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祖母のお好み焼き

わたしは共働き家庭に育ち、お食事はいつも祖母
が担当してくれていました。

食材は週末に一週間分まとめて段ボールいっぱい
になるまで両親が車で買い出し。祖母が冷蔵庫に
あるものを工夫して家族分を頭に思い描いて料理
していました。

時々振る舞われるメニューの一つに「お好み焼き
」がありました。祖母が焼くお好み焼きは大きな
ものを取り分けるのではなく、ひとりひとり別々
に焼くスタイル。当時のわが家はガス台を使用し
ていたのですが、コンロぐちは2つのみ。

けれど、家族5人分。

そんなことは祖母にとっては問題ではありません。
祖母はいつだって頭をフル回転させ、大活躍して
いました。

一枚いちまい、丁寧に焼いていては食卓で待つ家
族を待たせることになります。

策士な祖母は、キャベツなどまずは具材を準備し
ます。次に、2つのコンロの上に大きな鉄板をそ
れぞれに乗せ、共に火をつけ熱しておきます。

鉄板が熱くなったところで、1つは全ての具材を
野菜炒めの様に炒めます。もう1つの鉄板でお好
み焼きのクレープの様なものを焼きます。

クレープ状のものは薄いのですぐに焼けます。
この上に先に炒めておいた野菜等を乗せてはお好
み焼きを完成させていきます。

これなら早く出来上がりますよね。

本来は炒めないで野菜やお肉をクレープの上に乗
せて蒸し焼きするところを時短で数をこなすため
に工夫した祖母の知恵。

それでも父がいて、母がいて、兄がいて、わたし
がいます。

身体の弱い祖母はお好み焼きの日はお手製の前掛
けをキリっと締め、腕まくりをして一生懸命焼い
てくれていました。

「お婆ちゃんまだ?」

番が回って来ない兄はいつも催促していました。

「ほら!出来たよ!!!」

祖母の作るお好み焼きは冷蔵庫にあるあり合わせ
の具材で焼かれたモノ。特別豪華なものは何一つ
入っていません。

それでも皆お好み焼きの日は気持ちが高揚してワ
クワクしていました。兄のお好み焼きが焼きあが
れば次はわたしの番です。

わたしはいつも黙って準備から焼きあがるまでの
一部始終を一心に見ていました。楽しみよりも祖
母の手際の良さみたいなものをに何一つ見落とし
たくない気持ちがあったから。

家族を想い、一生懸命知恵を絞り、出来るだけ早
く美味しく食べさせたい気持ちがそこには詰まっ
ていました。

(やっぱりきょうもやっぱりお婆ちゃんのお好み
 焼きは美味しい。)

静かに自分のお好み焼きを食べていると、1枚目を
食べ終えているはずの兄の声が聞こえてきます。

「お好み焼きまだ?」

祖母の焼くお好み焼きは本当においしくて、お好み
焼きの日は、家族全員、二枚ずつ食べるのが恒例に
なっていました。

「チョッと待ちんさいよぉ。」
「直ぐ焼けるけんねぇ。」

わたし達が全員一枚ずつ食べ終えていても祖母は
自分が食べる暇なんてありません。
だって皆、二枚目を心待ちにしているのです。

家族全員が二枚目を食べ終える頃、やっと祖母は
残りの具材でチャチャっと自分の食事を済ませて
いたのではないでしょうか。

当時の記憶に、祖母がお好み焼きを食べていると
ころがないのです。

この頃、曾祖父も祖父も健在でした。
しかし、わが家では皆とは別に先に食べる習慣が
あり、煮物やお造りなどを別に準備していたので
はないかと思います。

自分自身の身体も弱いのに、外に働きに出るコト
が出来ない分、食事の支度くらいはしようとして
いた祖母の思いやり。

本当は身体が弱いのだから、祖母こそ栄養のある
お造りを日々食べて体力をつけていなくてはなら
ないのに、自分はいつも控えているようなヒト。

そんな身体でいつだってわたし達を第一優先で大
事にしてくれていました。

だからなのか、祖母の作るお料理は何だって美味
しくて、誰一人、食べ残しなんてしたことがあり
ませんでした。

少し話は変わるのですが、わたしは大人になり、
出張先で1人で入れるお店がなく、高級寿司屋さ
んに入ったことがあります。せっかくこんな高級
店に入ったのだからと、カウンター越しに板長さ
んにお伺いしたことがあります。

「お料理のヒケツを一つだけ教えてください。」

こんな高級店の板長さんはどんなヒケツをお持ち
なのか、ワクワクしていました。すると彼はこう
答えてくださったのです。

食べてくださる大切な方を想い、ひと手間かけ
 ることですよ。

「特別な仕掛けなんてないんです。」
その想いがお料理をおいしくするんです。
「家に帰られたら、ぜひ試してみて下さい。」

板長さんは優しく教えてくださいました。わたし
は少し拍子抜けしつつも、深く納得しました。

だから祖母の作るお料理は美味しかったのだと。
大切なのはテクニックでも高級食材でもない。

食べるヒトを想う気持ち。

わたしは祖母とこの板長さんから
大切なお料理のヒケツを学びました。

↑ お好み焼きイメージ図

~かおのことが気になるあなたへ~
分かりやすそうに見えて、
なにか掴みどころがないと言われるわたし。
他のnoteも手にとってみてくださいね。
そこにヒントがあるかもしれません。
大切にしてきたベースとなる考え方などお話して
います。どうぞこちらもご覧くださいね。


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