やる気と下心ナシが大事?『下流の宴』から見えたもの

ちょっと古い本だけど、林真理子さんの『下流の宴』を読んだ。

医者の娘で地方の国立大学を卒業、早稲田卒の夫を持ったことに強いプライド意識のある母・福原由美子。高学歴で高収入の夫を見つけることに命をかける娘・可奈。そして、高校を中退して何事にも無気力、お金にも執着のない息子・翔。そして、その恋人で、沖縄の農家生まれで専門学校卒の珠緒。翔と珠緒の結婚を、由美子は「家の格の違い」から認めず、珠緒が「なら医者になる!」と宣言、医学部受験に向けて勉強するというお話。

実は昔一度この本は読んだことがあって、その時はただの由美子と珠緒のプライドのぶつかり合いの話で「むかつくお母さん見返したぜやったね!」としか思っていなかったんだけど、今回読んでみて、この本は「人生やる気と人とのいいつながりさえあればなんとかなる」というメッセージが込められているんじゃないのかな、と思った。

まず、成功例。言うまでもなく珠緒。珠緒は、医学部に入る動機は「彼氏の母親の鼻を明かして、彼氏と結婚する」という不純なものだけど、逆にそれがいい方向に働いてとってもやる気を出している。朝から晩まで睡眠時間を削りながら勉強している。

そして、珠緒の医学部合格に欠かせないのが、周りの人の支え。東大生の元彼を紹介してくれた、バイト先の常連さん。その東大生の同級生の、凄腕予備校経営者。人とのつながりで予備校までたどり着いて合格への道につながった。ここで重要なのが、最初から紹介してもらうことを目的にして常連さんと仲良くしていたわけではないこと。自分の力で築き上げてきた人間関係が広がって、いい方向につながっていった。

次に失敗例。やる気に関しては翔。何が原因になったかは詳しく描写されていないけれど、高校を中退してからはずっとフリーター生活。しかも、お金も欲しがらず、先のことも考えずに現状維持。翔自身は満足しているみたいだから一概に失敗とは言えないけれど、世間的に見たらやっぱり失敗。

そして、人間関係の失敗例は可奈。人間関係を広げていくという点では珠緒と同じだけれど、可奈は最初から目的を持って人間関係を広げていくところが異なっている。ともかく高学歴で高収入の男を得たい。そのために名門女子大に入り、内定を蹴って派遣会社に入り、美しさを保つ努力を忘れない。でも、その結果は夫がうつ病で会社をクビに。地方の実家に帰り姑と同居生活。

珠緒と翔・可奈を比較していくと、成功したのには「やる気」と「下心のない人間関係」があると言えるんじゃないかな。私は、やる気はそこそこある方だし、下心を持つほどすごい人が周りにいないけれど、社会に出たら人間関係の方が心配だなって。やっぱり偉い人とかいたら下心持っちゃうかも。おこぼれ欲しいし。でも、可奈みたいにはなりたくないし、下心のある人間関係って対等じゃないから相手を立てなきゃいけなくて疲れちゃいそうだから、下心を持って人と接するのはできるだけしたくないな。

今まで林真理子さんの本ってバブル感とか生々しい女らしさが際立っていたからそういうイメージだったけれど、少し考えてみるといつの時代にも通じる教訓みたいなのも見えてくるなって思った。もうちょっと考えながら、他の林真理子さんの作品を読んでみたいな。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?