見出し画像

朝日ウルルン滞在記〜ベトナム編2〜EP2. 私たちの共通言語〜



赤。オレンジ。黄色。青。



原色に溢れたベトナムの街と人々は日本人と違う色彩感覚を持っているらしい。なぜなら日本とは太陽光線が違うから。
太陽光線が強いベトナムで育った人々は、世界が鮮やかに映っていて赤味を帯びているらしい。ちなみに日本は大気がブルーに染まり、世界は青味帯びている。そんな色彩感覚の違いから、私たちとの性格や考え方の違いも生まれているのかも。







引き継ぎ、大晦日のパーティーは続いていた。女性陣は片付けを始める中、男性たちの飲み会は終わらない。「ゾォ!」という掛け声で乾杯し、一気飲み。そして握手。何回繰り返されたか分からない。
場が最高潮に温まってきた今。その時だ!と、私はナムに耳打ちした。にやっと笑ったナムは「いいよ。」と笑う。私は、洗い物をするリンの元へ向かった。

「リンちゃん!用意するよ!」
酔っ払った赤い顔でリンに話しかけると、リンは
「人がいっぱいだから嫌だよぉ〜!恥ずかしいよぉ〜!」とトイレに隠れて腕をクロスしバツマークを作った。だがしかし、顔はめちゃくちゃに笑っている。
今しかないよ!と手を引くと、意外とすんなり私の元へやってきた。裏腹、である。





リンのベッドで風呂敷を解く。
飯口登喜子様と書かれた包みを開くと現れたそれは、ベトナムの色彩、鮮やかなオレンジに赤や緑の花が描かれたお着物だ。

私のこの旅の最大の目的。それは結婚のお祝いの品として、祖母の形見であるお着物をプレゼントすること。そしてその姿を、テトで集まった家族に見せてあげることだった。




10月のはじめての滞在でナムリンには溢れんばかりのおもてなしをして貰い、その感謝を結婚祝いで返したかった私は頭を抱えた。日本の何かを持っていくべきなのは分かっているけれど、日本に4年いたふたりに珍しいものなどもはや無い。ふたりを含め、テトに集まるみんなを喜ばせる品が思いつかなった。


そこに救世主が現れた。母である。「この着物持っていきなよ。」と、祖母、母、私と三代で着たこのお着物を出してくれた。はじめはこんな大切なものを持っていくの⁉︎と思ったけど、母の
「この着物が海を越えるなんてきっとババも喜ぶよ。」の一言で決心した。

ドレスアップやおしゃれが大好きなリンに着せてあげたい。ハノイから離れた田舎町で新しい生活をするリンに喜んでもらうためにこの着物をプレゼントしようと思った。
箪笥に仕舞われているだけのこのお着物のためにも。あいにく私はオレンジ色が全く似合わないのだ。



木彫りの重厚な鏡台でメイクをし髪を整え、袖を通すと、リンはお着物の独特な冷たく柔らかい質感にはしゃいだ。嬉しそうに鏡を見るリンに酔っ払いの私は着付ける気合いを入れた。
紐を縛るたびにきつくないかと確認し、大丈夫と言うリンを信じて帯をキツく締める。凛とした表情に変わったリンは黙って鏡を見つめ、生地が擦れ合う音が部屋に響いた。

できたよ!と背中を軽く叩くと、「ありがとうねぇぇぇ!」と後ろを見たり、襟を押さえたりとリンは忙しく喜んでいた。その顔が見たかったんだ!

私も急いでベトナム衣装のアオザイに着替え、(リンが着物を着る代わりにアオザイを着る取引をして着付けを説得したのだ)キャッキャッと女子ふたりで整え合い、ドアを少し開けてナムを呼んだ。

「でてきていいよー!」と酔っ払ったナムが叫ぶと、みんなが拍手をしてくれた。
顔を見合わせてドアを開けたリンに、みんなは大きな歓声を上げた。 



黒地に金や赤の花が描かれた帯とオレンジのお着物は、ベトナムの太陽光線によってより一層鮮やかに輝いていた。




その後1時間は撮影会。酔っ払いの私たちはノリノリでポーズを決める。そして求められる握手の嵐。そうです!私が日本で頑張ってきたナムリン
の自慢のともだちでーーーーーす!!!
とドヤってみた。

ナムはリンの横に立つと照れ臭そうにリンを褒める。が、恥ずかしいので頬を摘む。リンは怒って殴りかかる。立派な夫婦漫才だ!
「喧嘩しないのー」とカメラを構えると笑顔でこちらを向いた。最高の夫婦、私の大切な親友の姿をとらえた。



宴会を終えると、休む間もなくナムのお兄さんのカラオケ屋へ向かった。そこでもまた飲んで、歌いまくった。この土地の警察やヤクザを取り仕切っているらしい人やギャルとも遊び、ヘトヘトである。
これで終わりかと思いきや、今度は昼間私たちを延々と撮影していたナムのおじさんの家でパーティー。もうお腹に隙間はない。


2月から日本で働くというナムのいとこは日本語が少し話せて、ナムリン以外とはじめて直接会話をした。好青年。抜け出して喫茶店デートをした。がしかし、ほぼ日本語講座。愛の言葉だけは達者であった。日本人にも見習ってほしいものだ。



やっとナム家へ着いたのは22時半。これからカウントダウンである。テレビではベトナムの紅白歌合戦をやっており、ナムはまた別のいとことトランプ。近所はほぼ親戚のため出入り自由。気持ちばかりの筋トレをした。


23時半になると、ナムはおもむろに何か準備を始めた。打ち上げ花火だ。
バン!!!と銃声のような音が近所で飛び交う。新年の花火を打ち上げるのだ。
ナムの両親とナムリン、私の5人は上着を着て外に出た。

「あと30秒!」とナムは叫ぶと、準備していた花火に火をつける。



バーン!!!




頭上で大きく開く花火をはじめてみた。
赤。オレンジ。黄色。青。
キラキラと大きな音を立てて開く花火は私たち5人を照らす。若い3人で火をつけて走って離れて打ち上げる。気をつけて!と心配するお母さんと。ビデオを撮り続けるお父さん。
これを繰り返す私たちは、これからはじまる2020に幸せを見ていた。





ベトナムの色彩に照らされた今日。
私たちの共通言語は鮮やかなこの色彩だった。


5人で写真を撮った。まるで家族写真のようだった。


次回に続く。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?