けっきょくプロットはいるの?いらないの?

定期的に吹き上がる話題なので、個人的な思考の整理も兼ねてまとめてみました。

結論から言うと、プロットは必要な場合もあるし必要ない場合もあります。ケースバイケースです。

もちろんこれだけだと何の説明にもなっていませんので、以下詳しく見ていきたいと思います。


1プロットには2種類ある

そもそもここをはっきりさせないために、お互い違う対象について話しているのにそれに気づかないということになってしまっているパターンが見られるように思います。

2種類というのは
①自分用プロット(設計図)
②他人用プロット(企画書)
です。

①は登場人物のプロフィールとか、章わけとか、どこにどんな伏線入れるかとか、そういう「小説本文を書く際に必要になる情報」をまとめたものです。
これは本文を書く本人が、本文を書く際に参照するものなので、本人が執筆前に決めておきたいことや、執筆中に忘れてしまいそうなことなどを書いておくものです。なので人によって書き方が違ったり、分量が違ったり、必要だったり必要じゃなかったりします。
たとえば、キャラクターの情報(このキャラとこのキャラは知り合いだったっけ?とか、魔法の能力は誰が一番で、格闘は誰が一番で、座学は誰が一番だったっけ?とか)を忘れがちな人はキャラクターの情報を詳細に書くと良いし、ストーリー展開の情報(伏線をどこに入れてどこで回収するかとか、過去の回想シーンをどこに入れるかとか)を忘れがちな人はストーリー展開の情報を詳細に書くのが良いでしょう。
記憶力のスペックの問題、あるいは作品の性質によって、プロットの分量が多いか少ないか変わりますし、あるいはそもそもプロットがなくても書ける(プロットなしで書いたほうがいい)場合もあるでしょう。

②はお仕事の相手(作家の場合は担当編集)に見せるもので「作品にどんな魅力があるか」を説明するものです。
これも(基本的には)書き方に決まりはありません。要は相手に作品の魅力が伝わればいいので、その目的が達成できれば形式はなんでもいいでしょう。(基本的には)と書いたのは、レーベル(あるいは担当さん)によって「こういう書き方をしてほしい」という要求があったり、フォーマットが決まってたりするからです。
「作品にどんな魅力があるか」というのはこの場合「その作品がどういう客層にどういう楽しさを提供できるのか」という意味になります。その先には「つまりどのくらい利益を出しそうか」という結論がありますが、そこは一作家が数値化するのは難しいので相手に任せることになるかと思います(もちろんそこまで踏まえて企画書を作る作家さんもいらっしゃるでしょう)。

2状況の分類

では、1であげた2種類のプロットを踏まえて、各状況でそれらが必要なのかどうかを考えてみます。状況は以下の5パターンです。Aはデビュー前、Bはデビュー後を表しています。ここでいう「デビュー」は「小説を執筆することでなんらかの形でまとまった利益が得られるようになること」を意味し、「まとまった利益」がどのくらいかは本人の主観的判断に基づくものとします。

細かく見ていきます。

A-1デビュー前(公募狙い)

新人賞などに作品を応募し受賞デビューを狙っている状態です。この時点で必要なのは応募原稿(と数百文字のあらすじ)なので、②他人用プロットは不要です。①自分用プロットは、事前の情報整理なしに本文を完成させられるのであれば不要です。そうでなければ(事前に情報を整理しないと本文を完成させられない、あるいは整理したほうがより良い作品に仕上げられるのであれば)作ったほうがいいでしょう。本人の資質、あるいはそのとき書く作品のタイプによって変わってきます。

A-2デビュー前(ウェブからの書籍化、あるいはインセンティブ狙い)

小説投稿サイトに作品を投稿し、書籍化の声がかかるのを待つ、あるいは購読数を増やしてインセンティブ増加を狙っている状態です。この時点でも小説本文(とタイトルとあらすじ)があればよく②他人用プロットは不要です。①自分用プロットも A-1と同じ理由であってもなくても良いでしょう。

A-1と違うのは、インセンティブ増加のために購読数を増やしたい場合、また書籍化狙いの中でもランキングの上位に行くことで編集者の目に留まる戦略の場合は、読者の反応でストーリーの展開を変化させる必要があるかもしれない点です。

