品を、読んで、彼を魅力的な方だと率直に感じた。
何が魅力なのだろう。
アクティビティではあるが、友達が多くてひっきりなしに彼女が耐えないタイプとも違う気がする。
(傷ついたらごめんなさい。でも、そのようないわゆる『陽キャ』であれば、彼の人生は全くの別物だっただろうし、この作品も生まれなかったと思う)
友達はたくさんでなくても、彼の周りには、誰かがいる。
ひとりで出版社を経営していても、誰かが彼を認め、応援している。
彼の、出会いを大切にするスタンスが、周りを変えているのだ。

この作品は、彼が出版社を立ち上げ、本を世に送り出すまでの過程の奮闘記、と一括りにしては勿体無い。
彼が、どんな出会いをして、どんな別れをして、どんな人生を歩んでいるのかという、伝記と呼ばせてほしい。

この伝記は、出版社という最強のパートナーと共に、様々な出会いを通して成長していく彼の生き様が描かれている。

本作品から、勇気をもらった私も、ここでひとつ、決意表明。
あしたから《出会いを大切にする人》。

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