初恋の運命

さよなら 


自分がそんな純粋で男じゃないことぐらい
わかってる。けどさ…

初恋は誰にでもあると思う

それが誰であろうと良い思い出になる

僕たちはもう出会わないはずの運命だったのに

出会ってしまった


電車に揺られながら音楽を聴く

好きなバンドの曲をずっと聴く

僕は曲調より歌詞で決める派だ

そのときの自分に置き換えて聴ける曲が好きだ

そんな何気ない日々 今日も曲を聴く

「毎日見る景色に貴方という光が差し込んでくれないか。いつかのサヨナラを返しに。」

お気に入りの歌詞。

僕の初恋は高校2年の秋

学校に行くのに電車で1時間かかる高校だった

帰りの夕方の電車の中

あなたを見つけた

真っ黒で綺麗な長い髪の毛

白くて透き通った肌

青っぽいシワひとつないスーツ

赤いヒール

僕に秋の風が吹いた

それから毎日その時間に帰るようになった

親に褒められた

僕は今まで夜中に帰ってきていたから

その人に会うために遊ばなくなった

学校に行ってもその人のことばかり考えてしまう

僕は本気で好きになっていた


ある日のこと

彼女が急にいなくなった

1日、2日、3日、…来なくなった


そのタイミングで僕のおばあちゃんが倒れた

最近良いことがない。

もう諦めなきゃいけないのか。


それが始まりだと知らずに落ち込んでいた。


おばあちゃんが入院した。

お見舞いに行く毎日

どちらにしろいつも通りの電車に乗って帰る

彼女がいない電車に揺られながら


おばあちゃんは元気そうとはとても言えない

横になってぐったりしている

幼い頃から両親がおらず

ここまでおばあちゃんに育ててもらった

だから放っておけない 心配だ。


「長くないです」

今日病院の先生に言われた

頭が真っ白になった

長くない?治せない?

いい加減にしろ

僕の大切なおばあちゃんだぞ

見殺しにしろと?

冗談じゃない

この医師ふざけてる

死ね

死ぬべきなのはお前だ

そうだ。こいつが死ねば…


そこから僕は狂い始めた

その医師の後をつけるようになった

家を特定した

家族構成も把握した

妻が1人 娘が1人 愛人が1人 セフレが2人

最低な人間だな

死んだ方がマシだ

いや今から殺してやるから結果オーライか

まだ準備段階だよ

その日から俺は医師を殺す計画に時間を費やした

学校が終わったらすぐに帰り、ノートに計画を書く

そして遂にその日が来た

セフレとホテルから出てきたら腹部を刺す

そしてこの手作りの銃で頭を撃ち抜く

高校2年の冬 

僕は人を殺した

計画はすぐにバレて警察に捕まった

顔や名前は出ないが捕まった

そして牢屋に閉じ込められた

何も起きない 何時かもわからない

そんな環境に今もいる

結局おばあちゃんは僕が高校2年生の冬

人を殺してから3日後に死んだ

あいつのせいで死んだ

医師の妻が僕への復讐でおばあちゃんの酸素チューブを夜中外した。

監視カメラに一部始終が残っていた

後から気がついた。

殺した医師の妻は僕の初恋の人だった

髪がショートになっていて

化粧も変わって

歳をとっていた彼女だった

初恋の人に大切な人の命を奪われた

初恋の人の大切な人の命を奪った

僕はなにがしたかった

これで誰が幸せになった

なにが生まれた

なにが残った


僕の頭の中は黒くて深いどこかへ消えた


牢屋の部屋の電気に自分の着ている服をちぎって作った細いひも状の輪っかを引っ掛ける。

机を下に置き、その上に僕が立つ

そして輪っかに顔を通し、机を蹴る

そのとき好きなバンドの歌詞が頭をよぎった


「最後ぐらいさ君の瞳に僕が映っていて、サヨナラをまたあげたかった」

僕は小さな声で最後の一言を

「サヨナラ 言えなかった」

バタン


皮肉にもその曲の最後の小説の歌詞は

「文豪のように生きたかった。サヨナラを言わずに去る人に惹かれはしないね。謝らない人には惹かれないね。それは自分だった」

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