ストーリー展開を途中で変化させていく場合⑴自由に展開を変化させられるように自分用プロットを作らない、⑵展開を変化させつつ自分の狙い通りの着地点に話を進めるために大まかな流れだけの自分用プロット、あるいは何通りかのパターンの展開を決めた自分用プロットを作っておく、の2種類のやり方が考えられます。

A-1・A-2についての補足

A-1とA-2は完全に区分できるわけではなく、例えば公募だけど小説投稿サイトに投稿してポイント数で一次選考が行われるとか、ウェブからの書籍化だけどポイントと無関係に一冊の本になったときにまとまりがあるような作品を探している編集さんに見つけてもらいたいとか、両者の要素が混ざり合うような中間点があります。

また、一般に公募作品につけるあらすじは最後のオチまで書いたもので、選考者に「作者が自分の書いた物語の構成を把握しているかどうか」の判断をしてもらうためのものであることが多い一方、小説投稿サイトのあらすじは特に決まりはなく、読者に作品を読ませたいと思わせるような煽り・キャッチフレーズ的要素が強いという違いがあります。

そういう意味では、小説投稿サイトのあらすじは②他人用プロットに近いと言えなくもないでしょう。

B-1デビュー後(担当さんと続巻や企画を作る)

受賞、書籍化などなんらかの形でデビューし、出版社等の担当さんと次の作品を出そうという話になった場合です(続巻、新作に関わらず、小説投稿サイトに掲載済みの作品を大きな修正、それに伴う相談なしに書籍化する場合は次のB-2に該当します)。

ここで初めて②他人用プロットが必要になってきます。続巻にせよ新作にせよ、新しく本を出したいという場合「こういう話を御社で本にしたら商売になると思うのですがいかがでしょうか」という交渉をすることになりますので、それが商売に足るかどうか(利益を出せそうかどうか)を簡潔に判断してもらわないといけないからです。

ここで、本文がすでにあるかどうかは別問題です。なぜなら、本文がすでにあろうがなかろうが、担当さん(やさらに上の企画に可否を出す出版社の人)は忙しいので、企画としてアリかどうか不明な小説本文を読むのにに1〜2時間(あるいはそれ以上)の時間を費やすのは無駄だからです。企画書であれば(通常は)10分程度で読めますので読んでもらえる可能性は高いでしょう。

ここで「本文を突然渡しても読んでもらえる」パターンがあるのですが、それについては後回しにします。

では①自分用プロットはどうかというと、作家本人の条件としてはデビュー前と変わりません。本人の資質やそのとき書く作品のタイプによって、本文執筆前に情報整理としてのプロットが必要かどうかが変わってきます。

ただ、デビュー前と違うところは、担当さんが個人的に(企画書ではなく設計図としての)プロットを求める場合があることです。これは、どういう展開になるのかを本文執筆前に共有して、編集部的にNGな展開や描写を避けたり、設計図段階で改善できるところを指摘したりするのが目的です。本文を書き上げてからこの作業をするより、作家も編集者も楽です。

この場合、自分以外の人間が読んでも意味がわかる、ある程度形の整ったプロットを作成する必要があります。いわば他人用の「自分用プロット」です。

この「設計図」を「企画書」と別に求めるかどうかは担当さんによって変わりますが、ライトノベル(特に投稿サイトからの書籍化ではなく企画から担当さんと一緒に作っていく場合)では求められることが多いので「あったほうがいい」と考えます。

また、担当さんによっては作家が提出した①自分用プロットをもとに企画書を作って編集会議に出してくれる人、「自分用プロット」をそのまま編集会議で使う人(この場合口頭でのプレゼンをがんばってくれているのだと想像できます)もいます。この場合作家から見ると②他人用プロットは不要のように思えますが、たまたま担当さんサイドに回っているだけで、他人用プロットが必要な場面が消えたわけではないので、「いる」という判断が安全側と考えます。

B-2デビュー後(ウェブで引き続き書籍化、インセンティブを狙う)

こちらについては(プロットに関しては)A-2デビュー前(ウェブからの書籍化、あるいはインセンティブ狙い)と条件は変わりません。したがって、①自分用プロットはあってもなくてもよく、②他人用プロットはいりません。

B-2デビュー後(ウェブで引き続き書籍化、インセンティブを狙う)

こちらについては(プロットに関しては)A-2デビュー前(ウェブからの書籍化、あるいはインセンティブ狙い)と条件は変わりません。したがって、①自分用プロットはあってもなくてもよく、②他人用プロットはいりません。

