見出し画像

坊っちゃん文学賞表彰式に行ってきた(2023年2月21日)

今回、『メトロポリスの卵』というショートショート作品で、第19回坊っちゃん文学賞佳作を受賞しました。
松山市で催された表彰式に行って来ましたので、思い出と備忘録を兼ねて、簡単に残しておこうと思います。
それと、私は出発前に高野ユタさん(第16回大賞)の書かれた表彰式の記事を読ませて頂き、「こういう感じなんだ」とだいぶ気が楽になったので、次回以降に表彰式に出られる方の参考になれば、と。

私は昨年、一昨年も佳作を受賞しています。
第17回(2020)『家の家出』
第18回(2021)『どっちつかズ』
ですが、この2回とも新型コロナのためにリモート表彰式でした。
さすがに2年続けて松山に行けず悔しかったので、じつは昨年夏に家族旅行で松山に行ってしまいました。
この時はもう坊っちゃん文学賞に応募するつもりがなかったので。
市役所も写真を撮って「とうとう縁がなかった……」とシミジミしました。
それが今回、3回目にしてようやく、その市役所での式に出席できるとは。
なんというか、人生ってごくたまに奇跡みたいなことが起きますね。

さすがに3回目なので、ちょっとくらい贅沢しても良かろうと思い、松山に前日入りして道後温泉の旅館に泊まりました。
すでに松山城や道後温泉本館、飛鳥乃湯など、観光地はひと通り回っていたので、今回はぼんやり過ごしたいなと。
ちなみに航空券は事務局が希望に合わせて用意してくださいます。宿泊は自分で手配しました。

家族旅行はレンタカーで移動していたので、今回はひとりで市内電車(路面電車)に乗りたいと思っていました。
空港リムジンバスを松山市駅で降り、市内電車に乗り換え、終点の道後温泉に向かいました。
ちなみに松山市駅は伊予鉄の駅で、駅前はとても栄えています。JR松山駅もありますが、こちらはほぼ駅舎のみ。
東京近郊に住んでいると、つい「JRのほうが栄えてるでしょ」と思いがちなので、ご注意ください。
松山市駅前で坊っちゃん列車ミュージアムに立ち寄ったのですが、入口がわからず戸惑っていたら、なんとスターバックスの奥にありました。
機関車の原寸大レプリカのすぐ横でカフェタイムを楽しむ松山の人々は、なんだかとてもお洒落でした。

私は神奈川在住なので江ノ電にたまに乗りますが、松山の路面電車はまた違う風情があって、とても好きです。
料金も一律180円なのでわかりやすいです。車内に両替機もあるので安心。
ちなみに伊予鉄のICカードしか使えません。
Suicaも駄目です。Suicaをかざして戸惑っている旅行者をちらほら見かけました。とにかく180円を握りしめて乗りましょう。
路面電車は市民(制服姿の小学生が可愛かった)と観光客が混じり合い、乗降する人数で繁華街もわかったりして、面白かったです。

道後温泉では、ハイカラ通りを気ままに歩き回って過ごしました。
前日入りして良かったなと思ったのは、夜の風景も見られたことです。
温泉街の夜って、独特な艶やかさと寂しさがありますよね。

旅館の大浴場がほぼ貸し切り状態でゆっくりできました。たぶん皆さん、道後温泉本館や飛鳥乃湯などへ行っているのでしょう。
明日の受賞コメントを考えなければいけないのですが、3回目になるともう何を言ったらいいかわからず、寝る間際まで先延ばしにしていました。
よく考えたら、ひとりで旅館やホテルに泊まるのは数十年ぶりでした。
いつも足元で寝ている犬がいなくて寂しいし、ひとりには広すぎる和室(広縁や書斎みたいな小部屋もあった)で、怖くて電気を消さないで寝たのは秘密です。

翌日、集合は市役所に12時でした。
チェックアウトは10時なので、時間までハイカラ通りのカフェに入ろうかと思ったりしましたが、スーツケースもあるし、さすがにちょっと緊張して来たので、ひとりで過ごしたい気分でした。
旅館の庭園や、かつて皇族が宿泊された部屋を復元した展示室を覗いたりと、まったり過ごしました。

こういう時に困ってしまうのですが……私は普段けっこう時間ギリギリで行動しているため、果たして集合場所に何分前に着くのが大人として正しいのか? よくわからないのです。
私の感覚では15分前でOKですが、さすがに長く生きているので知っているのです、世の大人たちは予想以上に早く来るということを!
それにSNSで、他の最終候補の方々もすでに松山入りしているのを知っていました。
前日の飛行機が遅れた記憶もあり、道路が渋滞している可能性も考えて、私は早めに旅館を出ることにしました。
市役所まではタクシーで15分ほどでした。
結果、集合時間の40分前に着いてしまいました。
まだ控え室も開いておらず、わざわざ開けていただきました。
当然、誰も来ていません。
大人って難しい……

