既婚トランス女性の妻たちの思い
これまで私と同じ立場(既婚トランス女性の妻)の方たちとお話した時に、皆さん共通の悲しさを持っているんだなぁと感じたことがあります。
それは様々ありますが、その中でも印象に残ったのは「夫婦で同じことを喜べなくなったこと」でした。
自分にとっては「夫」である「トランス女性」が性別移行を始めていくと、女性ホルモン治療により体や心が変化していったり、またそれに伴って法的なことも変更していったり、と妻にとっても大きな変化が訪れるようになります。
「女性らしい体つきになってきた」
「初対面の人に女性だと認識された」
当事者にとってはこういった一つひとつがとてつもない喜びなのですが、妻としては戸惑いでしかなく、素直に一緒に喜ぶことができません。
そしてこれまでの(夫が男性だった時の)夫婦関係とは、当たり前に相手の喜びは自分の喜びで、相手の悲しみは自分の悲しみだったことに気づかされます。深く考えることもなくそれが夫婦であり家族の日常だったのだなと。
私の場合で特に思い出すのは、元夫の改名が法的に認められた時です。女性らしい名前に改名する際には「性同一性障害の確定診断書」や「通名を使用している実績を証明するもの」などいくつか必要な書類がありますが、既婚者の場合はそれに加えて「家族は賛成しているのか」が問われる場合があります。
なので元夫が改名する際に「改名する際に家族は賛成してるのかってのが大事なんだけど、賛成してるって言っていい?」と聞かれ、
私は「賛成はしてません。予定していた時期よりもかなり早く改名手続きが進んでるので、気持ちが追いついていません」
と答えました。
以前にも書いたように、元夫は焦って女性化を進めていたので、改名手続きも夫婦で話し合って決めた期日よりもかなり早く進めてしまい、私の気持ちはまだ全く追いついていませんでした。
ですがはっきりと「反対です」と言ってしまったら改名が通らない可能性もある。元夫はものすごく悲しむでしょう。それが分かっているから言えません。なので私にとっての精一杯の返答が「賛成はしていない」でした。
元夫も「そうか、じゃ今回は通らないかも…しょうがない」と手続きに向かっていきました。
ですが後日、元夫は「改名が認められたよ!みかたのおかげ!ありがとう!」と大興奮で帰ってきました。
「なんで私のおかげなの?」と不思議に思いましたが、
「明確に『家族に反対されている』と言ったらさすがにダメだったと思う。だからみかたのおかげ」だと。
おそらく「賛成はしていない」=「反対もしていない」と元夫の中で合理化し、裁判官にもそう伝えたのだと思います。どうしても改名したいのですから、最大限自分にとって不利にならないような表現にしたのでしょう。元夫の行った裁判所は、家族の同意については口頭だけで良かったようです。
とてもとても複雑でした。夫が改名できたと大興奮で喜んでいる。さらに私のおかげだとも言っている。でも私は心の底から喜ぶことはできません。一緒に喜びを分かち合えない寂しさを感じました。
同じ立場の奥さんたちに聞いた話では、
「我が家の場合は夫が何年も時間をかけてくれたから、もう見た目の女性化がかなり進んでいて、むしろ名前を変えないと本人も生活しづらいだろうと私も感じて『妻も同意しています』と一筆書いたよ。年月をかけて誰が見ても女性にしか見えなくなると、もうしょうがないと認めるしかなくなる」
と話してくれた方もいましたし、
「うちの場合も私の気持ちを待つことなく勝手に進められてしまう。だけど反対はできないから何でも『我慢する』と答えている。でもいつ自分の思いが爆発するかが怖い」
と言っている方もいました。
夫がトランス女性となってしまっても一緒に歩んでいかれている奥さんたちは、こういったことをいくつも経験しながら、心の底から喜べないことだらけだった時期を乗り越えて、強い絆をつくっていかれたのだと思います。
最後まで読んでいただき、ありがとうございました。
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