B-3デビュー後(その他。漫画原作やゲームシナリオなどに挑戦)

「小説執筆」ではないですが、小説家としてデビューした後このルートに入ることも(特に最近は)多いので状況の一つとして加えておきます。ちなみにここでいう「漫画原作」はすでに存在する小説をコミカライズするという意味ではなく、漫画を「原作/作画」等分業で制作する場合の「原作」の仕事をするという意味になります。

この場合、①自分用プロット、②他人用プロットの両方が必要になります。

②他人用プロットに関しては、B-1デビュー後(担当さんと続巻や企画を作る)と条件が近いためわかりやすいかと思います。媒体が小説から漫画やゲームに変わっただけであり「それが商売になるかどうかを、完成品を見るよりも少ない手間で判断してもらう」というプロセスはどちらにしろ必要だからです。

①自分用プロットに関してはどうでしょう。これはB-1デビュー後(担当さんと続巻や企画を作る)と同じ理由で、必要になります。

B-1では担当さんが求める場合に必要になるとしましたが、B-3ではほぼ確実に必要になります。

なぜかというと、B-1では担当さんからの指摘などで内容を変更することがあるとはいえ、実際に作品を作る(小説を執筆する)工程にかかわるのは作家本人だけであるのに対して、B-3では作家以外の人間が工程に直接関わることになるからです。

いわば「自分用プロット」の「自分」が複数人存在することになりますので、その間で作品の設計図を共有する必要があります。

B-3の例外として、①にしろ②にしろ、ほかの人がプロットを作成しており、作家本人はシナリオを作るだけ、というような場合にはプロットは不要です。

3例外について

状況による場合分けについては以上ですが、2点例外について挙げておきます。

例外1:人気による違い(超売れっ子とそれ以外)

その作家が超売れっ子だった場合には、B-1デビュー後(担当さんと続巻や企画を作る)で「いる」とした②他人用プロットが不要になる場合があります。なぜなら、この場合他人用プロット=企画書が必要な理由は、商売に足るかどうかを簡潔に判断してもらうためですので、企画書なしに商売になると判断できる場合は企画書を出す意味がありません(どういう宣伝をするか早めに決めるためなど、違った理由で企画書が必要になる場合はあるかと思います)

なので、非常に雑なくくりではありますが超売れっ子=「その作家名だけでどんな内容かにかかわらず(あるいは内容をチェックすることなしに)本を買ってくれる読者が大勢いる作家」であれば、②他人用プロットは不要である可能性が高くなるでしょう。

例外2:ジャンルによる違い(ラノベ、一般文芸、純文学)

また、ラノベに比べ一般文芸、またさらに純文学になると、プロット(特に②他人用プロット)を必要とされることは減るようです(そちらでの仕事経験があまりなく、知り合いも少ないので外部からの観察に基づく推測です)。

大きな理由としては二点考えられます。

一点は、ラノベが他の文芸に比べイラストレーターさんに依頼するものが多く(表紙イラストの他にカラーイラスト、本文挿絵など)費用が高いことから、企画内容を事前に詰めておく必要性が高いため。

もう一点は、一般文芸や純文学は「設計図」や「企画書」をもとにしない作り方を特色とし、またそれが求められる率が高いため(特に純文学)です。

まとめ

結論を簡単に述べると、プロットは二種類あり、それぞれ場合によって必要な状況、不要な状況があります。

状況はさらに細分化しようと思えばできますし、これ以外のパターンも、また例外もさまざまにあるでしょう。だから「プロットは必要か」という問いに一言で答えるのは大変難しいです。

ただ一つ言えることは「作れるようにしておいたほうが得をする可能性は高い」ということです。

今現在プロットが必要ない状況の人でも、状況が変わることがありますし、「自分が目指すポジションを考えればプロットは不要だな」という人でも、目指すものが変わることがあります。そしてそういう状況は突然訪れることがあり、そのときになってからプロットを作る練習を始めても間に合わないかもしれません。

ですので、余裕があるときに試しにプロットを作って、どんなものか感触を確かめておく、くらいのことはしておいて損はないのではないでしょうか(もちろん無理をして、現状で上手くいっている創作の手を止めてやるようなことではないと思います)

それでは皆様、良き創作ライフを!


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