でもほんの10分ほどで、霜月透子さんが到着されました。
霜月さんも3回目のノミネートです。同じ神奈川在住ということもあり、じつは昨年、直接お会いしていました。
面識のある方がいらしたので、一気にリラックスできました。
その後、続々と他の方々も到着されました。
じつは今回の候補者の方は、全員、あらかじめ知っている方ばかりでした。
草間小鳥子さんと中乃森豊さんとはオンラインでお会いしたことがあり、そるとばたあさんとはTwitterで繋がっていて共通の知人もいます。内池陽奈さんは最終候補発表の後に、やはりTwitterでご挨拶いただいていました。
全員知っているという、この安心感!!
とは言え、直接対面したのは初めての方ばかりなのですが、なぜか人見知りの私でも全然緊張することもなく、とにかく皆さん話しやすい方ばかりでした。久しぶりに集まった親戚、みたいな親しさを勝手に感じてしまいました。
SNSのお蔭もあるのでしょうが、それだけではなく、ショートショートならではの創作者同士の強くて温かな繋がりがあるように思います。
あと、やっぱり皆さん、ショートショートの鉄人だなぁと。
とくに中乃森さんの今年の応募作品数はちょっともう……鳥肌が立ちました。ざっと計算しても月に2~3作品を1年間継続的に投稿していたことになります。
他の方のお話も、なごやかな中にも積み上げて来た厚みを感じるものばかりで、この控え室に来られただけでも、3年間書き続けた甲斐があったなと思いました。

表彰式は市役所の最上階、予想以上に広い会場でした。
ようやく直接お会いできた野志市長、田丸審査委員長、山戸さん、大原さんが、並んで座っておられます。目の前は報道陣と関係者の皆さんがずらり。
大賞は、そるとばたあさんの『ジャイアントキリン群』。
私はこの大賞発表の瞬間を今まで3回見て来たのですが、3回とも受賞者の方は、発表直後に数秒間、沈黙をされています。
おそらく様々な感情が胸に湧いてらっしゃるのでしょう。その沈黙の数秒間が本当に、なんというか、時間を止めて結晶化させたみたいに透き通っていて美しいのです。
そるとばたあさんも、それはそれは美しい沈黙でした。
身内でもないのに誰かの人生が変わる瞬間に立ち会えるなんて、とても幸運な体験をさせていただきました。
いつか、この沈黙の瞬間を描ききる筆力を身につけたいものです。

表彰式の後は場所を移して、懇親会を開いていただきました。
文化・ことば課の担当の方とも、ようやくご挨拶できました。
大原さんは残念ながら喉のリハビリ中で喋れないとのことでしたが、お顔だけ出してくださって、なんと!受賞者全員をハグしてくださいました!
きゃーきゃー。めちゃくちゃ良い香り!
そうそう、トロフィー授与の時、私は大原さんから頂いたのですが、手話で何度も「おめでとう」「好きです」と伝えてくださって嬉しかったです。
田丸先生は、皆さんご存知の通り、本当にいつも前向きな言葉を掛けてくださって、とにかく褒めてくださいます。
今回の私の作品を『立派なSF作品ですよ』と言ってくださったのが、心から嬉しかったです。
私はSF大好きなのですが(もちろんファンタジーも)、完全なる文系出身なので、やはり私にはSFは書けないかもしれない……と挫折していたところだったのです。
「今のお言葉、録音していいですか?」と冗談で言ってみたりしたのですが、本気で録音してくれば良かった!
山戸さんも口調はキュートでほんわかされているのに、とても本質的な鋭いことを仰っていて、作品に対して真摯な方だなと感じ入りました。
黒ドレスにスカジャン羽織ってらっしゃいました。かっこいい。

田丸先生からショートショートの過去と現状、これからの可能性についてお話いただいたり、皆さんのショートショートに対する考えを聞いたりと、本当に有意義な時間を過ごすことができました。
お話を聞いている中で、私もそろそろ自分なりに次のステージを見つけないといけないな、と強く感じました。
私は坊っちゃん文学賞に応募したところからショートショートを書き始めたので、正直なところ、自分がショートショートに向いているのか、ショートショートでしか書けないものが何なのか、それすらまだよく掴めていません。
おそらく、この先も掴めないまま書いていくのだろうと思いますが、いずれ何らかの形で坊っちゃん文学賞に恩返しができたらと思っています。

帰りの飛行機は草間さんと一緒で、偶然にも席は通路を挟んだ隣でした。
座るやいなや「次の公募作品を書きたいので」とノートパソコンを叩いてらっしゃいました。いやほんと鉄人すぎる。
「うそだろ……表彰式終わったばっかだぜ……?」と心の中で思いつつ、私はただぼんやりと羽田空港へと向かいました。
自宅に着いたのは夜9時前でしたが、家族と犬がケーキを買って待っていてくれました。

最後になりますが、松山市役所および事務局の方々、何から何までフォローして頂きまして、本当にありがとうございました。
ちょうど4000字になりましたので、ここで終わります。

東日本では手に入らないカール!(もちろん買って帰った)


いただいたサポートは新作の取材費用に使わせていただきます。 どうぞよろしくお願いいたします🌙