Naked Desire〜姫君たちの野望

第2回 メモワール その2

ところがそんなある日、意外なところから虐げられる者のために立ち上がる勢力が現れた。そしてその勢力の中心人物は、私もよく知る人物だった。
そして彼らは旧勢力を打倒し、中心人物は新皇帝として即位した。
人々は狂喜乱舞した。ついに、自分たちの願いを聞き届けてくれる人間が現れたと。
国民は口々に
「新皇帝万歳!」
と叫んだ。
国中の至る所に、新皇帝を称えるポスターが貼られ、芸術家たちはこぞって新皇帝を賛美する作品を発表した。
しかし、それもつかの間だった。
新皇帝は、人々の期待を裏切る政策を打ち出したからだ。
人々は落ち込んだ。
新皇帝と皇帝の支持者たちは、自分たちを踏み台にして、権力を握りたかっただけだと。
今回も、自分たちの願いは聞き届けられないのか?
私たちはずっと負け犬のままなのか?
だが、虐げられし者たちは諦めなかった。
やれることをやるんだ! という強い信念で、ありとあらゆる手段で反撃した。
私も、そして私の知り合いの多くも、抵抗運動に参加した。
その結果国内は、国家成立以後、最大の混乱状態に陥る。
もちろん、体制側もただ黙って手をこまねいていたわけではない。ありとあらゆる手段を使って、民衆たちの反乱を鎮圧しにかかった。
かくして国内では、体制側と反体制側の間で、大願成就と陰謀阻止の目的のために、さまざまな陰謀が企図された。
出典不明のウワサやデマも多数流れた。
混乱収拾のために、両者の間で、何回も交渉が行われた。
だが交渉は決裂し、最後は武力闘争にまで発展した。
力と力の対決ならば、体制側が有利な展開のはずである。だが実際にはそうならず、最終的に勝ったのは反乱者たちだった。
もちろん、民衆が自分たちの願いを叶えるためには、彼らが思っていた以上の代償を支払わなければならなかった。
ある者は、家族を失った。
ある者は、友だちを失った。
戦いに身を投じた結果、取り返しのつかない障害を負った人間もいる。
かくいう私も、「竹馬の友」と言われる人を何人も失った。
ある友人は、敵勢力に命を奪われた。
ある友人は、敵勢力に寝返った。
寝返った友人の中には、長きにわたり私たちのそばにいた人間もいたから、精神的なショックは大きかった。
もちろん最後まで傍観者を決め込み、敵側から私たちの勢力に寝返った人間もいた。
傍観していた勢力の中には、両勢力に情報を流している人間もいた。
当然、発足した政権中枢の中にも、「二重スパイ」として働いた人間がいる。
だが皮肉なことに、この対立に決着をつけたのは彼らのおかげだった。
その意味では、彼らの功績は偉大である。
全てが終わってわかったことは、戦争は憎しみしか遺さないと言うことだ。
平和が欲しければ、どんなに時間がかかっても対話を続けるしかないのだ。
そのために、私たちはなんと無駄な時間を過ごし、多大な犠牲を払ったのか!
人間とは、なんと愚かな生き物なのだろうか!
長かった混乱がおさまると、新しい皇帝が即位した。
戴冠式で新皇帝は、問題解決のために武力行使をしないことを宣言した。
だがその言葉に、懐疑的な意見を持つ国民はまだまだ多い。
先日までムダな血を流していたのに、新皇帝の言葉を理解できな人間がなんと多いことか。
私は彼らの意見を聞くたびに呆れてしまう。武力を用いることは、新たな憎しみの種を生むだけだというのに。
それに、新しい体制はまだはじまったばかりだ。
彼らは魔法使いではない。今までとは違う人間が皇帝やこの国の政権についたところで、そう簡単に今までの悪習や恨み憎しみが一掃されるとは思えない。
考えてみて欲しい。今までの体制が、いったいどのくらい続いてきたのかを。数年というレベルではない。数十年、数百年というレベルなのだ。それほど長期間にわたり、社会のあちこちにしみこんできた腐臭が、たった数年で一掃できると本気で思っているとしたら、本当におめでたい。
だから、我慢して欲しい。
自分たちの望む世界を作り出したいのなら。
新政権がちょっとしくじったからといって、不満の声を上げないで欲しい。
少なくても、今の政権はこれまでの政権とは違って、本気で社会を変えたいという人たちの集まりだ。結果を残すにはかなり時間がかかる。
私は、同志たちが、今からやろうとしていることの行く末を、最後まで見届けることができるのだろうか……。
私は、椅子に座りながら思い切り背を伸ばすと、ゆっくりと部屋の中を眺めた。
木製の執務机の上には、未決済の書類が山と積まれている。
見なければならない書類が、山と残っている現実を前にして、私はため息をついた。
カップに手を伸ばすと、残っていた紅茶を飲み干した。

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